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「バリウスさん、予備の竜断砲、二つです!」
ミリリリアは自らの駆るガンフォルテのラックに装備
していた速射竜断砲を握り、バリウスの駆るエアリズに
投げつける。
汎用動作による補正が2機の動きを調整し、狙い違わず
エアリズの手に予備弾倉が収まった。続けてもう一つも
投げ渡す。
『助かった、ミリリリア。状況はどうなってんだよ?』
自爆特攻に等しいガイトの突撃を見た瞬間こそバリウスは
平静を失ったがすぐにいつものやる気無い口調に戻っていた。
「はい、今領内に存在する魔導機兵での全機突撃です」
いつも通り、のほほんとした口調でミリリリアは応える。
服装はメイド服の上に装甲を纏ったアーマード侍女服。
スチームパンクな操縦席の空気に似合う機械仕掛けな
その服はガイトやバリウスの着て居る騎士服と同じように、
パイロットスーツとしての機能も持っている。
「レー様は愛機のガンルージュを狙撃仕様で、自動人形は
ガンフォルテ3機が狙撃仕様、エアリズ3機が格闘仕様
となっております。その上で――」
ミリリリアは自らが駆るガンフォルテの右手を腰に回す。
レオが駆るガンルージュとは違い外見上では特に目立つ
改造は施されていない。
トラッシュアッシュ以外の機体と同じ赤い装甲が一般的な
ガンフォルテとの外見上の一番大きな差異になるだろう。
特徴的なのはその獲物。口径30cmの地球含めて
機動兵器が装備する火砲としては最大級の砲門。
全長は8m、ガンフォルテとほぼ同じサイズの巨大武器。
拡散式竜断砲。装弾数1、携行弾数3、有効射程900m
自らの前方30~45度の範囲に120発の破片剣弾を
ばら撒くこの世界で数少ない広域制圧兵装である。
「私はこれを使います」
『ああくそ、それをこの森の中で使うのかよ……』
この拡散式竜断砲は野戦用の装備で大量の
下位竜を短時間で殲滅する必要がある場合、
コスト度外視で吹き飛ばす為の火砲。
本来ならば、100を下回る群相手に使う装備では
無いがコストよりも人の安全を優先したレオの判断で
投入が決まった。
「ええ、それではフォローの方はお願いしますね?」
『クソ、前に出ない分召喚者様よりマシだがよ……』
バリウスのエアリズが合流してきた自動人形が駆る
2機と共にミリリリアのガンフォルテの護衛に付く。
「アーツ【スタビライザ】【ショットポジション】」
本来なら振り回すだけで機体のバランスが崩れる巨砲を、
強引な慣性制御で押さえつけ射撃姿勢に入る。ミリリリアの
ガンフォルテが片膝をつくと同時にバイポッドが展開する。
「レー様からの射撃指示は無し。敵の密度は――」
レーダーを確認し、光点が集まっている場所を確認する。
光点の数は40と1、その全てが時速200km前後で
こちらに向かってくる。
違和感がある、何か足りない、具体的には光点が15程。
「えぇっと、バリウスさん。敵の飛竜はどうなって?」
『……全滅だ、召喚者様が3分でな』
ミリリリアは一瞬だけ驚くが、まぁそういう事もあるかと
納得する。彼女が信じるレオナ=L=ローシュタインという
少女がこの状況を打開する為に呼びだした人間なのだ。
「はい、そうならばこちらもお仕事を開始しましょうか」
地上を這うトカゲの位置を示す光点の密度、距離、加速度
レーダー上の動きを読み込みながらゆっくりと確実に照準を
合わせつつ、発射する120発の剣弾に対して大ざっぱに
魔導力を込めていく。
(散布から命中確率と命中数のスコアを算出、総合スコアに
対する期待値が最大になる射角に対しての誤差修正……)
レオナからの指示はない。つまり自分の判断で出来る事を
やればいいという彼女からの信頼を感じつつ、ミリリリアは
トリガーを引く。
甲高い金属が擦れる音の後に轟音。魔導力で加速された
集束型弾頭は100m程直進した後、炸裂し120発の
剣弾が歩み寄って来た40弱のトカゲに襲い掛かった。
その半数以上が針葉樹の幹に吸い込まれるが、残りの
剣弾は狙い外さずトカゲの魔導障壁を無効化しその肉を
刺し貫く。
「有効弾50弱、命中個体数32、撃破23……
残り約10匹、バリウスさん大丈夫ですか?」
予想よりも大きな成果が上がるが、逆に悩ましい。
もう一撃放つには敵数は少なく、かといってバリウスと
自動人形のエアリズ3機で迎撃するにはやや数が多い。
更に撃破出来たか分からない個体も存在している。
だが今やるべきことは撃破確認では無い。
居るか居ないか分からない敵を探すよりも目の前の
敵を倒さなければ自分達の命が危うい。
『めんどくせぇ、いざって時は再装填から一掃頼む』
がちゃり、とバリウスの駆るエアリズが二丁の
速射竜断砲を構える。ミリリリアが持つものと比べると
圧倒的に小型だがトカゲ相手なら十分な火力はある。
形状としてはサブマシンガンに近く、装弾数は20発。
傷ついた個体相手なら1発で、そうでなくてもバースト
射撃で撃ち込めば十分だ。
一番先頭のトカゲは300m、魔導機兵と竜の戦闘に
おいてほぼ目前にまで迫っている。
『まずは―― 一つ』
その場で動かず、右手の竜断砲からのバースト射撃が
トカゲの頭を吹き飛ばす。間髪入れずにエアリズは大地を
蹴って前進、いや跳躍する。
ガイトのトラッシュアッシュと比べれば速度は劣るが
それでも時速600km近い加速で迫って来たトカゲの
群の中央に飛び込んだ。
『次、次――、次次、次――っ!』
その場で周囲のトカゲに対して射撃を開始。
バースト、単射、単射単射、バースト。銃身から剣弾が
撃ちだされる時に発する甲高い音が森に響き竜は一匹ずつ、
だが確実にその命を散らしていく。
「ふーん、何というか少し…… 意外ですね」
ミリリリアから見てバリウスという男は有能だが戦場で
前に出るタイプでは無い。コストを消費してでも安全を
求める慎重なタイプ。
普段こそずぼらな格好をしているし、無精ひげも目立つが
それは単純に領地経営に限りなくリソースをつぎ込もうと
しているだけだ。
リソースを必要な処に振り分け、効率を上げ発生した
利益を安全の為に消費する。
ここ2年ほどの付き合いだが、そういう安全志向の
持ち主であり、少なくとも他に手段がある場面で自分が
前線に突っ込んで竜を狩るのはらしくないと感じる。
飛竜と比べブレスも撃たず、空も飛べず弱いトカゲ
であっても本来なら1体で10匹以上の群に突っ込むのは
リスクの方が大きいと言われているのだ。
「男としてのプライド…… って奴なんでしょうか?」
あの中年にも意外と可愛いところがあるのだとミリリリア
は微笑みながら次弾を装填し、万が一に備え砲を構える。
実は今後ガイトと共に組むことを考え、少しでも実戦での
勘を取り戻そう突っ込んだだけでしか無かったのだが。
その勘違いにミリリリアが気づくのは先の話になる。
次話は2016年01月22日(金)予定。




