表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
異世界召喚編
4/24

1-4


(くそ、なんだこれ)



 頭がふらふらする。記憶が歪んでいる。ガイトは

虐められているレオを助けようと、いやそれは昔の

話だと頭を振るう。


 いや、確かにタスケテの四文字に対してイエスと

応えたことは確かで……



「ここは、どこだ……?」



 ゆっくりと目を開く、目の前に広がっている光景は

予想通りメット型VRドライバーのバイザー越しに

広がる見慣れた自分の部屋では無かった。



(服はさっきまで着て居たジャージで、周りの様子は――)

 


 目に映るのは中世ヨーロッパ風味の地下室。ただし学校の

教室程度の広さの部屋は濃密な蒸気で満ちており視界は悪い。


 だが周囲のピストンやシリンダーの動きが止まるにつれ

ゆっくりと視界は晴れていき蒸気機関と真空管を使った

計算機を組み合わせたような機械の姿が現れる。

 


「あ、うそ…… 本当に?」



 そして、自分の正面に人が居る事に気づく。

状況から見て十中八九レオである事は間違いないだろう。



「本当だぜ、お前が言ったんだろ。タスケテってな?」



 だが、何か違和感がある。背の高さは自分より頭一つ下。

これは問題ないがシルエットがおかしい、そして声が違う。



「ガイト、ガイトおぉぉぉっ!」



 声が違う。レオの声は確かに高かった。変声期を過ぎても

女声と呼ばれれコンプレックスだったのは知っている。

 だがこれは完全に――



「うぉっ! だぁっ! いきなり突っ込んで……」



 見つめる、見つめ合う。そこにいたのはやや線が細く

女装が似合うといわれ続けていたがちゃんと男だった

ガイトが知っているレオでは無かった。


 銀髪をツーサイドアップにまとめ、きめ細やかで白い

肌の上に、潤んだ切れ長の赤い瞳が目を引く美少女。


 服装は【ドラグーンエイジ】内で騎士階級の女性が

纏うバトルドレス。要するに童貞を殺す系の服に軍服と

アーマーを加えたようなものを纏っている。



「もしかして、アレか。お前…… レオか?」



 混乱する頭の中で、出てきた答えを口にする。

常識的に考えればありえない。髪の色も、瞳の色も

顔の造形も、そもそも性別すら違う。


 だが、それでも自分の中の直観が今抱きついて来た

少女が自分の親友だと叫んでいた。



「うん、そう…… 一応、まぁうん姿形は違うけど」



 体を押し付けながらレオを名乗る少女は言葉を続ける。

そう、確かに少女だった。ガイトと触れ合っている部分の

柔らかさ、全身に纏う香り、けれど同時に確かにレオで

あるという実感もありくらくらと頭が揺れる。



「どういう訳だ?」


「無理やり【ドラグーンエイジ】の世界…… じゃないか

 【ドラグーンエイジ】自体が召喚前にこの世界の知識を

 学ばせる為の物で…… 僕はこの世界に転生"させられた"」



 言葉に詰まる。転生させられた。意味は事は分かる。

生まれ変わったから少女になった、そう言う事なのだろう。


 そして赤肩が予想していたように【ドラグーンエイジ】

というゲームそのものが異世界召喚する相手を見極める為に

作られた、要するに召喚術式の一部と呼べる物だったのだ。



「生まれ変わって、今何歳だ?」


「16歳と半年、時間の進みが向こうの200倍だから」



 レオがいなくなってから1カ月、120カ月で10年

なので確かに計算は合うのだろう。合ってはいる。

ただ、一つだけ引っかかることがある。



「なぁ、転生させられたって事は……?」


「うん、獅戸礼央って人間は肉体的には殺されて、

 今はレオナ=L=ローシュタインって名前を

 名乗ってる」



 その言葉から、小学生の頃に虐められて居た時の弱さと

そして自分と一緒につるむようになってから得た強さの

その両方を感じる。


 何があったかは分からないが、こいつは追い詰められて

相手に殴り返したのは確かだ。 


 言葉の端々に、この少女とレオとの共通点があって

その一つ一つがガイトの確信を深めていく。



「じゃあ、初めに聞かせろ。何から助けて欲しいんだ?」



 聞きたい事は多い。転生させた相手をどうしたのか?

そもそもこの世界はどんな世界なのか、ドラグーンエイジと

同じドラグラドなのか、そうだとして年代はいつなのか。

味方がいるのか、居ないのか等々。


 けれどそんな事は重要ではなく、この少女は間違いなく

親友のレオであり、そして助けを求めているという事実だ。



「……今、僕の領地は竜の群に襲われている」



 レオの口から飛び出したのは予測の範囲内と呼べる危機。

貴族の領地を竜の群から救うのはドラグーンエイジにおける

ミッションとしてはよくあるパターン。



「群の規模と、今手持ちの戦力は?」



 そして重要なのが戦力比だ。もし【ドラグーンエイジ】

内の【ジャンクノート】を持ち込めるなら話は早い。

実質上位の攻撃力で大抵の問題は解決できる。


 しかし、ドラグーンエイジにおいて一般的な機体は弱い。

最高速度は時速2~300km/h、碌な射撃武器もなく

中位竜相手にダメージを通すことも難しい。その上装甲は

下位竜に群がられただけでボロボロになる。


 どれだけの数の何に対して、どれ程の戦力で挑めるのか。

それを理解しなければどう戦うかの答えは出ない。



「竜の群は中位1、下位60前後かな。戦力は

 状態の良い下位魔導機兵3、旧式が7機だけ」



 戦力比は想像以上に悪かった、先程まで行っていた

【ジャンクノート】と黄金竜との戦闘の方が勝ち目がある。

真正面から挑めばあっという間にこちらが負けるしかない。



「援軍の宛は?」


「周囲の家との関係は悪いから戦力の宛は一切ないよ?」



 つまり手持ちの戦力だけでどうにかしなければならない。

絶望的を通り越して、インポッシブルに突入している。 



「逃げるのは、論外か」


「そう、だね。その選択肢は取りたくない」



 理由は色々あるのだろう。領地を失い魔導機兵を運用する

基盤を失うデメリットが大きすぎる。傭兵として生きる為の

パトロンの宛がない。後は機体の数から考えるに1000人

近い領地に住む民を見捨てることが出来ない。


 敵の命ならともかく人の命を見捨てられる程レオは壊れた

人間では無い。敵の命を奪う事を躊躇わなくても後悔する

タイプなのだ。



「うし、じゃあ魔導機兵を見せろ。どうにか策を練る」


「うん…… ごめ、いや――」



 レオを名乗る少女が一歩下がる。蒸気が完全に晴れた

地下室で彼女は最高の笑みを浮かべ――



「ガイト、助けてくれてありがとう」



 と、ずっと前。小学生の時と同じ言葉を口にした。


次話の2-1は2016年01月17日(日)に投稿予定。

以後ストックが切れるまで2日に1回のペースで投稿していきます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ