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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
異世界召喚編
15/24

4-3

そ、そろそろストックが・・・

 サッカー騒ぎがあったその日の夜、ガイトは持て余した

時間を使いトラッシュアッシュの修復作業に取り掛かる。


 尤もやっている事は本当に手伝いレベルでしか無く、

操縦席の中枢演算装置のデータを吸い出す為に外側から

魔導端末を繋いでスタートを押すだけのお仕事だ。


 エーテルが漏れないよう格納庫に横倒しとなっている

トラッシュアッシュの脚部に用意されているキャップを

車の給油口と同じ要領で開いてパイプを繋ぐ。


 そして自分の腰ほどの高さがある魔導端末の画面横

に設置されている金属製のエンターボタンを押せば、

後は本当にする事が無い。



「はぁ…… 暇だねぇ。後30分はこのままか」


「他に御用があれば私が代行いたしますが?」


「残念ながら他に御用が無いんだよ畜生……」



 ただしスイッチを入れたらそれで終わりという訳では

無く、魔導力で動作する装置は人間が観測していないと

機能を停止してしまう。


 今横にいるアインも例外で無く。高度な思考ルーチン

による自立行動を行っているが、レオからの魔導力的な

接続が途切れてしまえばその場で停止する。


 なおレオは高度な訓練により無意識レベルでアインを

含む9体の自動人形を制御しており、彼女の意識がある

限り余程大きな問題が無い限り彼女達は自分で考え行動

する事は可能だ。

 


「俺も魔導制御系の訓練をしておけば良かったか?」



 VRMMO【ドラグーンエイジ】では魔導制御能力を

訓練で鍛える事も出来た。一般的には魔導機兵の操作が

可能なレベルになれば大抵の人はそこで止める。


 ゲーム内ではVRで一般的に使用されている一種の思考

操作技術を応用する事で再現されている為、ゲームの中で

培った技術はこの世界でも同じように使用出来る。


 これはご都合主義というよりは召喚術式として魔導制御

能力を鍛えられるように作られているという事なのだろう。


 因みにレオのように複数の自動人形を無意識レベルで

運用出来る人間は本当に少なく、プレイヤーの数%と言わ

れており、実戦で使いこなせる人間は30人前後な非常に

希少な技能である。


 因みに現実にもこのVR上で仮想人格を運用し作業を

行うアプリケーションが存在している為、日本の現実でも

役に立つ技能でもあるのだが今ここ(ドラグラド)では意味の無い話だ。



「ガイト様、世の中にはやっても無駄、もとい残念ながら

 人には向き不向きというものがございますので……」



 そしてガイトは使いこなすことが出来なかった側の人間

である。レオに教えて貰いながら試してみたが複数の物事

を同時に切り離して考える事自体が難しい。 



「くそう、今度お前のご主人様にその人を舐めた生意気な

 喋りに関しての製造責任を問うてやる。絶対にな……!」



 こうやって話していると彼女達はレオに近い思考パターンで

動いているのだと実感できる。思考パターンはあえて個性を

持たせているが奥底にあるものはレオそのままだ。


 彼女達は自分の魂を持っているのか、それともレオが操作

しているだけなのか、はたまたレオが持つ側面の一部なのか。

そのどれもが正しいし、そのどれもが間違っている気がした。



「――ガイト様、画面をご覧ください」


「へっ…… あ、エラーかよ?」



 会話に夢中になっていて気づかなかったが魔導端末の

表示を確認すると処理が止まって入力待ちになっていた。

 例外で吸い出せないデータが存在しているのだろう。


 本来動いていた魔導機兵のデータを吸い出せないという

事はありえない。よほどのトラブルが起こったのだろうと

気分が暗くなった。



「畜生、魔導論理のロジック読むの苦手なんだよなぁ」



 情けない顔をしながらデバッグモードに切り替える。

パッと見た範囲では構文のエラーが原因で読み込みが

中断されたように見える。


 現代の理系大学生である以上、ガイトですら最低限の

プログラミングの真似事程度の知識はある。最も問題を

把握する程度のものでしか無いのだが。



「これは…… ノイズでしょうか?」



 本来ブロック図として表現されるロジックの中にまるで

無作為に文字や単語を羅列したような箇所が確認できた。

 

 ブラウン管よりなお荒い端末の画面に緑色の光点の集合

として描かれているブロック図は技術が稚拙だからこそ、

分かり易い図形で表現されている。


 何か問題が起こっているのはこれを見れば子供だって

理解できると断言できる。



「通信関連のロジックの中に混ざっているのか?」


「これは…… おかしいですね」



 通信関係の受信部のロジックにそのノイズは混ざっていた。

本来ならどんな異常な信号を受けたとしてもロジックが変質

する事は無い。


 大出力もしくは振動数が高い信号を用いれば不可能ではない、

だがそんなハッキングじみた事をする位なら直接物理で殴る方が

ずっと効率がいい。



「竜のブレスの影響か?」


「その場合、先にハード側が焼き切れます」



 改めてノイズ、もしくはバグが発生している場所を確認。

中心になっているのは周囲の信号から自機に向けられた通信

を拾う為の構文だ。


 ガイトが知る限り全うに動いてるプログラムが何の原因も

無くこんな壊れ方をする事はありえない。


 

「装置の故障で発生した、ただのバグなのでは?」


「まるでポストに無理やり新聞をねじ込んだような?」

 


 それは完全に直観だった。何かの理屈や経験があった

訳ではなくただの思いつき。しかしそういう見方をすれば

するほどこの文章の羅列に意味があるような気がしてくる。



「なぁアイン、このノイズをどうにか言語に――」


「難しいです、私自身のスペックでは解読といった

 高度な演算を単独で行う事は不可能ですので……」


 

 自分には出来ない、そう言いながらアインはガイトと

端末の方に歩み寄って来る。周囲に漂っている魔導力の

匂いが少しだけ強くなるのを感じる。


 魔導力の匂いは嫌いでは無いが自動人形の関節部分

のシーリングが甘いのは頂けない。 



「レオ様もお呼びします。ガイト様の直観は信じた方が良い」


「自動人形が直観を信じるとは知らなかったぜ、驚いた」



 恐らくガイトの言葉に対する重要度を高く設定しているのだ。

それは信じられているというのだろうか? 色々な物がグルグル

と頭の中を回る。



「いいえ、妄信では無く。蓄積したデータからの判断です」


「出会って何日目だっけ?」


「出会ってから半年と6日。共に戦った回数は100以上です」



 そういえばと思い出す。彼女達はゲームでレオが連れていた

NPCを再現した存在である事を。そして少なくともこちらに

来るまでは彼女達は0と1のデジタルな存在だったのだ。


 感情論やお情けでは無く、純粋な数字から導き出された答で

ガイトの正しさを判断してくれている。



「偶には俺も戦闘以外で役に立つって事か?」


「まさか、いつもお役に立っていらっしゃいます」



 ガイトの皮肉に、アインは意外な言葉を返して来た。

驚いた表情でガイトはアインの顔を見つめる。その顔は

いつもと同じ無表情だったが微笑んでいる様に見えた。



「レオ様はガイト様が来て下さってからずっと安心して

毎日を送っております。これは今まで私達がどれほど

手を尽くしても出来なかった仕事です」


「実質紐ってことじゃねーか」


「紐ならばレオ様を縛って立たせる事位は出来るかと。

ガイト様はそれが出来る紐だと認識しております」



 随分と酷い扱いだが、仕方が無くそして妥当だと感じた。

領地を経営してレオは利益を出している。いくらガイトが

それを武力によって守っても利益が出る訳では無い。


 どこまで行ってもガイトは壊す方の人間で生み出す側に

回ることが出来ない。

 


(まぁそれでも、日本よりはずっとマシか……)



 ガイトは戦う事以外なにも出来ない。そして日本では

戦う事すら出来ない。もしあのまま日本で生きていたら

自分がどうなっていたのか想像するだけでも気が滅入る。



「一つだけ、間違ってるぜ」


「何でしょうか?」



 アインが首をかしげる。無表情のはずなのに不思議そうな

顔をしているように感じるのは気のせいなのか。それとも

心が分かったからなのか、そのどちらなのかは分からない。



「俺は引っ張って立たせるだけの男じゃない。むしろ

 ロケットエンジンで引っ張っていく位の勢いがある」


「ええ、ただし狙った方向に進めないと」


「それを決めるのは引っ張られてるレオの仕事だよ」



 それを聞いたアインは何も言わなかったが恐らく

微笑んだのだろう。表情は一切動いていなかったが

ガイトはそうだと思う事にする。


 最終的にノイズの内容をレオに見てもらう為端末に

用意されている出力機能で内容を紙に印刷。ガイトが

日本で使っていた物とは比べ物にならない程安っぽい

紙に荒い印刷で出力された内容を見て改めて日本の

OA機器の優秀さを噛みしめながら作業を終えた。

 

 翌日このノイズは日本語として翻訳されその内容は

大きくガイトやレオ達の運命を変える事になるのだが

この時はまだ誰もその事を理解しては居ない。


次話は2016年01月27日(水)に投稿予定です。


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