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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
異世界召喚編
6/24

2-2

「ふぇ!? レー様なんでこんな時間に格納庫に!?

 というかそのでっかくて怖そうな人誰ですか!?」


「なぁ、レオ。ここは格納庫なんだよな?」



 廊下を暫く歩いてやって来た格納庫で、ガイトの目の前に

広がったのは大方予想通りの中に異物が混じった光景だ。


 VRゲーム【ドラグーンエイジ】で良く見たSFロボット

物の格納庫をスチームパンクで飾ったような格納庫。魔法と

言うより錬金術の空気が漂う空間。


 ただしそこにいるのは技師や錬金術師ではなくメイド。

片側10機、合計20機程の魔導機兵が整備出来る空間の

中で5~6名のメイドが7機の機体を整備している。



「ああ、間違いなく格納庫。まぁ整備員は全員メイドだけど

 僕が打ち込んでるから腕は一流レベルだから安心して?」


「レ、レーさまぁ…… その、何なんですか?」


 

 目の前のメイド風の女性が恐る恐るレオに話かけている。

黒髪ロングの黒目で、恐らくはガイトと同い年程度。日本の

メイドカフェにいれば間違いなく看板娘扱いされるレベルの

美人である。



「ああ、彼はガイト=オード。今僕が召喚した日本人だ」


「ふ、ふぇ!? 日本からの!?」



 メイドがガイトを見る目が変わる。不審者を見る目から

自分より立場が上の人間を見る物にシフトした。



「ガイト、彼女がこの屋敷に住み込んでいる唯一の人間で

 メイド長のミリリリア=ミリアスだ。基本的には屋敷と

 魔導機兵の管理を担ってると思って間違いはないかな?」


「ミリリリア、呼びにくいな。いやそれ以前に唯一って

 どういう事だ、後ろの方にも何人かメイドの姿が見える

 んだけどよ?」



 奥の方にはミリリリアと紹介された少女よりシンプルな

メイド服を着た少女達が働いているのが見て取れる。



「自動人形って奴、ゲーム中でもそういうのあっただろ?

 異世界転生した後、ゲームで使ってた子をこっちでも

 再現したんだよ」



 確かにレオがそういうNPCを9人程侍らせていたのを

思い出す。良く見れば機械の様に精密な動きと流れるような

コンビネーションは人間というよりは人形めいていた。



「まぁ、向こうの自動人形の方は24時間深夜でも働かせて

 問題なさそうだけど、こっちのメイド長なミリリリア?

 あれ? リは何個だ? とにかくこんな深夜まで働かせて

 大丈夫なのか?」



 この世界に労働基準法は存在しない。更にいえば竜の群が

近づいてきている緊急事態である以上ある程度の無茶を通す

必要があるのかもしれない。


 しかし現在進行形でこの領地で竜の群が暴れまわっている

ようにも見えない。話に聞いている竜の群が暴れまわって

いるなら7機の機体を整備している余裕はない筈だ。



「ああ、いつもこんなものですよ。そもそも屋敷の手入れ

 をするとき以外はこの格納庫に詰めておりますので」


「ああ、つまり魔導機兵狂いと?」


「あー、そうでは無くて……」



 ミリリリアと呼ばれたメイドは困った顔で頬をかき、

そして恥ずかしそうな顔で答えを口にする。



「魔導力の匂いを嗅ぐと落ち着くんです、手元に竜が来ても

 抵抗できるだけの力があるんだって、そう思えますから」


「まぁ、こんな感じだから他の処では雇ってもらえなくてさ

 何より数少ないこの世界で僕が信用できる人間だしね?」



 良く見ると格納庫の一部が区画されて恐らくミリリリアの

私室として使われているのだろう。何か複雑な事情があると

察せられるがレオが気にしていないなら問題は無さそうだ。



「それじゃ、ミリリリア。ちょっとガイトに機体を

 見せるだけだから、寝たいのなら寝ててもいいよ?」


「分かりました、それでは遠慮なくお休みしますね?」



 それでは~ と頭を下げて格納庫内の私室にミリリリアは

引っ込んだ。ガチャガチャとかなり大きな音が響いていて

眠れるようには思えない。


 だが彼女にとっては騒音があっても魔導力の匂いがあった

方が眠れるのだろう。



「なんというか、独特だな?」


「まぁ、僕についてこられるくらいには独特かな?」



 そのまま奥に進んでいく。格納庫の右に重装甲の機体が

5機、左側に高機動型の機体が2機並んでいた。



「って、ガンフォルテにエアリズ!? どっちも下位扱いの

 魔導機兵じゃねぇか。スタンディスタはないのかよ?」



 ガンフォルテはプラティナウス諸侯連合国で一般的に

使用される魔導機兵であり、整備性と運用性の高さ、

そして十分な防御力から名機とされる機体である。


 ただしそれは安いコストで大量にそれなりの戦力を配備

できるという為政者側から見た感想であって、コストを

注ぎ込み機体を強化する人間からは性能の低さから単純に

ザコ機体として扱われている。


 奥の1機は改造機のようだが、それでも性能が中位に

届くという事はないだろう。


 エアリズの方は下位機体としては高い機動力を持つ為

十分に機体が用意出来ない時期、プレイヤーがサブマシン

として運用する事もあるがガイトの無茶な突撃に付き合える

だけの性能は無い。



「えらいいわれようだけど、スタンディスタはこっちじゃ

 王立騎士団の正式採用機で設計図は完全な国家機密だよ?

 生産職でもなんでもなかった僕じゃとても手が出ないよ」


「まぁ、言われてみればそうかもしれないけどよ……」



 確かにストーリーモードを最後までプレイして貰える

スタンディスタは平均的な機体である。しかし設定上は

国家が作り上げた最新鋭機なのだ。


 むしろ男爵領で10機近い魔導機兵を運用維持している

という事実を褒めるべきなのかもしれない。



「ただ、流石にガイトの機体はまだマシだよ?」



 そういって、レオは格納庫の先を示す。左側に並ぶ

エアリズ用ハンガーラックの一番奥。他の機体がレオの

トレードマークの赤に染められている中で黒に近い色を

纏った機体が立っていた。



「あの機体は……?」


「エアリズの改造機、装甲、整備性、継戦力、運動性。

 その他色んな物を犠牲にして中位竜に通用する火力を

 下位の魔導機兵に無理やり持たせた代物さ」



 エアリズと同じ細身の体を黒で飾り、ジャンクノート

と同じ単眼センサー。翼は戦闘機と似た鋭角でそこだけ

見るとSFロボットアニメの量産機のように見える。


 しかし両肩にサーコートの様に羽織ったマントがその

機体の印象を中世の鎧に引き戻している。



「魔導炉は?」


「C級のを直列にしたのを2個、ギリギリB級の出力は

 稼げてるけど数値的にはジャンクノートに使っていた

 炉心の半分、特性は最悪だと思って」


「総合的な防御力」


「立ち回りで攻撃を喰らわないことを前提にしてる。最低限

 下位竜のブレスなら両肩のマントで耐えられるけど1発

 こっきりの緊急手段だと思っていい」


「メインウェポンは?」


「ガイトが使ってた突撃剣槍は用意出来なかったから、

 クレイモアの柄をスピアのそれと交換したのを用意。

 補強は十分にしてるけど強引に使いすぎると分解する

 可能性は否定できない」


「……最高速度は?」


「亜音速が限度、瞬発力はあるけど運動性はお察しかな」



 話を聞けば聞くほど特攻機としか思えない。こんな

機体に乗って戦場に出るのは死ねと言われるのと同じだ。


 今ある手持ちのカードで中位竜を倒せる戦力を整える

必要があったのは分かるが、ここまでは普通はしない。



「俺がこいつに乗るのを断ると思わなかったのか?」


「語るに落ちるって奴だね、ガイト笑ってるじゃない?」



 頬に手を伸ばす。確かに自分の口は笑っていた。こんな

ものに乗れば死ぬという実感も、死ぬのが怖いという実感も

確かに有る。実際に頬に伸ばした手は震えていたのだ。


 ただそれ以上にこんなものに乗らなければ解決できない

無茶で頼られているという実感から来る喜びと、ゲームで

無く本物の竜を叩きつぶせる期待の方がずっと大きい。



「明日の朝一でこいつを飛ばしてもいいか?」


「分かった、自動人形に準備をさせておくよ」



 レオは一瞬目を瞑り、作業をしていた自動人形が2体ほど

ガイトの為に用意された機体の方に走っていく。



「そういえばあの子の名前はどうするの?」


「あ? 名前まだ決めて居なかったのか?」


「ガイトに決めて貰おうと思ってたからさ」



 そう言われ頭をひねる。ジャンクノートを大幅に下回る

ジャンク未満の存在、そして目を凝らして見れば黒が薄い。

恐らく塗料不足で他の色と混ぜ合わせたのだろう。


 暗がりでこそ黒に見えるが、日の光に晒せば灰色なのだと

察する事が出来た。



「ジャンク以下の灰色、トラッシュアッシュで?」


「前々から思ってたけど、ネーミングセンスは無いね」



 そう笑いながら、二人で格納庫を出ようとした瞬間。

魔導炉に火が灯るのを感じて振り返る。丁度トラッシュ

アッシュと名付けた魔導機兵が起動し赤い単眼(モノアイ)がガイトの

方を向いた。


 それは偶然でしかなく魔導機兵には意志は存在しない。

そう分かっても尚ガイトはトラッシュアッシュが自分を

見定めようとしていると、そう思ったのだった。


次話は2016年01月18日(月)に投稿予定。

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