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屑鉄のジャンクノート  作者: ハムカツ
異世界召喚編
1/24

1-1

 空を見上げれば視界いっぱいに飛竜の群が広がっていた。

レーダーの上で百近い光点が光っている時点で予測は出来て

いたが流石に直接確認するとげんなりしてしまう。



「レオ、状況はどうだ?」



 本来は別動隊が群を分断。ボス対する切り札として温存

されているメンバーの道を作る予定だった筈で、群の飛竜が

半分近くがこちらに飛んで来るのは異常事態だ。



『ダメだね、今攻めてるメンツの半分は下位狩りメインの

 二流の騎士ばかり、目端の利く連中は損切りして撤退中』



 通信機から聞こえる相棒の言葉にガイトは頭を抱える。

ギルドや騎士団に所属して居ない寄せ集めの集団とはいえ

余りにも現状の惨状はお粗末過ぎた。



『で、どうするガイト。個人的にもここは損切りするのが

 スマートなやり方だと僕は思ってるんだけれども?』



 相棒であるレオは通信機から諌めるような言葉を並べる。

だがその口調と、通信機のウィンドウに表示されている少年

の表情はそれと矛盾していた。



「おいおい、ここで撤退して何になるってんだよ?」



 その問いに対してガイトは頭を抱えたままニヤリと口を

歪めて返事を返す。その声色はまるで餌を目の前にした

獣と同じだ。



『このまま戦ったら発生する損失は避けられるよ?』



 ガイトと相棒であるレオは生身で10mを超える竜に

立ち向かう訳では無い。魔導機兵(マギナギア)と呼ばれる鋼鉄の巨人

を駆り人の身では傷を与える事すら難しい竜と戦うのだ。


 10m近い人型の巨人が戦えば整備や補給が必要になる。

更に負け戦ならば機体も無事で済まず小破中破なら御の字。

下手すれば撃破され新しい機体を買い替える必要も出る。


 つまりここで突っ込んだとしても勝てる見込みが少なく

負ければ大きな損害を受ける事になる。



「けど、そいつは楽しくないだろう? 出撃して

 なにもぶっ壊さずに帰るってのは座りが悪い」



 だからガイトはニヤリと笑って退くことを否定する。



『まったく、いいの? 今日のはメインマシンなんでしょ?』



 レオも諌める言葉を続けるがそれを止める気は無い。

むしろ無茶をやるのが楽しいのだといわんばかりだ。



「所詮これはゲームで遊び、ここでで突っ込まないのは、

 壊し合いで壊されるのを怖がるのは全然粋じゃねぇ!」



 つまり国一つ滅ぼす竜もガイトやレオが駆る魔導機兵も、

そもそも今彼らが存在する世界【ドラグラド】そのものが

量子サーバー上に作られた仮想の存在でしかない。


 VRMMOゲーム、つまり仮想空間で行われる大規模な

多人数同時参加型オンラインゲーム。VR空間で真に迫った

リアリティによって表現されていたとしても本体価格は税別

12980円、月額1980円その他課金要素で提供される

ただのゲーム。


 総プレイヤー数10万弱、アクティブユーザー4万人弱。


VRゲーム戦国時代と呼ばれる2030年代においてそこそこ

程度の人気があるコンテンツでしかなく、人気作のように

それで食っていけるプロなんてものは存在せず、経済に

大きな影響を与える事も無い。


 良くも悪くもこの【ドラグーンエイジ】はゲームの枠に

収まった存在でしかない。



『へぇ、つまりガイトはどう足掻いても絶望な戦場(ステージ)

 1年手塩をかけて作った魔導機兵を突っ込むんだ?』



「うるせぇレオ、やる気が無いなら帰れよ」



 そしてこのイベントもサーバー毎に月一で行われる程度の

イベントでしかない。失敗しても次があるレベルの話だ。

しかし、だからこそ――



『冗談、やるんでしょ。この状況なら狙いはMVP?』



 本気で人生賭けて課金しているトッププレイヤークラスの

人間が損切りして離脱している現状は、定額プレイで中堅

上位でしかないガイトとレオが本来届かないMVPに挑める

数少ない機会なのだ。



「当然、トップギルドの【鋼鉄傭兵団】と【暗黒★騎士団】

 は離脱済み、サーバートップランカー連中も残ってるのは

 【むせる赤肩】と【バロン・ザ・オレンジマスク】そして

 【不死身のレモンソーダ】みたいなルーニーばかり」

 

『ガチで攻めれば僕らならMVPを取れる位置って事だね。

 そもそもこの群に対して今の寄せ集め集団が勝てるの?

 って問題はあるんだけど』


 

 実際に状況は加速度的に悪化していた。高度な連携で前線

の崩壊を押しとどめていたギルドが撤退し、残るランカーも

戦果よりも面白さ重視(ルーニー)な連中が末期戦ごっこを始める始末。



「はっ、そういう状況をひっくり返すのが……」



 だが、だからこそ。劣勢をひっくり返し勝利する未来と

その時に感じられるであろう高揚感に身を震わせながら

ガイトは機体を待機状態から戦闘状態に切り替えていく。


 ガイトの意志に反応し仮想空間に存在するアバターが

起動キーを操作、魔導炉に魔導力(マギナ)を注ぎ火を灯す。


 魔導力、このゲーム内に存在するエーテルを媒介に生物

の意志を増幅する事で発現する、物理現象を捻じ曲げる力。


 その力によってこれまでただの鉄塊でしかなかったガイト

の愛機に熱と荒れ狂うような力が宿る。



「最高に楽しいんだろう、行くぞ【ジャンクノート】っ!」

 


 それに応え鋼鉄の巨人が、いや屑鉄の悪魔が立ち上がる。

黒い装甲の上に走るシルバーのライン。肥大した右手には

機体の全長を超える12mの巨大な槍を構えている。


左手には巨大な爪と巻き取り機。両足は馬の様な鉄の蹄、

その背には一対の異形の翼。


 ディテールこそメカニカルでスチームパンクな雰囲気を

纏うが、全体を見渡せば巨大な槍を持った悪魔以外の何物

でもない。



「モードを待機から巡航に切り替え、フォロー頼む!」


『はいはい、分かってますよっと!』



 ジャンクノートの顔面にあるスリットの内側に赤い(モノアイ)

灯りその翼から爆発的な魔導力が放出される。



『【ブラッディクラウン】起動、アーツ【道化兵団】!』



 ガイトが駆る【ジャンクノート】の背後で複数の

魔導機兵が起動し、振り返れば赤い細身の機体が10機

程立ち上がる。

 

 その内レオが駆る機体を除いた9機はNPCであり、

通常はプレイヤーが駆る魔導機兵に対抗する事は出来ない。



『アインからドライは僕の護衛、フィーアとフュンフは

 【ジャンクノート】の援護、残りは通常戦闘モードで

 僕を追尾! いいね?』



『『『『『『『『『Yes, My Lord!』』』』』』』』』



 だがレオが手塩にかけて組み上げた行動ルーチンとその隙

を補う的確な指示が組み合わされば、並のプレイヤーとの

即席な連携よりもずっと強力な戦力として機能する。


 レオを含む10機の魔導機兵による竜断砲の一斉射撃は

対ザコでも対ボスでも有効な牽制かつ、蓄積するダメージも

馬鹿にならない。



 なおNPCが自動人形、つまり自立型のオートマータで、

レオが手塩にかけて外見まで調整しているモデルなのは少々

趣味が過ぎるのではないかと感じることもある。


 しかしガイト自身の性根も褒められたものでは無い、

その程度の趣味人っぷりも可愛いものだ。



「んじゃ一発突っ切って来る! その間に【むせる赤肩】

 辺りと話を付けといてくれ、あいつなら末期戦ゴッコの

 延長でこっちの無茶にも付き合ってくれる!」


『了解、そっちも出来る限り戦果を叩き出して来てくれよ?

 それ次第で何人か【暗黒★騎士団】から引っ張れるから』


「じゃあ頼んだぜ【血染めの道化師】!」


『もぉ、その恥ずかしい二つ名で呼ぶな【屑鉄の魔王】!』


「そっちも呼んでんじゃねーかバーカ!」



 そうやって互いにノリで付けあった半ば黒歴史化した

二つ名で呼び合って笑い、【ジャンクノート】は飛竜の群に

向けて飛翔し、【ブラッディクラウン】は前線の崩壊を食い

止めに走る。



 その後の結果は語るまでもない。【ジャンクノート】を

駆るガイトの暴力的な突破力と、烏合の衆を奇跡的な手段で

まとめ上げたレオの活躍。


 この二つによりトップランカーが勝てないと踏んだ戦いは

見事ボスである上位竜の撃破で幕を閉じることになる。


 しかしその喜びはすぐに吹き飛ぶことになった。


 この戦いにおいて陣営をまとめ上げた功績でレオが月間

MVPに輝き、二人でその事を喜んでいる最中。急にレオは

ログアウト。


 そのまま現実でも行方不明になってしまったのだ。

すっぱりと突然この世界から消失してしまったかのように。


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