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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
魔王復活編
21/24

6-1

R15禁レベルの性的描写がありますのでご注意ください。

「ふむ、本日の夕食は随分と手が込んでいるな」


「はい、召喚者様のお蔭で早い時点で夜営地が決まり

 ましたので。予定より2品程増やしておりまます」



 一人の貴族が一人のメイドを従え食事を取っている。

その貴族の地位が子爵である事を考えればその食卓は

貧相に見える。主食のパンとメインの肉、そして野菜

の入ったとろみのあるスープと新鮮なサラダ。


 一般の平民よりは豪華だが、有力な商人であれば

普通にこれ以上の夕食を普段から食べていたとしても

おかしくはない。だがここが屋敷では無く、竜の群が

行き交う西部の大荒野であると考えれば並大抵の贅沢

では無い。


 更に今食事を取っている場所がテントでは無く狭い

ながらもしっかりとした調度品が揃えられた部屋である

という事実にも驚かされる。



 書斎とほぼ同じ広さを持ったこの部屋は魔導機兵に

よって運搬されることを前提としており、その為の工夫

としてやや武骨な部分も存在していた。


 しかし随所に金や宝石をあしらいつつもセンス良く

纏まった机や本棚といった内装はどんな類の人間が見て

も一定の評価を出すように計算された代物ばかり。


 そしてこの部屋の中で非常に贅沢な夕食に舌鼓

を打っている男こそアーク=M=ハグマール子爵。

プラティナウス諸侯連合国中央で今急速に力を

伸ばしている貴族の一人である。



「しかし、青物のサラダか…… 俺が好かんのは

 お前も知っているはずだと思っていたのだが?」



 子供の我がままそのものとしか言えない言葉を吐く

ハグマール子爵。しかし40代とは思えない精悍な肉体

と年齢を良い意味で重ねた整った顔立ち、そして茶目っ

気のある表情がその我儘を一種のユーモアに昇華して

しまっている。



「申し訳ございません、お下げいたします」



 しかしわざわざ保存が難しい青物を持ち込んだのが

このハグマール子爵の指示である事を考えると笑える

話では無い。貴族の気まぐれと言えばそれまでだが

この男の性根はねじくれていた。



「ああ、すまないね…… おっと、しまった」



 サラダを盛った皿をメイドが片付けようとする前に

手に取ってひっくり返す。手渡そうとして失敗した訳

ではない。明らかにワザと、意図を持ってその皿を

ひっくり返す。オイルのドレッシングで味付けされた

野菜が子爵の足元に飛び散った。



「ふむ、貴重なサラダをひっくり返してしまったな」


「お手数をおかけして申し訳ございません。すぐ――」


「掃除道具を用意するのも手間だろう、食え」



 子爵はそれまでと全く同じ笑みのまま床に落ちた

サラダに目を向けながらメイドに告げ、その言葉の

意味が理解出来ずにメイドは硬直する。



「子爵様、それは――?」


「ああそうだな、床に落ちた物を手で拾って食べるのは

 マナーとしては問題外。うむ、決めた。口で直接食え

 なぁに安心しろ、今ここには俺とお前しかいない」



 獣の様に口で床に落ちた物を食えと、改めて子爵は

メイドに対してそう命じる。中央の夜会で貴婦人から

熱い視線を寄せられる笑みのままで。


 メイドの肩が震える、彼女はただの平民では無い。

一定以上の貴族に仕えるメイドには相応の格が必要な為

貴族の娘が行儀見習いの一環として奉公するケースが

殆どだ。彼女もそういった流れでハグマール子爵に奉公

している貴族の娘である。


 ただし単純な行儀見習いとして奉公している訳では

無い。彼女の父親の領地は近年増加する竜の被害に対し

戦力を欲していた。しかし戦力の増強を願ってもすぐに

用意出来る訳では無い、一般的な男爵領における戦力は

下位魔導機兵のガンフォルテ2~3機が限度とされる。


 それを超える場合維持運用する事が難しくなるのだ。

だからと言って容易に戦力を増やせば領地経営が破たん

してしまう。だからこそ戦力を持ったハグマールの様な

貴族に対して娘を差し出し婚姻関係を結ぶことで戦力を

借り受けるという流れになる事も多い。



 彼女の父親もここ数年で数を増やした竜に対抗する

戦力を確保する為に子爵に自分の娘を差し出したのだ。


 しかしハグマール子爵には既に側室を含めると2桁を

超えるだけの嫁が存在しており、領地そのものも旨みが

少ない。そこで彼女の場合は行儀見習いのメイドという

形で傍に置き、その結果として生まれた子供を認知し

家を継がせる。


 そうする事で間接的に領地を献上する代わりに不足

する戦力を融通してもらう取引が彼女の父親と子爵の

間に秘密裏に結ばれている。


 だから彼女にハグマール子爵の命令を跳ね除ける

という選択肢は存在しない。それを行えば自分達の

家族が危険に晒されるという事実を理解出来る程度

の知識と経験を持っている。



 肩と心を震わせながら彼女は子爵の足元に膝を折り

手をついて床に散らばったサラダに顔を近づける。

せめてもの抵抗でショートカットの黒髪が床に付かない

高さで口を付けようとした。


 彼女の口が床に散らばったサラダに届きそうになる

直前子爵が白いカチューシャの上から彼女の頭を踏み

つけ頬がドレッシングで塗れた床に押し付けられる。


 言葉にならない声が喉から漏れる。そして熱を持った

怒りと悲しみが柔らかな頬を流れ落ちて油と混ざった。



「ダメだねぇ、ちゃんとしっかり食べないと。知ってる

 とは思うんだけど君のお父様の領地で作られた野菜

 だよ? 皆が頑張って作ったものをそんな風に嫌々

 食べるなんて真似、領主の娘がして良いとでも?」



 楽しそうに、本当に楽しそうな声でハグマール子爵が

言葉の刃を並べて彼女の胸を引き裂いていく。大きな

黒い瞳に涙を浮かべながら舌を伸ばし床を舐めるように

散らばったサラダを口に運ぶ。その様子を確認して子爵

は彼女の頭から足を外した。



「すいま、せん…… し、しゃく、さぁまぁ……」


「そうそう、こぼれたドレッシングも綺麗に舐め取れ

 油まみれの床をそのままにするのは不衛生だからね」



 その言葉を聞いてぺちゃぺちゃと音を立てながら

床に舌を這わせる。ハグマール子爵が望んでいるのが

夜の奉仕と同じように淫らに舌を伸ばして卑しく床を

舐める自分の姿だと気づいたからだ。



「ふふふ、嫌らしい子だ…… そのまま全部食べたら

 後でご褒美を上げよう。こんな荒野のど真ん中で

 二回も水浴びが出来るなんて贅沢なご褒美をね?」



 時刻は18時を回った辺り、一度体を洗い夜伽の相手

をさせられ、その上でこの惨状の片づけと明日の朝食の

仕込みをしなければならない。そんな現状を理解して、

それでも何かが崩れるのを感じつつ体を震わせ嗚咽を

堪えながら彼女は散らばったそれを口でかき集める

事しか出来なかった。






 荒野の真ん中に30機の魔導機兵による輪形陣の陣地

が組まれている。稼働中の機体が9機、待機中の21機

と幾つかのテントや簡易な整備場を守るように3機毎の

グループに分かれて配置についており、その整然とした

動きから、見る人が見れば多少の襲撃なら問題なく対応

出来る練度が理解出来るだろう。


 そこに並ぶ機体で特に目立つのはハグマール子爵の

愛機である上位魔導機兵バスターバベルだ。青に染め

られた装甲、天に向かって剣の様に突き立った角飾り、

そしてその飾りよりも尚長い両肩の魔導収束砲が夜空

を刺すようにそそり立つ。



(この世界も月は一つであのサイズなんだよな……)



 食事を終えたトオルは食堂として用意されたテント

から外に出てふと空を見上げると、丁度月が空に向かい

突き立ったバスターバベルの砲身の間に挟まっていた。


 時刻は既に20時を過ぎており、食事を終えた騎士達

は1人また1人と食堂から外に出ていく、しかし誰もが

バスターバベルや周囲の様子に目を向ける事もなくただ

黙ったまま自分の魔導機兵に戻っている。


 随伴整備員や一部の専業メイドを除けばこの遠征に

ついて来た人間は全員魔導機兵を駆っており夜はその

操縦席で睡眠を取る。


 ある程度脅威を排除したといってもここが竜の支配

する荒野なのだ。夜警をするメンバー以外も即時対応

出来るようにしていた方が良いし、それ以上に下手な

テントよりも魔導機兵の操縦席の方が快適なのだ。



(それこそハグマール子爵の使っている住居コンテナを

 用意しない限りは魔導機兵に乗った方がいいし……)



 そんな事を考えながら住居コンテナに目を向ける。

全体を子爵の象徴である青色で染められゴシック様式で

飾りつけられたそれは一見すると巨大な馬車のようにも

見えなくはない。


 ただし車輪は存在せず、その代わり左右に魔導機兵が

持つためのバーが設置されている。移動時にはそのバー

を2機で持って飛行するという非常に頭の悪い方法で

運用されている。


 とても非効率に見えるが大型の航空機を発展させる

には魔導力という存在が恐ろしく効率が良すぎたのだ。


 人が人以外の形で魔導力を使おうとすると一気に効率

が下がるのだが、逆を言えば人型をしていればある程度

の無茶を通してしまえる。


 魔導力で動く人型の機械を作れば簡単に亜音速まで

加速出来る世界で他の動力を使って航空機を作ろうと

する人間は居ない。



 ふと気づくと、そのコンテナからフラフラと人影が

現れた。ショートカットで黒髪のメイドでフラフラと

子爵の入浴用に準備された小屋に向かおうとしてその

途中で足をもつれさせて倒れ込んだ。

 

 周囲を見渡すが誰も居ない、時刻的な問題もあるが

そもそもわざわざ子爵のコンテナに目を向けて居る人間

が居ないのだ。



「おい、そこのアンタ。大丈夫か……!?」



 トオルも近くで人が倒れれば駆け寄る程度の優しさは

持っている。50m程の距離を走ってそのメイドに駆け

寄って気が付いてしまった、乱れた服とその匂いに。


 それが何を意味するか理解出来ない程、トオルは初心

でも無知でもない。ただしだからと言ってこんな状況に

対応出来る程の経験値も持って居る訳でもない。



「……大丈夫に見えますか?」



 メイドが顔を上げる、最低限取繕って来たのだろう。

だが髪は乱れ、胸元が開き豊満な胸がチラチラと見える

状況は性犯罪の被害者にしか見えない。更に瞳には光が

無く能面の様に表情が固まっていた。



「あっ、君は――」



 そしてその顔に見覚えがあった。召喚直後に屋敷を

案内してくれたメイド。初めて出会った時は18歳前後

だと思っていたが、こうして色事を終えた姿を見れば

年上にも、その震えている肩を見れば年下にも見える。



「……召喚者、様ですか。この様な姿を見せてしまい

 申し訳ございません。出来ればこのまま放っておいて

 頂けるとありがたいです。この様なみっともない姿で

 殿方の前で平然と出来る程達観しておりませんので」



 そう態度を取りつくろいながら胸元を抑えたまま

メイドは立ち上がった。正面から見れば暗がりでも

服に様々な汚れの後が付いているのが見えてトオルは

ごくりと喉を鳴らしてしまう。



「ああ、召喚者様は汚れた女が好みなのですね」



 その反応にメイドの表情が変わる。獲物を見つけた

捕食者の様な笑みとどうしようもない状況への諦めが

混ざったような顔に。そしてスカートの裾をゆっくりと

釣り上げる。普段履きの革靴では無く荒地向けの女性用

ブーツ、そしてブーツから上は破けた黒のストッキング

で包まれていた。



「どうしますか、ここで私を抱きますか? どうせ

 ハグマール子爵は私にそこまで固執していません

 見た目がそこそこ良くて、騎士団の遠征について

 これて、相応に働けるなら誰でもいいんですよ」



 一歩、メイドがトオルに近づいた。しかしこの状況は

彼の処理できる範疇を完全に超えている。色恋どころか

風俗にすら行ったことが無いオタクはこんな状況で通用

するスキルなんて持っている訳が無い。


 さらにもう一歩、メイドが近づいて更にスカートを

釣り上げる。むわりとむせるような雄と雌の匂いが鼻を

刺激して理性を削り、開かれた胸元と釣り上げられた

スカートの両方から目をそらそうと明後日の方向に

目を向けた。それを見て彼女は足を止めて考え込む。



「ああ、つまり単純に童貞なのですね召喚者様は」



 そのナイフのように鋭い言葉に胸を貫かれてトオル

は倒れ込み四つん這いになる。顔を上げればスカートの

中身が覗ける角度だが、そんな余裕は彼には無かった。



「その、すまない」


「別に、もう減るような物もありませんから」



 トオルの謝罪にそう呟いてメイドはスカートの裾を

下ろして胸を抑える。そしてそのまま後ろを向いて

浴室の小屋に向かって歩いていく。



「ああ、そうそう。童貞の召喚者様にアドバイスです」



 足音から十分に離れた事を確認し顔を上げる。



「こうやって無理やり自分を抱かせようとする女は、

 大抵男性を利用しようと思っていますのでご注意を」



 そう言い残して彼女は小屋の中に入ってしまい、

後には夜の荒野にトオル一人が残された。トオルは

立ち上がって騎士服に付いた砂を掃って愛機に足を

向ける。暫く歩くとまだハグマール子爵の青色に

染められていない白色のスタンディスタが目に入る。



「……どうすれば、良かったんだよ」



 自らの愛機であり今晩の寝床であるスタンディスタ

はトオルの問いに対して何も答えてはくれなかった。


次話は2016年02月12日(金)に更新予定

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