4-1
改題しましたが内容は特に変わっておりません。
これからも変わらぬ応援を・・・ で、出来ればポイントとか
入れて貰えるとやる気がアップします。面白いと思って頂けたなら
なにとぞ、なにとぞよろしくお願いいたしますorz
「はい、という訳で。確認も兼ねて現在の
状況を簡単に纏めてみようと思いまーす」
決戦から2日後、レオの一声でガイトとミリリリア
そしてバリウスの3人は食堂に集まることになった。
時刻は午後1時、昼食を食べ終わっている時間だが
レオは会議を進めながらもパンを食べている。
「レー様、会議中も食べて無きゃいけないんですか?」
「人の事は言えませんがね、上品には見えませんぜ?」
「自動人形9機を動かしてるから仕方ないんだよ」
文句を聞きながら更に黒パンに手を伸ばす。流石に
食べながら喋る様な真似はしないのだが、その分説明
の進み具合は遅くなってしまう。
「しかしまぁ、厳しかったけど緑竜が撃破出来たし
これで襲われた村の復興にも手が出せるかな?」
「また似たような群に襲われれば同じように避難
させる必要はありますがね。一応一通り残敵掃討
は終わった以上、復興を進めるべきでしょう」
領内を高機動なエアリズで防衛するって思想は悪く
ないと思っていたんだけどなとレオは呟いた。
自分が来る前に襲われた村があったのかとガイトは
察するが、少なくてもゲームの上では村々に魔導機兵を
配置するより急行した方が効率がいい。
ただ村の安全を考えるなら村々に魔導機兵を配置する
のがベストなのだがコストや人員の問題で現実的でない。
単純に運が悪かったか、機動力の不足が問題だったの
だろうとガイトは考える。今後は機動力がある戦力の確保
が重要になるのだろう。
「じゃあ既存戦力の状態確認から始めようか。ミリリア、
魔導機兵の整備と修理の進捗度はどうなってるの?」
「リが一つ足りませんレー様、簡単にまとめますと
整備の方は予定通りですね。トラッシュアッシュ
以外は全機稼働状態まで持っていけそうです」
「まぁうん、トラッシュアッシュはね…… 仕方ない
というか必要経費ではあるんだけど。まぁ、うん」
両腕消失、炉心融解寸前、装甲もフレームもボロボロ。
トラッシュアッシュのダメージは機体が原型を留めている
のが奇跡と呼べるレベルに達していた。
修理するよりは使える部品だけ取り外した方が早く、
事実上の大破判定と言っても過言では無い。
「まぁ、あの群に10機の魔導機兵で挑んだ結果としちゃ
奇跡みたいなレベルの被害だと思いますぜ? 召喚者様も
ぴんぴんしていらっしゃりますし」
本来必要とされる戦力の1/10以下の数で挑んだのだ。
普通ならすり潰されてもおかしくない戦力差があった。
「まるで寝込んだ方が良かったみたいな言い方だな」
一応擁護してもらっているのだろうが少々あきれ
気味なバリウスの言葉に対してガイトは突っかかった。
「普通あれだけ格上相手と殴り合えば、無傷でも一週間は
寝込むレベルですぜ? いっそ無事なのがおかしいですわ」
格上相手に食らいつく為、魔導炉の出力を上げればその分
操縦者は精神力を消費し、最悪の場合死に至ることもある。
ゲームでは単純に意識不明のバットステータスで表現されて
いたが、レオ曰く100年ほど前に上位竜を下位の魔導機兵で
倒そうと魔導炉を限界以上に励起させ死んだ人もいるらしい。
そう考えると確かに格上相手に挑んで寝込みすら
しなかったのは突っ込まれても仕方ないのかもしれない。
「知るか、昔から体は頑丈なんだよ」
しかしガイトとしては何となく馬鹿にされているようで
面白く無く頬を膨らませてふてくされる。
「けどあんまり無理はしないでね。心配したんだからさ?」
だがレオがうるうるとした瞳でこちらを見つめて来た。
銀糸のツーサイドテールがふるふると左右に揺れており、
今にも泣き出しそうな雰囲気にガイトは気圧されてしまう。
「はいはい、レー様落ち着いて。次に行きましょう」
「ご、ごめんね。ミリリリリア。じゃあ次は装備の消耗を」
「リが一つ多くありませんでしたかね」
漫才染みたやり取りを終えてからバリウスが手元の紙に
目を落として説明を始める。
「対下位竜用剣弾の消費が325発、対中位竜用剣弾の
消費が7発。どちらも倒した竜の素材からある程度
生産出来るが消費した分を補えるほどじゃねぇですわ」
竜殺しの武器を構成する金属は竜の血肉で鉄を鍛造
することで生成する事が出来る。ただし使用できる
部位は貴重で限られている為、本来ならもっと慎重に
使うべき装備である。
乱暴に表現するなら地球におけるミサイルに相当する
武装を後先考えずに乱射したと言ってもいいレベルだ。
「必要だったとはいえ、ミリリリアに拡散竜断砲を
2回も撃ってもらったのがかなり響いてるねぇ……」
本来ならもっと綿密な作戦を立て、消費を抑えるのが
普通なのだが、今回は偶発的な接触から戦闘が始まった為
その辺りに気を配る余裕が無かった。
「そこは通貨の流通量を増やして補いましょうぜ、
幸い中位竜1、下位竜60の死骸があるんだ。
合わせれば700万リュカは超えるはずですわ」
「周囲の貴族からの嫌がらせで頭が痛くなりそう」
「勝手に通貨の流通量を増やすなって話か?」
ガイトは上着のポケットから竜の鱗を一枚取り出す。
ドラグラドではそれが貨幣として流通している。竜の貨幣、
竜貨、転じてリュカ。
竜の鱗そのものに価値がある訳では無い。竜を狩ることが
出来る戦力とその血肉が持つ素材が竜の鱗の貨幣としての
価値を担保している。
「一応、竜を倒した貴族に王から与えられた権利
だし文句を言われる筋合いはないんだけどね……」
だからと言って急に通貨の流通量が増えれば経済に
大きな影響が生まれてしまう。中央銀行の様な組織が
必要なのかもしれないが既得権益の問題もある。
召喚者チートでも早々解決できそうにない面倒な
問題ではあるが、今はこの蛮族経済に近い状況で
助かっているのだから文句は言えない。
「復興できないレベルの被害は領内に出ていませんし
素材がちゃんと売れれば最終的に少し黒字を期待
してもいいんじゃないですかね?」
「失った消耗品の購入の手間や、機体の整備や修理、
それと改装の手間を考えなければね。……どこかに
優秀なメカニックが転がってないかな?」
レオが机に突っ伏してバリウスを上目使いで見つめた。
女の武器を使っているというよりは我儘な妹が兄貴分に
お土産をせがんでいる。そんな印象だ。
「行儀が悪いですぜ、女男爵様。そもそも魔導機兵の
整備士なんてものは下手な騎士より貴重なんでですわ」
「そもそも、レー様以上の整備能力を持った方はそうそう
いらっしゃらないと思いますよ? 単純な技術だけでも」
「ぬぐぐぐ……」
現状魔導機兵の整備はミリリリアが中心となって実施
しているが彼女に基礎を教えたのはレオだ。更に自動人形の
動作パターンを組んだのもレオであり、改造図面を書ける
のもレオ一人だ。
男爵家当主としての領地経営の舵取り、事実上の整備主任。
そして戦略から戦闘レベルまでのあらゆる場面での指揮統率。
ついでに一人の魔導機兵乗りとしての業務。
確かにレオがどれかを放り出したいと思うのも無理はない。
他の被害に関してはレオが改めて言及していない以上
些細なもので手間がかからない程度でしかないのだろう。
「ガイト様は、その整備の方は?」
「ミリリリア、ナイフと剣は違うものって言うだろう?」
「酷いいわれようだな、事実だけどよ」
これはドラグラドに存在することわざで、意味は
機能や形が似ていても出来ることには大きな差がある、
程度のニュアンスだ。
この場合ナイフに例えられているのは戦い以外の事も
こなせるレオ。剣に例えられているのは戦う事しか出来ない
ガイトという事になる。
「まぁ、召喚者様はどっしり構えれば良いんじゃ無いですかね
実際あそこで緑竜相手に殴り合って勝ったのは普段何もして
居なくても許されるどころかお釣りが来る金星でさぁ」
「戦うならナイフより剣が優れているのも確かですし」
だがこのことわざの由来自体が戦う事しか出来ない人間を
揶揄した物なのだが。戦う為の力そのものが一切評価されない
現代日本よりはマシかと思い直す。
「じゃあ次、領地運営には特に問題は無いんでしょ?」
「俺が死ぬほど忙しいという問題を除けばありませんね
昨日撃ち漏らしのトカゲが近くの牧場を襲ったって話も
ありますが、大した被害なしで片付きましたしね」
自分が知らぬ間に下位竜の襲撃があった事に驚くが、
トカゲの1匹や2匹程度ならそれこそ自動人形でも対処
出来る程度の話でしかない。
ふとガイトは召喚されてからレオの治める領地を見て
居なかったことを思い出した。この世界に来てから1週間
ずっと屋敷にいるか、戦っているかのどちらかである。
「まとめると竜断砲用剣弾がやや不足、俺の機体が大破
していることを除けば大きな問題は無し。ただ整備と
政務で人が増えれば嬉しいかなって状況なんだな?」
「そうなりますね、人の不足は今更ですし不足していた
正面決戦向きの騎士が補充された事を考えれば一歩
前進とさえ言えます」
優秀な人財というものは生えてくるものでは無い。
そう考えると問答無用で人財を用意出来る召喚魔法は
文字通り反則技と呼べるのかもしれない。
「しかし、召喚者様…… いや、ガイト様みたいに
もう2~3人召喚者を呼べないもんなんですかい?」
「まぁうん、ガイトはほら…… 特別だったから」
バリウスの半分諦めが入った提案にレオは目を伏せ
頬を染めながら答えを返した。恋する乙女が好きな
男子を気にするようなしぐさに見えなくもない。
「い、イメージの! イメージの問題って奴なんだ!
ほら召喚魔法は一種の検索システムみたいなもので
具体的であればある程消費が少なくてすむから!」
「つまり、都合の良い人財を無理に探そうとすれば
よりコストがかかってしまうという事でしょうか?」
「そうだねそんな感じ。名前も顔も知らない相手で
指定した能力を持っているかどうかを条件に召喚
しようとすれば…… たぶん上位魔導機兵が建造
できる資材が飛んじゃうかなぁ?」
上位魔導機兵となれば必要なコストは数十億に届く。
大ざっぱだが1リュカの価値は現代日本に換算すると
10円前後なので数億円かかると考えて間違いはない。
「そんだけかかるなら、下が育つのを待った方が
まだマシかねぇ。後1~2年もすりゃ領地経営
の方は問題なく回りますしな」
「今回の討伐の褒賞としてスタンディスタ
辺りを頂ける可能性もありますので……」
「まぁ現状認識はこれ位で領内の問題は特になし。
後は周りの反応を待ちながら対処って事で」
必要な情報は出そろったとレオが会議の終了を宣言。
それではとミリリリアは格納庫に向かい、バリウスも
領地関係の雑務があると食堂を後にした。
「なぁ、レオ」
「なんだいガイト?」
二人が去った後、ふと気になった事を聞いてみる。
「別に月間MVPじゃない人間でも召喚できるのか?」
「あぁ、単純にそれが一番当たりの人間を少ない消費で
召喚できるっていう経験則で狙われてるだけだから」
召喚術式を使うのは基本的にこの世界の人間だから
と言いながらレオはパンを口に運んだ。
「さっきも言った通り、召喚術式は条件が漠然として
いればしている程その消費は多くなっていくから」
「あー、もしかしてドラグーンエイジってそのものが
召喚目標をプレイヤーに限定する為の存在なのか?」
つまり1億人の日本人という集団から選ぶよりも、
10万人というドラグーンエイジのプレイヤーの中
から召喚対象を選んだ方がリソースが少なくて済む。
更にVRゲームという形でこの世界の常識を学び
魔導機兵の操縦方法を収めている人間を召喚出来る。
そう考えると良く出来たシステムだと思える。
「そうだねこの一般的にローシュタイン式召喚術式と
呼ばれている方式のお蔭で召喚者の…… 正しくは
活躍して世界に名を残す召喚者の数が増えたんだ」
「……って事は別に俺って月間MVPを取らなくても
お前に召喚されてたって事になるのか?」
赤肩の予想に従って、異世界召喚されようとMVP
を狙っていたがレオの話から考えると無駄骨だった
気がしてしまう。
「む、むしろ危なかったよ! 下手にMVPになって
しまってたら他の人から召喚される可能性もあったし!」
「あー、なんかぐったりだなぁ……」
向こうの世界で月間MVPになる為にガイトは十数万
単位の課金と、200時間近く無茶な稼ぎを行ったのだ。
それが無駄どころか悪手だったと知れば気分も下がる。
「け、けど、改めて考えるとガイトが来てくれたのは
嬉しいんだけど、呼んだ事を凄く後悔もしてるんだ」
ぐったりと机に突っ伏していると、レオが近づいて
ガイトの上にそっと覆いかぶさって来る。背中にふたつ
熱い塊が押し付けられるのが分かった。
「ねぇ2日前の戦闘で一歩でも間違えてたら
死んでたって事をちゃんと理解してる?」
「なんだそんな事。戦う前から理解してたに決まってる」
実際に怖かった。だがそれ以上に暴力を振るい何かを
成し得たことに対する達成感に対する期待が強かった。
そしてそれは戦闘が終わった今でも変わらない。
「僕は理解出来てなかった。ガイトは死なないって理由の無い
思い込みであんな魔導機兵に乗せて死地に送り込んだ……」
背中でレオが震えているのが分かる。ひくひくと体を
震わせながらも言葉を続けていく。
「怖かったよ、緑竜が操縦席に爪を振るった時。ガイトが
死んだと思っちゃった。あはは…… ただの中位竜で
ホントのホントにザコなのにさぁ」
「死ななかったからいいだろう?」
上に被さっているレオをそのままに会話を続ける。
何となく大きなすれ違いがあるように感じてしまう。
「次も死なないと思う? 同じことやって死なない保証は?」
「日本で死なないと思うか? 誰からも何からも必要とされず
暴力を振るう事くらいしかできない俺が誰一人として認めて
くれる奴が居ない世界で生きていけると思うのか?」
レオは自分がドラグラドにガイトを召喚したことで命の
危機に晒していると感じているのだろうがそれは違う。
根本的にガイトは日本という世界で生きて行くことが
出来ない人間だ。暴力を振るう事が楽しい癖に、他人から
必要とされることを渇望している。
ドラグラドで必要とされて生と死の狭間で生きる道、
日本で必要とされず死なないだけの生活を続けていく道。
ガイトからすればどちらが良いのか考えるまでもない。
「ほんと、僕がいなかったらどっかで死んでるよね?」
「お前が居なくても30代くらいまでは死んでないと思うぜ?
まぁ生きているだけで死んでるのと大差ないとは思うけど」
「そう言う事なら、うんガイトを召喚出来て良かったよ」
すっとレオが立ち上がる。離れていく少女の体をほんの
本当に少しだけ惜しいと思う自分をガイトは少しだけ恥じた。
「けど、無茶はさせない。もっと強い魔導機兵を用意して
戦略戦術レベルでの有利を確保した上で戦えるように
僕は全力を尽くすよ」
「まぁ、負け戦じゃ無ければそれでいいさ」
後ろを振り返りレオの瞳を見つめる。目標に向け前を
見据えたガイトが好きなレオの顔がそこにはあった。
ガイト自身に明確な目標は無い。ただ暴力的に敵を倒し
誰かの役に立ちたいという衝動があるだけだ、だからこそ
レオには前を向いて自分を導いてほしいと思う。
「ああ、そういえば」
時刻を改めて確かめると15時近く、そろそろレオも
仕事に戻らなければ一日の政務が滞ってしまう時間だ。
「俺はトラッシュアッシュの修理が完了するまで
いったい何をしていればいいんだ?」
ガイトは自分が剣である事は理解している。戦う事
以外出来ることは殆ど無いと分かっている。けれど
それでも何か出来る事をしたいとレオに指示を仰ぐ。
その一言でレオは固まった。上を見る。顎に手を
乗せてしばし考え込む。その後さらに視線を回す。
ガイトは言葉を待つ。レオは黒パンに手を伸ばして
バターを塗る、食べる、お茶で流し込む、そしてパン
を飲み込んでから――
「ガイトは今回の戦闘における一番の功労者だからさ
しばらくゆっくり英気を養ってくれないかな……?」
レオの微笑みが、日常の中においてガイトの出番は
無いという宣言が少しだけ胸に突き刺さるのだった。
次回更新はいつも通り2016年01月25日(月)になります。




