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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
異世界召喚編
14/24

4-2

ちょっと書き方を変えてみました。

「……平和だ」


 レオから英気を養えと事実上の戦力外通告を受けたガイト

は空を見上げ意味もなく呟いた。暇だからと気晴らしに降り

てきた城下町にはゆったりと緩やかな空気が流れている。


 レオの館から降って五分、歩いて降るには遠く、乗り物を

使うには近すぎるそんな距離感。


「しかしレオがここまでちゃんと領地経営をやってるとは」


 街の中央には大通りと呼べる広い道があり衣食住を一通り

賄えるだけの商店が立ち並んでいた。日本の田舎によくある

寂れた商店街よりはよっぽど活気に満ちている。


 500m程先の大通りの中心には噴水があり露店が開かれ

その合間を縫って子供達が元気に走り回っている。教会の様

な宗教施設が見当たらないところを除けばほぼ中世から近世

ヨーロッパ、JRPGによくあるヨーロッパ風味の街並みと

言った方が正しいのかもしれない。


(――ん、あれは?)


 遠くからゆっくりと一人の少女が荷車を引いてこちらを

目指していた。時刻は7時前でこの先にはレオの館以外何も

無い事を考えれば出入りの業者なのだろう。


「あ、あのぉ…… なにか、その…… 失礼を?」


 どうやら不躾な視線を向けてしまっていたらしい。よく

考えなくてもガイト自身身長180cmを超えた巨漢で、

その上に三白眼かつボサボサな頭な顔が加わり迫力満点。


 見たところ自分よりすこし年下の…… 少女というには

やや胸が大きい女性が叫び出さなかったのは運が良かった

と考えていいのかもしれない。


 彼女の服装がヨーロッパの民族衣装であるディアンドル

風なのはこの地域の気候が欧州に近いからなのだろう。


「ああ、それを引っ張って領主の館まで行くんだろ?

 中身が何か気になっただけだよ。深い意味はない」


「え、あ…… はいその通りです。中身は牛乳です」


 荷台には確かに大きな缶が一つ積まれており、容量は

10リットル程。他にも荷物が積まれており女性では重い

量だと感じる。館までの道はそれなりに整備されていると

いっても緩やかな坂道である。


「よし、それを貸せ。領主の館まで引っ張るわ」


「えっ、その。騎士様にその様な事を……」

 

 今ガイトはレオの家の家紋が入った騎士服を纏っている。

これは操縦服と戦闘服を兼ねた物であり身分証の代わりに

もなる。黒の上着とズボンに白のラインが入っておりライト

ノベルに出てきそうな見た目だが着心地は抜群である。


「うるせぇ、騎士様は女に優しくが基本だ」


 ぶっきら棒に言い放って無理やり荷車を奪う。少女は初め

はおろおろしていたものの何を言っても無駄だと思ったのか

諦め荷車をガイトに渡して来る。


 しばらく無言で荷車を引いてきた道を引き返す、引いて

分かったがやはり女性が運ぶ重さでは無く、ガイトであって

も館までの坂道を上がると汗ばむ程度には辛い。


「毎日これ引いて上まで運んでるのか?」


「はっ、はい…… いつもは私じゃないんですけど」


 少し言葉に詰まっているのをガイトは感じる。言い難い

ものがあるのだろうかと思うがそれが何なのか察するには

情報が足りない。


「へぇ、って事は普段は誰が運んでるんだ?」


「ち、父なのですがその……」


 討ち漏らしたトカゲが牧場を襲った、ガイトの脳裏に昨日

バリウスが会議で呟いた言葉が過ぎる。そしてゲームの時

ミッションに失敗すると似たような話をするNPCが居た

こととその結末も思いだした。


「あー、言いにくいことを聞いた」


「い、いえ…… こちらこそ。すいません」


 再び沈黙が、先程よりも居心地が悪い時間が過ぎる。

何か言おうかと思うが何も思いつけない。すまない?

俺が悪かった? 何か違う気がする。


 俺のせいじゃない、悪かったのは運だ。責任逃れな

言葉は吐きたくない。かと言って被害を止める為に

自分が何か出来たかと考えても思いつかない。


「その…… 女男爵様のお蔭で私達は救われています」


 少女が話し始め、ガイトはその言葉を静かに聞く。

彼女曰くレオの両親が事故死して領地を継いでから

一気に領内は活性化したらしい。


 領内に存在する鉱山で行われていた無理な採掘は

止まり労働者たちは余裕を持って仕事が出来るよう

になった。


 領内のまとめ役であったバリウスに権限を与えつつ、

必要な部分に関しては大鉈を振るい効率化を進める。


 領地そのものが竜に襲われて消え去ることも珍しく

無い中でこれほど領民の事を考えてくれる領主は殆ど

存在していないと少女は話を締めくくった。


「女男爵様は最善手で動いていて、その上で犠牲が

 出るのは仕方が無いと私達はそう思っています」


「気に食わねぇなぁ……」


 少女の顔が青くなった、実際にガイトは不機嫌な

声色で呟いたし、事実不機嫌だった。沈黙が流れる。


「そんな事を守るべき相手に言わせる自分達がよ」


 ガイトはハッピーエンドが好きな人間である。

バッドエンドなんてものはお呼びでは無い。けれど

ドラグーンエイジでNPCの命を積極的に守ろうと

はしなった。


 余裕があれば守る、その程度の考えしかない。


 ましてミッションに関係の無い所でどんな被害が

出ているかなんて考えた事も無かった。そんな感性

のままで戦った結果がこれなのか。


 それともレオが事前にフォローした上でこんな

結果しか自分達は導けなかったのか。


「確かに父は竜に襲われて死にました」


 確信は持てていたが、少しだけくらりと来る。

彼女の父親の死は仕方無かったのか、それとも何か

出来る事があったのか。グルグルと色々な言葉が

頭の中に浮かんで消える。


「けど私は生きてます。父と農場に居ましたが、

 バリウスさんが駆けつけて助けてくれたんです」


 自分が休んでいる間に働いていた人間の話を聞く

のは耳が痛い。その場に自分が居たらと無意味な

Ifを考えてしまう。ありえないと分かっていても

人は過去を後悔する生き物なのだ。


「その時に仰ってたんです。女男爵様の騎士様が

 緑竜を倒して領地を救ったのにこんなことも満足

 に出来ないのかって」


 ガイトにとってバリウスがそこまで高く評価して

いるのは意外で、精々腕が立つが生意気な小僧程度

の評価だと思い込んでいた。

 事実ガイトは中位竜を倒す以外何も出来て居ない。


「確か実力なら騎士階位上級、下手すれば特級だとも。

 そしてあの実力があったからこそ今この領地の平穏が

 守られているんだって。そう仰られていました」


 騎士階位という言葉はゲームでは無かった。恐らく

この世界における騎士の強さを現すランキングの様な

物なのだと予測する。


 腕があるだけの相手で無く、その力で何かを成せる

人間だという評価。自分の力が必要とされている実感

がガイトの中に広がっていく。


「だから失われたものを悔いて悲しむよりも騎士様の

 お力で守れたもの誇って頂けませんでしょうか?」

 

 泣きそうな、それでも笑顔で少女は言葉を続ける。


「失ったものを泣いたり悲しむのは身内の特権

 ですだから騎士様にそれは差し上げません」


 厳しいなと呟く。この世界はゲームと似て居るが

ゲームでは無い。ドラグーンエイジというゲームは

この世界を遊びやすい形で区切って、楽しめるよう

調整された箱庭だ。


 VRでどこまでも現実と同じように作ってあっても

どこかでゲームの嘘が混じっている。この世界で自分

がかかわる範囲の悲劇や被害を全部防ぐ事は出来ない。

けれど自分の周りで何が起こっているのか自分の行動

で何が起こるのか。


 それ位は理解した上で生きたいとそう思ったのだ。






「で、何かしようとした結果がそれですかい?」


「その、ここまで話がデカくなるとは思わなくて……」


 牛乳屋の少女と別れた後、ガイトは再び街を訪れた。

平和そうな光景にも改めてみると問題点が見えて来る。

暇そうな人が多い、特に子供達の姿が目立つ。


 レオが村の復興に取り掛かれないかと言っていたのを

思い出し調べれば街の外に難民キャンプが出来て居た。


 村を焼け出されたのか、それとも避難してきたのか。

どちらにせよそこにいる人々は明日への希望では無く

どうしようもない日々に支配されていた。


 特に子供達がやることもなくじっとしているのが嫌に

なってしまってこう言ってしまった。


 サッカーしようぜ、と。


 さっかーって何? と集まって来た子供達の目の前で

赤肩に勧められた異世界召喚物の漫画を真似て布と蔦で

ボールを作り、コートを用意しキックオフ。


 その結果、凄く流行ったのだ。


 それも子供だけでなく大人まで巻き込んで。竜の群が

討伐されたからと言ってすぐに逃げ出した村に帰る事は

難しい。


 その結果暇を持て余した人々にサッカーという娯楽が

クリティカルヒットしてしまったのだ。


 最終的にコートが4面作られて、100人近い人間が

1ゲーム10分程度のペースで代わる代わるサッカーを

楽しむ状態になる。


 更にこの流れを商機と見込んだ飲食店が店を出し始め

軽いお祭り騒ぎ状態になった処でこの騒ぎを聞きつけた

バリウスが登場。責任者たるガイトに事情を聞く流れに

なったのだ。


「ほんと、いきなりこんなお祭り騒ぎは困るんですよ

 事前に連絡とか根回しがあれば全然マシなんですが」


「だから本当にここまでの騒ぎにする気はなかったんだ」


 その瞬間、コートの方から歓声が上がる。村から避難して

来た子供達のチームが街の子供達相手にシュートを決めた。


 はしゃぐ村の子供達。


 街の子供達は悔しそうな顔だが陰湿な空気は無い。


「楽しそうだなぁ……」


「ガイト様はやらないんですかね?」


「俺、サッカー苦手なんだ」


 意外な答えにバリウスの言葉が止まった。まさか自分

が苦手な物を人に教えているとは思わなかったのだろう。


「いやほんと、ボールを蹴ると相手の顔面にな?」


「続けてやればファール扱いですな」


 その会話に違和感を覚える。その言い方ではまるで

バリウスがサッカーのルールを理解しているようだ。


 確かに過去の召喚者がルールを広めている可能性は

あるのでバリウスが知っていてもおかしくはない。


「ああ、日本のスポーツの事なら頭に入ってますな。

 サッカー、野球、SUMOU、バリツ…… この辺の

 基本的なルールとルーツ位は理解してますぜ?」


「最後の二つは意味分かってるのか?」


「そう召喚者にツッコミを入れられるところまで含め

 この問答の様式美って奴ですわ」


 余りにも意外な言葉にガイトは吹き出してしまう。

まさか異世界人が地球文化勘違いネタを仕掛けて来る

のが完全に予想の外側でツボに入ったのだ。


 子供達の試合は引き分けで終わった様で互いに健闘を

称え合いながら子供達はコートを後にする。


「もう、終わりですかねぇ。もう日も暮れますし」


 バリウスの言葉で空を見れば太陽が西に落ちようと

している。まだ暗くはないが片づけを考えるとそろそろ

終わりにした方が良さそうな雰囲気。


 他のコートでも試合が終わり、皆笑顔で家や避難所に

向かって行く。少々散らばったゴミも目立つが、それを

拾い集める人の姿もちらほら見えた。単純な清掃目的で

はなく使えるものを拾っているのかもしれない。


「さて、俺達も帰りますか」


「ああ、そう言えば仕事の方は大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃありませんぜ、午後の仕事はダメでしたし」


 誰かさんのせいでと呟く言葉で背中に嫌な汗が流れた。


「まっ、ハンコ押す位は手伝ってくだせぇ」


「そ、それ位ならまぁ……」


 ちなみにそのハンコを押した書類が面倒な懸案でそれを

解決する為にガイトのハンコは利用された為、後々妙な処

で恨みを買う羽目になったのだが、それはまだ先の話。


次話は2016年01月26日(火)に投稿予定です。

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