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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
魔王復活編
23/24

6-3



「で、バリウスを偵察に出してこんな山の中で何を

 するつもりなんだよ。ごちゃごちゃ色々用意して」



 前日の昼にジャンクノートを用意すると宣言したレオ

はまず最初に鉱山の近くに召喚用の機械を設置した。


 言葉で表すと一言で済むが自動人形を使い大量の機材

を地下室から運び出し、それをエアリズを使って運んで

まだ採掘が行われていない場所に配置しなおす大仕事。


 当然お客様であるブレイズをもてなす余裕など無く、

その結果ガイトが領内の酒場に案内しエールで乾杯し、

更に子供達とサッカーをしたりと比較的健全な範囲で

おもてなしを行う羽目になった。


 サッカーが終わった後は屋敷に戻り10年物のワイン

を開けて騒いで飲み明かし、二日酔いでゆれる頭の中で

この世界では15歳から飲酒が認められているからと

飲むんじゃ無かったと後悔している処をミリリリアに

叩き起こされ鉱山の端っこに引っ張られ今に至る。


 2m程の高さを持つタンス大の装置がストーンヘンジ

の様に並べられた光景は、周囲の針葉樹の森と赤茶けた

鉱山とのコントラストの合間に異物を挟み込んだような

違和感を醸し出していた。


 更にその中央に数日前狩った竜の部位が並べられて

いる光景は悪魔かその眷属の召喚準備にしか見えない。



「そりゃ、召喚するんだよ。ジャンクノートを」



 その中心でレオは、いつもの胸を強調するフリル付

ブラウスにコルセットスカートの上から白衣を着込んで

作業をしている。

 

 本来白衣とは一種の萌要素としても扱われるが油汚れ

が目立つそれは実直な実用品でそういった気分を描き立

てるようなことはない。更に竜を腑分けした時に付着

した赤色エーテルが産む焦げ目のような跡も残っていた。



「レオ、なんか前に実態が無い物は召喚出来ないって

 聞いた記憶があるんだがその辺りはどうなんだよ?」


 

 こちらを見ずに作業を続けるレオに対してガイトは

ジト目で睨みつけながら質問する。もし最初から愛機を

召喚出来ていたなら緑竜程度一撃で撃破出来ていた。

 トラッシュアッシュでの戦闘は楽しかったがそれでも

無意味に危険に晒さればいい気分はしない。



「そうだね、量子データは実態を持って居ないから

 たとえ召喚したとしても保存する器が無いと利用

 する事が出来ずに霧散するって確かに言ったよ」



 この問いの向こう側にあるイライラとした気分に

気づかないままレオはウキウキと浮かれた様子で

魔道仕掛け(マジックパンク)な装置を弄りながら作業を続ける。

 良く見ると普段よりテンションが高く目の下にクマ

が出来ており、この様子だと一晩中寝ずに作業を続け

ていたのだろう。


 日本にいる時からレオはそうだった。テンションが

上がると相手そっちのけでハマり込んでしまう天才型。

ドラグーンエイジでヒートアップしたレオを放置して

ログアウトした事もあった。



「じゃあジャンクノートも器を用意すれば?」


「それ、機体を用意しているのと同じだからね。アイン

 を含む自動人形は思考ルーチンの方が貴重だったから

 意味があったけど魔導機兵の場合本体の方が貴重だし」



 レオはガイトの問い掛けに応えつつ召喚装置に近付き

ツマミを回してメーターを見ながら何かを調整している。

 パッと見た限りでは操縦席にあるレーダーに近いように

見えるので周囲の魔導力濃度を整えているのだろう。



「で、具体的には何をするんだ?」


「向こうから送ってもらった量子データをこの鉱山に

 眠っている鉱物を材料に肉付けして実体化させるの」


「なんで今までは出来なかったんだ?」



 内容を聞く限り、レオ一人でもやって出来ない事では

無さそうに感じられる。それこそ9体の自動人形を制御

するよりも余程簡単そうに思えた。



「召喚と実体化を1人の術者でこなすのは難易度が高い

 んだよ。召喚の方を向こう側に任せられるからこっち

 は実体化に全力を注ぎ込めるって訳」



 理屈としては理解出来るが、それでも気になる事が

幾つも思い浮かんでくる。ここで聞いたからといって

解決できないかもしれないが確かめずに後で大きな

問題になるよりはマシだ。



「素材の劣化みたいな問題は無いのか?」



 この鉱山の素材で再現されたジャンクノートの性能が

ゲーム時代のそれと同等であるという保障。もしも低い

場合、想定される敵戦力に抵抗する事は難しい。


 一番の問題はバスターバベル、性能は中位魔導機兵

相当だが、この世界において数少ない遠距離大火力を

持った魔導機兵。単機での脅威度は高く無くそれこそ

トラッシュアッシュでも戦い様はあるが、前衛に中位

魔導機兵が用意されれば脅威度は一気に跳ね上がる。


 1年近くの時間をかけてコツコツレア素材を揃えて

作ったジャンクノートには、上位竜の希少素材が多数

含まれている。ドラグーンエイジに魔導機兵設計用の

シミュレーターとしての側面がある事を考えるとその

不足から来る性能低下が致命傷になりかねない。


 

「竜由来の素材は中位と下位で代用するから質は下がる

 けど、金属由来の素材に関しては質が高くなるから

 トントンかな?」



 トラッシュアッシュの時よりずっと良い機体を用意

してもらっている途中なのに不安を感じるのはやはり

目の前に現物が有るか無いかという差なのだろう。


 どんなに性能が悪かろうが、10mを超える鋼の巨人

が持つ説得力は強い。逆に最高の愛機を今すぐ用意する

と言われても前提をひっくり返して無から有を取りだす

ような話をされれば信用するのは難しい。



(ああくそ、めんどくさいなぁ……)



 不安が様々な疑問を引きずり出す。ドラグーンエイジ

というゲームがこの世界に召喚する為の人間を教育して

選抜する為のシステムというのは事実だろう。


 だが魔導力で何が出来るのか、レオの周りで何がどう

トラブルになっているのか、自分の目と耳で確認した訳

では無く伝聞で聞いただけ。


 今自分が立って居る場所が何処なのか、今自分が何を

したいのか。そんな答えようのない疑問がグルグルと

頭の中を巡って消える。



(召喚直後は日本じゃ絶対生かされない自分の才能が

 活かされて社会的に認められるドラグラドで生きて

 たいって事しか考えてなかった)



 けれどそれじゃ足りない。自分達の周りにまとわり

ついている何かを吹き飛ばしたい。日本にいた頃は完全

に諦めて付き合っていこうと思っていたそれをまとめて

吹き飛ばしてしまいたい。



(それがブレイズの言っていた我儘を通すって事か?)



 その為には力が必要で、そしてその魔導機兵(チカラ)は自分

の物では無い。レオから与えられた借り物でしか無い。

そこまで考えて、今感じている不信感がレオに対する

コンプレックスから生まれた物だと実感出来た。


 そんな行き場の無い感情を持て余していると奥の方

からメイドの自動人形が顔を出す。アインの姿は見え

ないのはブレイズが起き出した時に対応する為に待機

しているかだろう。そして5人のメイドはそれぞれ

自分が担当する機械の前に待機する。



「それじゃ、ちょっと待っててねガイト。今から結構

 集中しないと不味い場面だから……術式発動まで後

 20、19、18――」



 レオが魔導端末の前でカウントダウンをスタート。

後ろから覗き込むと地球とドラグラドの時間が表示

されており地球側の時間は6月1日0時14分59秒

更に10分の1秒の桁まで9でに固まっていた。


 しかしその横にある100分の1秒は3、4、5と

カウントを刻んでいく。ペースは2秒に1回、時間の

速度さが200倍という事実を目の前に突きつけられ

2031年の日本を見ることが出来ないことを少しだけ

寂しく感じるがどちらのカウントも未来に向かって時を

刻んでいく。



「9、8、7、6――」



 レオのカウントする声に興奮の色が混じる。召喚用

装置が励起し周囲に赤色エーテルの粒子が漂い始めた。

アドレナリンと機械油とハッカをまぜこぜにしたような

独特な匂いが鼻をくすぐり、それにつられてガイトの

心拍数も上がるのを感じた。



「――2、1…… 召喚開始っ!」



 眼前が歪む、召喚機に囲まれた半径10m程の空間が

凹レンズで覗き込んだ光景の様に膨らんで、弾けそうに

なるそれをレオが笑みを浮かべたままレバーを捻り弁を

開放し、赤色のエーテルを撒き散らしながら抑え込む。



「ははっ、あははははっ! 予想通り、いや予想以上!

 これなら完璧に、完全なジャンクノートをこの世界に

 用意する事が出来る……ってもう予想以上に向こうの

 動きが、説明しないと」



 次の瞬間、歪んだ空間から黒い粒子があふれ出す。

見覚えのある黒、ドラグーンエイジというVRゲームの

中でいつも見ていた色、その色が一気に広がっていく。


 ぶつぶつとレオが何かを呟いているが、ガイトには

聞こえない。いや、聞く余裕が無い。歪んだ空間の中に

うっすらと何か黒い影が薄っているのが分かる。


 そこにノイズが走り、黒い影を切り取り形を作る。

徐々に見覚えのある姿が浮かびだす。


 肥大した右手には10mをはるかに超える巨大な槍。

左手には巨大な爪と巻き取り機構、両足は馬の様な蹄。

そしてその背には一対の翼。



 レオが何かを小声で喋っているが、その言葉はガイト

には向けられていない。その時――


 

 爆発的な魔導力の奔流が解き放たれ、黒い閃光が

目の前にそびえ立つ鉱山を削って喰らう。歪んだ空間

の上にぼんやりと実体を持たない形で出現している

ジャンクノートのフレームが、魔導管が、関節が、

量子データという仮想が鉄と竜の血肉を糧にこの世界

に生まれ落ち様としているのだ。


 

 そして、ズシンと重さを持ったジャンクノートが

この世界に産み落とされた。ゲームの時と同じ何度も

共に駆け抜けた愛機が目の前に存在していた。


 量子データによるVR(ゲンソウ)と現実、そこには確かに

違いがある。どこまで精密であってもデジタルな幻想

には埋められない溝があり、CGと現実を見分ける事

は難しいが5感全てを切り替えるVRだからこそその

差ははっきりと表れる。



 今まで感じていたモヤモヤが消えたわけでは無い、

けれどそれがレオから与えられた力だったとしても。

長い時間をかけて、ドラグーンエイジで作り上げた

愛機が今目の前に存在しているのなら。


 我を通す事が出来る、相手が仮に最上位の竜王

であったとしても槍を突き立て傷を負わせられる。



「それで、俺は何をすればいい?」



 不安はあるし、不満もある。けれどそれよりも

やれることをやるのが先決。問題の先送りでしか

無いが今物理的な問題が迫っている以上新たに

増やしても益は無い。



「ハグマール子爵の遠征騎士団の牽制」


「どこまでやって良い?」


「人死には出さないようにね?」



 相手ののメンツを言外の前提条件に込めた

一言に自分向きの仕事だとテンションを上げる。


 レオの戦い方はハッタリが効かない。細かな

牽制を積み重ね有利を引き寄せてひっくり返す

戦い方はインパクトに欠けている。その分相手に

無理な深追いを強いる事は得意だが武力を持って

脅すのには向かない。



「いつ頃だ?」


「今すぐ、現在進行形でバリウスが止めてるから

 試運転も無しに戦ってもらうことになるかなぁ」



 その言葉を聞いた瞬間ガイトはチョップを叩き込む。

ゴンと鈍い音が響きレオはしゃがみツーサイドアップに

まとめられた銀髪を揺らし上目づかいで睨む。



「なんでさ!?」


「急すぎるだろう、そのそもバリウスに説明は?」


「してないというか、こういう事態に陥った時に

 相手の意表を付けるかなぁって思って――」



 更に追撃でしゃがんだままのレオに対してチョップを

叩き込む。男のままだったらそのまま軽く蹴りを入れて

いたところだが今の見た目でやると犯罪にしか見え無く

なる、良くも悪くもガイトは男女差別主義者なのだ。



「間に合わなかったらどうする気だったんだよ!?」


「その時のプランは別に用意してたし!」



 はぁ、とガイトはため息をついた。割とレオは信頼を

重ねられたと思ったえげつない手を打つ事がある。

今回の様に碌に説明をしないまま、後で禍根が残るよう

な手でも平気で使ってしまう。


 そして毎度毎度、最終的にガイトの突破力や暴力で

解決するしか無い処まで追い込まれてしまうのだ。


 ガイト一人では何も出来ない。けれどレオ一人でも

最後まで辿りつ事は出来ないのだと、当たり前の事実を

思い出して口元に笑みが浮かんでいるのが分かる。



「ったく、帰ってきたらバリウスに謝れよ?」


「そりゃうん、考えれば確かに悪い事はしてた気が

 するけどさぁ。けどチョップ2連続は酷くない?」


「酷くねぇよ、男のままだったら顔面蹴りだったぞ?」



 うわぁ、ガイトなら本気でなるでしょそれと後ろで

騒ぐレオに手を振ってジャンクノートの足元に進む。

目の前の愛機は、VRの時と同じように静かにその上で

現実にある鉄の重みを持って主人を出迎えたのだった。


次回更新は来週の木金のどちらかで。

ちょっと小説以外の創作に注力するのでしばらく更新頻度が下がります。

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