3-4
「さぁて、状況の確認をしようかレオ」
ガイトはトラッシュアッシュをレオの駆るガンルージュ
の真横に着陸させ、全長10mの赤と灰が並び立つ。
対するは全長20mの緑竜。飛行能力こそ失ったが強力
な魔導障壁と並の竜断砲では貫けない竜鱗による防御。
下位の攻撃で撃墜されかねないトラッシュアッシュは
言うまでもなく一定の防御力を持ったガンルージュでも
直撃すれば大破しかねない攻撃力を持った格上の相手。
『これまでの牽制攻撃で魔導力を1割位は削れたかな?
ただアレの鱗を貫ける剣弾は切れたからここから先は
ガイトのランスチャージ頼りになりそう……』
己の翼を引き裂いた敵が再び現れたことで緑竜は警戒し
様子を見ている。下手に動けば不利になるのを理解する
程度の知性は持ち合わせているのだろう。
「なぁレオ、良いニュースと悪いニュースがあるんだが」
『悪いニュースから、余裕ないしね』
ガイトの軽口に被せ気味でレオは答えを求めた。現状の
余裕の無さが口調に現れているのだろう。けれどガイトは
それを気にせず話を続ける。
「無理のし過ぎで、整備無しじゃもう跳べん。このまま
一撃であの緑竜を倒すのは無理だな。諦めてくれ」
トラッシュアッシュが生存性を限界まで削っているのは
伊達では無い。性能を切り詰めることで下位の魔導機兵
でありながら一般的な中位のそれを超える火力を誇る。
下位の飛竜を文字通り消滅させるだけの攻撃力を
叩き込めれば中位の緑竜なら当たり所によっては
一撃で倒す事も決して不可能では無い。
だがそれはフルスペックを発揮した場合であり、
飛行による亜音速の最大速度で行うランスチャージが
封印されている以上、そこまでの火力は出せない。
『じゃあ良いニュースって?』
レオの声に不安とあきれ、そしてほんの少しの期待を
感じつつガイトはトラッシュアッシュを一歩前に進めて
言葉を続ける。
「跳べない現状でも4発、いや5発俺が死ぬ前に
攻撃を叩き込めれば殺せる。勝ち目はあるぜ」
『で、今の状態で何手までなら避けられるの?』
「2手、3手以上敵の攻撃を避けるにはフレームに
負荷がかかり過ぎているな。最悪回避中に折れる」
トラッシュアッシュのフレームが弱い訳では無い。
過剰に強化された出力に対して強度が足りていないのだ。
1戦でボロが出る程では無い。2戦なら耐えられる。
だが3度無整備で全力機動を取れば確実に折れる。
予定ではもっと余裕を持ち、少ない回数の戦闘で
勝負を挑む筈だった。しかしここで退く選択肢はない。
『ごめん、もっとマシな機体を用意出来れば……』
「はっ、キッチリ敵を殺せる火力があるんだそれで
十分すぎる。ついでに――」
ここで撤退すれば緑竜は領地を襲い人の恐怖を喰らう。
魔導力とは知性を持った生き物の感情によって発生する。
それ故に竜は人を襲う。
そして糧を得て緑竜が万全になれば勝ち目はない。
だが翼を失い、力を削られた今なら十分な勝機がある。
「レオが一緒に来てくれるならどうにでもなるさ!」
その言葉にレオは無言のまま前に出ることで応える。
もう喋る必要もない。ここから先はあの緑竜の攻撃が
ガイトを捉えて殺す前に、ガイトが5発攻撃を叩き込み
殺すだけの話。
戦場は針葉樹林がなぎ倒され生まれた500mの空間。
双方飛行能力は無し。相対距離は300m、魔導機兵に
とって数秒で駆け抜けられる白兵戦の間合い。
まず飛び出したのはレオのガンルージュ。一度大きく
右に跳躍してから距離を詰めていく。それに対して
緑竜はブレスを吐いて迎撃しようとするが――
左側に跳んだガイトのトラッシュアッシュが迫る。
飛行からの亜音速でのランスチャージと比べれば威力は
低いが秒速100m近い速度での突撃は無視できない。
『アインっ!』
『撃ちます』
ブレスを放とうとした瞬間を狙ってアインが緑竜の視界
外から竜断砲で狙撃。下位竜を貫く一撃も中位竜に対して
は有効打にはなり得ない。
衝撃で発射角を上にずらすので精一杯。そしてその隙間
を灰色の騎士が駆け抜ける。高熱で装甲を焼かれながら
それでも速度を落すことなく突撃剣槍を叩きつける。
緑竜の魔導障壁がランスチャージを受け止める。だが
その威力を殺し切るには至らず穂先が胴に突き刺さった。
「ちっ! やっぱり見た目通りの消耗か……っ!」
しかし鱗は貫いたが肉を削って止まる。まだ消耗の
蓄積が足りていない、横に飛び緑竜の横を走り抜けた。
「5秒、時間稼ぎ頼む!」
『ミリリリア、砲撃! バリウスは僕と牽制っ!』
『了解です、レー様!』
『ああくそ、無茶すぎませんか女男爵様……っ!』
ガイトが距離を取った次の瞬間、森の奥からミリリリア
の拡散竜断砲による砲撃が放たれ、100を超える剣弾が
緑竜に襲いかかる。
そのどれもが直撃してもダメージを与えられない威力
だが傷を庇って一瞬だけ緑竜の動きが止まった。
『この距離で…… せめて怯めよっ!』
バリウスの駆るエアリズが突撃し緑竜の顔面とガイトが
付けた腹の傷を狙って掃射を行う。顔面に対する攻撃は
腕で庇うが、腹の怪我は庇えずに怒りの咆哮を上げる。
「2発目ェっ!」
稼いだ時間で距離を取ったガイトが2度目のチャージ。
今回狙うのは腹では無く腕。突撃の加速と上段から振り
下し突撃剣槍を大太刀として緑竜の左腕の関節を狙う。
「Gruua!?」
背後からの奇襲に緑竜はギリギリの処で反応して左腕を
振り回す。最後の足掻きのお蔭で狙い通りに関節から両断
する事は出来なかったが音を立て緑竜の左腕が曲がる。
これで左腕は振るえない。
『バリウスは左から、ミリリリア再装填は!?』
『5秒お待ちを』
『寄れって事ですか、俺は専業騎士じゃないんですぜ!』
ミリリリアの支援が無い以上、もう一度チャージの為に
距離を取るのは難しい。この先は足を止めての殴り合い。
緑竜の背後から走り抜けて振り下した突撃剣槍の勢い
に逆らわず一回転して槍の間合いで着地する。
突撃剣槍は剣と槍の歪なキメラで突撃力では突撃槍に
劣り、剣よりも取り回しの面では不便だとされている。
だがランスチャージによる突破力と、足を止めての
殴り合いでも十分な打撃力を持つ武器として扱える。
「アーツ【ホライゾン】っ!」
緑竜の右手を潰す為、右側からの水平に剣槍を振るう。
だが緑竜はその一撃を爪で強引に打ち払う。
有効打にはなって居ないが、だがそれでいい。連続して
魔導障壁を展開し続ければ竜の魔導炉が悲鳴を上げる。
ニヤリ、とガイトは竜が笑ったような気がした。
左側から、何かが迫る。腕だ。先程ガイト自身が
折った腕を鞭のようにしならせ叩きつけて来る。
「チィっ!」
操縦桿をひねり、カウンター気味にトラッシュアッシュ
の右手を叩きつける。ぐしゃりと紙のように装甲が吹き
飛び飴細工のようにフレームが折れ曲がる。
だが、勢いは止まらない。ほんの一瞬操縦席への直撃を
押しとどめることしかできない。
『させるかぁぁっ!』
片手剣が目の前を通り過ぎ、鞭のように振るわれた左腕
を迎撃、レオが片手剣を投げつけてもう一瞬時間を稼ぐ。
「おぉぉっ!」
反って避ける、ガイトの脊髄と連動した姿勢制御で強引
にその一撃を回避。轟音、目の前を竜の爪が通り過ぎた。
『ガイトっ!?』
「アーツ【バーティカル】っ!」
反った姿勢を振り下しの一撃に変換して叩き込む。
トラッシュアッシュの左腕から赤色エーテルが吹き出し、
緑竜の顔面が両断される。
その代償で突撃剣槍の穂先は吹き飛んで宙を舞った。
「Gruooooo!?!?!?」
不意を突いた一撃は、緑竜が防御を張る前に直撃したが
ほんの僅かな差で刃は脳に届いていない。まだ緑竜は殺せ
ていない。
正面装甲が吹き飛んだ操縦席の向こう側に緑竜の瞳、
吐き気がする程の物理的な圧力の殺気に晒される。
「お――せェっ!」
その言葉よりも先に左の操縦桿を握りしめ撃鉄から指を
放して後ろに引く。その動作をトリガーにトラッシュアッ
シュが残った柄から手を放し拳を握る。
声よりも早く攻撃する為の特殊コマンド。操縦桿の操作
によるアーツ入力。滅多に使う事の無い文字通りの裏技。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。全身の酸素を吐き出しながら左手に
魔導力を込め、真っ直ぐに撃ちだした。正面のモニターは
吹き飛び拳の先は見えない。
魔導機兵の腕を犠牲に放つこの一撃は直撃さえすれば
緑竜の頭蓋を吹き飛ばすだけの威力はある。
だがそれが直撃するかは運次第。モニターを見ながらの
補正が出来ない以上、操縦桿に戻る手の感覚だけを頼りに
放つしかない。
抵抗はある、緑竜の体に命中したのは確かだ。
だが頭に直撃した保証はない。しかし賽は投げられた。
後は運命の女神がどちらに微笑んだのかを祈るだけ。
音が一瞬遅れて炸裂、操縦桿の抵抗が無くなったことで
トラッシュアッシュの左手が吹き飛んだ事を理解する。
1秒、2秒…… 動きはない。
『はは、マジか。あの召喚者。緑竜に勝ちやがった』
やったか、と呟く直前。その言葉でガイトは自らの勝利
を理解した。超音速で放たれた1撃はトラッシュアッシュ
の左手と引換に緑竜の頭を跡形もなく吹き飛ばしたのだ。
「バーカ、殺気敵に向ける前にやることがあるだろうに」
そう呟いて周囲を見渡す。正面装甲が吹き飛び吹き曝し
状態になった操縦席はアラームすら停止しており。
「あ、やば…… 倒れ――!?」
『ガイトっ……!』
バランスを崩し倒れ始める直前でレオのガンルージュが
支えに入り、倒れる前に事なきを得て――
最後の最後でしまらないなと思いつつ、半泣き声で
こちらの操縦席に踏み込もうとしているレオをどうして
やろうかと考えるのであった。
4-1は2016年01月24日(日)投稿予定です。




