表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

メランコリーフェミニン

作者: 手這坂猫子

 男子高校生が電車の中で女装を始めている。それに気づいたのは、僕が杖を突いた老婆にその少年の隣席を譲って二駅が過ぎたときだった。

 吸盤つきの鏡を窓に固定し、鞄の中から桃色のポーチを出すところまではさほど気にしていなかった。男が持つには随分可愛らしいものだな、と思っただけだ。しかし耳が隠れるくらいの黒髪を丁寧に櫛で梳かした後、彼が鞄から取り出した栗色のウィッグをかぶった途端車内の空気はかすかにだが変わった。

 何をやっているんだ、こいつ。

 きっと同じ車両に乗り合わせた客のほとんどがそう思ったはずだ。さっと視線を巡らせてみたところ、眉を顰めながら彼を凝視しているのは数人だけで、大抵の人は見て見ぬふりをしている。少年のすぐ隣の老婆は居眠りをしていたが、もし自分の孫が交通機関で人目も憚らず女装を始めていたらと一度でも考えたことがあるだろうか。

 幸い僕は少年の視界に入らない位置に立っていたため、窓の外を眺めるふりをして彼をよく観察することができた。慣れた手つきで日焼け止めクリームと別の肌色に近いクリームを顔に塗る。それだけで肌の色がさっきよりも綺麗になった。次にビューラーで睫毛をカールさせたかと思うと、アイシャドウ、名前はわからないが細い筆ペンのようなもの、マスカラを使う。

 まさか罰ゲームか何かなのだろうか。そんな考えが頭に浮かんだ。電車内での行為として化粧は悪目立ちする――しかも女ではなく男が女装のためにしているのだ――が、居合わせた乗客に対する実害は特にない。わざわざ学校を特定して苦情の電話をかける者もそれほどいないだろう。精々電車から降りた後に「そう言えば、さっき電車の中で男子高校生が女装してたよ」と笑い話のタネになるくらいだ。しかし罰ゲームにしては本人がやけに堂々としているうえ、化粧の手際もかなり鮮やかだ。違うかもしれない。

 口紅だけじゃなく複数の道具で薄い唇に色艶を出した少年はそこでポーチを片付けたが、まだ終わりではなかった。彼は白いカッターシャツを脱ぐと、それも鞄の中に押し込んで別の服を一式取り出した。もしカッターシャツの下に黒い肌着を着ていなかったらさすがに問題だっただろう。肌着の上から白いフリルブラウスを着て、席に座ったまま器用にワインレッドのふわふわとしたスカートを履き、その中でスラックスを脱ぐと元々履いていたらしい黒のニーハイソックスに包まれた脚が露わになる。少年は最早、可憐な少女と言っていい姿に変貌していた。

「………………」

 このとき、電車の中で堂々と女装をしてみせた少年に対して、戸惑いよりもふつふつと湧き上がる怒りを覚えたのは、恐らく車内でも僕一人だけだっただろう。

 高校卒業と同時に始めた一人暮らしで借りているアパート。その最寄り駅で僕を含む数人の大学生や社会人以外に、女装した少年も電車を降りた。身長は僕よりも少し高い、百七十センチ前後だろうか。改札を抜け、階段を下りる手前でさり気なく足を止めた僕は少年のすぐ後ろを歩く。そして階段の下にある男女共用トイレが近づいたとき、彼の襟を掴んだ。振り返られるより先に全力でトイレへ連れ込む。誰もいなかった。都合がいい。

「おいっ。何するんだ」

 凛としているが、間違いなく声変わりした男の声だった。素早く洗面台の蛇口を限界まで開き、冷水が迸る下に無理矢理少年の頭を押しつける。真冬だったらさすがに気が咎めたかもしれないが、今はまだ秋に入りかけた九月下旬だ。僕は逃れようともがく少年を上から押さえ込んでいたが、力は相手の方が強かった。十秒と経たないうちに洗面台から身を起こした少年が両手で顔面を拭い、僕の顔に冷たい雫が散る。同時に煮え滾っていた頭の中が、すうっ、と冷えていくのを感じた。

 これって暴行罪で訴えられるんじゃないのか。

 今頃になってそう気づいた僕は、まだ少年が悪態をつきながら顔を拭っている隙にトイレから飛び出し、普段は通らない商店街の雑踏を突っ切ってアパートに帰った。

「もしもし。ナル、今話せるか?」

 一人で時間を過ごすことが妙に居た堪れなくなった僕は夕食後、(なる)(がみ)に電話をかけた。今年の四月から同じ大学に入って学部は別れたものの、中学校から一緒で気が置けない友人だ。彼は僕の話を聞くと盛大に笑い出した。

『へえ。電車の中で女装少年に遭遇か。面白そう。僕も同じ電車に乗ればよかった』

 笑い声の後ろでピアノが聞こえた。トロイメライだ。クラシック音楽が好きな彼は、よく部屋でロベルト・シューマンの《子供の情景》を流している。

「ナルは自転車通学だろ。それに、見ていてあまり気分のいいものじゃない」

『でも同じ電車に乗って同じ駅で降りていたら、逆上して高校生の頭を水浸しにするスナが見られたかもしれないのに』

「暴行罪で訴えられると思う?」

『相手にその気があったらな』

 法学部の鳴神はほとんど間を置かずにあっけらかんと答える。僕が深く溜め息をつくと、彼は『そう言えば』と声の調子を落として言った。

『スナ。お前、今日振られたんだって?』

「…………クラスメイトならともかく、何故学部の違うきみがそれを知ってるんだい」

忽滑谷(ぬかりや)がさっそく自分で吹聴してたから』

 僕はさっきよりも大きく深い溜め息をついた。溜め息をつくたびに幸せが逃げると言うのなら、僕の幸福残高は限りなくゼロだろう。

『あんな奴、やめとけばよかったのに。あいつ人当たりがよく見えるけど下心持ちの八方美人で、おまけに恋人の理想が高いって聞いたぞ』

 そこまで言ったところで、鳴神は突然何か気づいたように息を呑んだ。

『ひょっとして、忽滑谷に似ていたとか?』

「え」

『その女装少年』

「……いや、似てなかったよ」

『ふうん。じゃあただの八つ当たりか』

 その後僕は片手で鞄の中を整理しながら鳴神と雑談――特に盛り上がった話題は鳴神の気難しい彼女についてだった――を続けていたが、あることに気づいて頭を抱えた。

「やってしまった」

『え、何が』

「定期落とした」

『……心当たりは?』

「改札抜けたときは手に持ってたはず」

『まさかとは思うけど、トイレで落とした?』

「………………」

『おいスナ。その無言は肯定か』

「……ああ」

 僕はあのとき蛇口を全開にするため、左手に持っていた定期を鞄に入れるのではなく洗面台に置き、そのままトイレを後にしてしまった。

『今から行くつもりか?』

「さすがに今からはちょっと……。明日は一限が休講だし、探し回ってみるよ」

『無駄だと思うけどな。絶対にその女装少年が持ち帰ってるはずだ。そうでなくても定期は拾われて悪用されやすい』

「わかってるさ。もう切るぞ」

『ああ。じゃあな』

 電源を落とした携帯端末の黒い画面には、我ながら随分疲れた様子の冴えない顔が映っている。今まで一度も好きだと思えたことのない、僕の顔。

「ああもう、面倒臭いな」

 今日はもうさっさと風呂に入って早く眠ってしまおう。明日のことは明日の僕に任せればいいんだと自分に言い聞かせ、僕は着替えを持って部屋から出た。



 翌朝いつもと同じ時刻にアパートを出て、あの男女共有トイレに向かった。しかしどこを探しても定期は見つからず、ちょうどやってきた清掃員に訊いても知らないと言われる。念のため駅員にも訊ねた。落し物の確認をするため席を外したその駅員は、しばらくして遺失物取扱所から戻ってきたのだが、申し訳なさそうな表情は全てを語っている。

「すみません。確認したのですが、落し物として届けられてはいないようです」

「そうですか……」

「警察に届出をされてはどうでしょうか」

「はい。ありがとうございました」

 通学や通勤のため特に混み合うこの時間、僕は駅の外にあるベンチで虚しく項垂れた。イヤホンから流れるお気に入りのインストゥルメンタルも今は気休めにしかならない。仰け反るように空を見上げてみると、地上に蔓延る人間の苦悩を全て嘲笑っているのかと被害妄想したくなるほど青く澄み渡っている。

 今まで届出などしたことがないから詳しくはわからないが、遺失物届は確か費用がかかるのではなかっただろうか。定期を失くしたことは惜しいけれど、これから一度も訪れたことのない警察署まで行って遺失物届を出すのは面倒臭い。

「罰でも当たったのかな」

 衝動的な八つ当たりで赤の他人を水浸しにした結果、定期を紛失した。因果応報。その四字熟語で片付けてしまえばこれ以上労力を使わずに済む気がする。人生、諦めも必要だ。

 結局僕は往復切符を一枚だけ買った。

「スナ。どうだった、定期は」

 鳴神がそう話しかけてきたのは、僕が二限目の講義を終えて三人のクラスメイトと食堂に訪れたときだった。一番早くハヤシライスを持って席に戻った僕以外、まだ長い列を成す麺類コーナーに並んでいる。そんな中、鳴神は僕の向かいに天丼を持って現れた。

「見つからなかったよ」

「そっか、残念だったな。警察に届出は?」

「考えてみたけど、面倒だから諦めることにする。しばらくは往復切符を使うつもり」

 言いながら麺類コーナーに目をやったが、クラスメイト三人が戻ってくるにはまだまだ時間がかかりそうだ。僕達は一旦話を終えて、食事を始めた。全員揃うのを待っていてはせっかくのハヤシライスが冷めてしまう。

 ふと、南瓜の天麩羅を咀嚼する鳴神の顔がいつもより暗いことに気づいた。

「ナル、どうかしたのかい」

 僕が訊ねると、鳴神は口の中にあるものを嚥下してから「何が」と短く返した。

「なんだか暗い。それに昼食はいつも碓氷(うすい)さんと一緒だっただろ。今日は彼女休みか?」

 すると鳴神は無言で箸を置き、ペットボトルの烏龍茶を飲んだ。そこから妙にやさぐれている様子を感じ取った僕の中で一つの仮定が浮かぶ。

「ひょっとして、喧嘩でもした?」

「……一限の講義が終わった後にちょっと些細なことで口論になって、僕が《こんなときスナだったら何も言わずにわかってくれる》って言ったんだ。そうしたらあいつ《それならスナと付き合えばいいじゃない》とか吐き捨てた」

「馬鹿だろ」

 口論中とは言え碓氷さんのような女性相手に誰かを引き合いに出すなんて、男だろうと女だろうともっての外だ。そもそも何故僕を引き合いに出したんだこいつは。

「そう言うわけだからスナ、付き合ってくれ」

「お断りするよ。僕は友達と恋愛するような趣味なんてないんだから、他を当たれ」

 傍から見ただけではわかりにくいが、どうやら鳴神は相当参っているらしい。僕はようやくラーメンやスパゲッティを手に戻ってきたクラスメイトに彼の対応を丸投げした。

 その後四限目の講義を受けているとき、隣の窓際に座っていたクラスメイトが僕の肩を叩いた。何か珍しい鳥でもいるのか、と思ってクラスメイトが指差す先――窓の外を見る。鳴神と碓氷さんだ。金木犀の傍にあるベンチで仲睦まじげに寄り添っている。

「…………」

 つい昨日意中の相手にこっ酷く振られた僕の傷心に、その光景は少々眩し過ぎた。

 金曜日の科目が全て終わったときほど小さな幸福を感じる瞬間はない。どうやら僕の幸福残高はまだゼロではないらしいと考えつつ電車で三十分ほど揺られ、往復切符を改札に差し込んで駅の階段を下りる。定期から切符に変わっただけでいつも通りだ。しかし男女共用トイレの近くで佇んでいた見覚えのある姿に、僕の小さな幸福感は霧散していった。

「きみは……」

 染めても跳ねさせてもいない清潔感のある黒髪、若干眦が上がったどこか猫のような目、百七十センチ前後のやや細い身体を包む白い長袖のカッターシャツと濃灰色のスラックス、肩に提げた黒い通学鞄。間違いなく僕が水浸しにしたあの男子高校生だった。改めてよく見ると線が細く、利発そうな顔立ちをしている。

「これ、忘れ物」

 そう言って彼は僕の定期を目の高さまで持ち上げた。どうせただでは返してくれないのだろう。そう思った僕はすぐには手を出さず、じっと無言で見つめた。すると少年は「ナノツキ、スナゴ」と定期に片仮名で記されている僕の氏名を読み上げた。

「漢字はどう書くんだ?」

「教える義理はないよ。それに皆、スナって愛称で呼ぶ」

「俺は()()(ぐん)(ぞう)。志の波、群像劇の群像って書く」

「別にきみの名前は聞いてない」

「名前はこれから呼び合うのに重要だろ。どうせなら群像って呼んでほしい」

「話の意図が読めないな。さっさとそれを返してくれる条件なり何なり言ってくれ」

 すると群像は僕の定期を鞄にしまい、生意気そうな笑みを浮かべた。

「スナさんはどうして俺にあんなことをしたんだ? 電車で化粧や着替えをする奴に腹を立てたのかもしれないけど、身内でもない俺にあそこまで暴力的になる理由はわからない」

「……昨日はたまたま虫の居所が悪かった。そんな日、きみにだってあるだろ。定期を返してくれないなら僕はもう行くよ」

 僕は群像の横を通り抜けようとしたが、素早く左腕を掴まれた。謝罪の言葉がないことに気づかれたのかと思ったが、彼は相変わらず笑みを浮かべている。

「定期に十九歳って書いてあった。スナさんは専門学校か大学のどっちかだろ。何年生?」

 いっそ適当な嘘でもついてやるかと思ったが、何の得にもならないだろうからやめる。

「大学一年生」

「俺は高校三年生だ」

 受験生かよ、と僕は呆れた。問題行動を起こしてしまわないかと学生も教師も神経質になるこの時期に、よくもあれほど堂々と電車の中で女装したものだ。

「大学生なら土日は休みか」

「明後日は休みだけど、明日は今日休講になった一限目の補講が入るよ」

「終わるのはいつ」

「講義が終わるのは十時半」

「じゃあ、明日の正午だ。この駅前にある本屋で待ち合わせだな」

「何か奢れって言うのか。言っとくけど僕はアルバイトをしてないから、金はないよ」

「この定期を買うだけの金はあるだろう。……それよりも、訴えられる方がいいか」

 そう言ってくつくつ笑うと群像は手を離し、僕の帰り道とは反対方向に去っていった。

 もしかしたら僕は、かなり厄介な奴に弱みを握られてしまったのかもしれない。



 翌日、補講が終わると僕は時間を潰すことなく大学を出て電車に乗り込んだ。一旦アパートに帰り、いつもより重たい財布だけ鞄に入れてから駅前の本屋に足を向ける。

「十一時、四十分か」

 待ち合わせの時刻にはまだ早い。立ち読みでもするかと文学の棚に移動したところ、アルチュール・ランボーの詩集を読む群像を見つけた。肩まで伸びた栗色のウィッグはハーフアップにされ、元の黒髪を完全に隠している。そしてチョコレート色のブラウスシャツに、裾が朝顔みたいに広がった雪白のレースつきスカートという女装だ。当然のように化粧も上手に施してある。決して厚ぼったくない、ナチュラルメイクと言う技術だろうか。

「群像」

 僕が名前を呼ぶと、はっと驚いたようにこちらを見る。目が合った瞬間彼は笑みを浮かべ、すぐに詩集を本棚に戻した。

「随分早かったな」

「それはきみもだろう。……定期はちゃんと返してくれるのかい」

「もちろん返すさ。スナさんが今日、しっかり俺に付き合ってくれれば」

「そして費用を全て負担しろと?」

「そこまで俺が嫌らしい奴に見えるのかよ」

「他人の忘れ物をさっさと返してくれない時点で嫌らしいだろうが」

 いつの間にか近くにいた数人の客が、一見すると少女だが男の声で喋る群像に奇異の眼差しを向けていた。どうやら女装と気づいた人もいるらしく、視線は好奇に変わり、ひそひそと囁きを交わし始める。群像が女装していることを知る僕からしても、彼はフェミニンでコケティッシュな装いをした少女にしか見えない。だからこそ誰もが、自分の耳は異常をきたしたのではないか、と言うような表情で容赦なく視線を送っている。

「スナさん。昼食はまだか?」

 周囲からの視線や囁きなどまるで感じていないかのように話題を変えられ、僕は一瞬質問の意味がわからなかった。チュウショクハマダカ? まだ食べていない、はず。

「まだだよ」

「じゃあ、ちょっと早いけど食べに行くか。むしろ今頃の方が空いていそうだ」

 そう言って群像は本屋を出た。さも当然のように僕の左手を掴み、軽い足取りで駅ビルに入っていく。振り解いてやってもよかったが、それはさすがに年上らしくないような気がした。僕はそのまま三階の、まだ入ったことのない洋食店に案内された。

 群像が言っていたことは正しく、店内はそれなりに客がいるものの満席ではない。僕と群像は窓際にあった二人掛けの席に案内された。

「ここでは奢りも割り勘もなし。自分が注文した分だけ払う。それならいいだろ」

 メニュー表を僕に寄越した群像は窓から外――駅前ロータリーを走るバスの群れを眺めつつ言った。どうやら常連なのか、彼自身注文するものはとうに決まっているらしい。

「決めたよ」

 五分ほど悩んだ僕がメニュー表から顔を上げると、群像がちょうどよく通りがかったウェイトレスを呼び止めた。

「半熟卵のカルボナーラ、ハッシュドビーフのシチュー、きのこと旬野菜のソテー。食後にティラミスパフェ。あとジンジャーエールを早めに」

「……ミラノ風リゾットとシーザーサラダで」

 群像が結構食べる方なのか、それとも僕が小食なのだろうかと考えているうちに、ウェイトレスは注文の確認を終えて立ち去った。

「普段からそんな小食なのかよ」

 独り言を呟くように群像が訊ねてきた。

「それともあんまり金を使いたくないから、あれだけしか頼まなかったのか?」

「僕にとってはあれでちょうどいいんだ」

 確かに貧乏性なところはあるが、食事を我慢するほどではない。

「だからそんなに痩せてて、背も低いんだろ。もっと肉とか食えばいいのに」

「きみより少し低いってだけで、一応平均はあるよ。群像だって特別背が高いわけじゃないだろう。僕と大して体型が違わないのに、よく入るな」

 これ以上女子高生のように女々しい体型の話題を続ける気は起きず、僕は視線を窓の外に向けた。土曜日ということもあり、通りを行き交う人がいつもより多い気がした。

 ふと、自分が群像と二人で洋食店の席に座っている現状を客観的に考えてみる。片方の椅子に座っているのは可愛らしい服を着た女子高生、もう片方の椅子に座っているのはノクターンのドレープシャツと黒いスキニーパンツ姿の冴えない大学生。不釣り合いな恋人とでも誤解されてしまいそうだ。しかし居合わせた客の中にはもう声を聞いて、群像が女装した男だと気づいた者もいるかもしれない。

「スナさん」

 不意に名前を呼ばれ、意識が思考から現実に引き戻された。

「今、何考えてるんだ」

「別に。何か考えていたとしても、きみには関係ないことだよ」

「ふうん……。だったら、俺について考えてみればいい」

「何」

「色々知りたいことがあるくせに、ずっと黙ってるだろ。年上の気遣いなんていらないぜ。俺は同級生の中にいる、ちょっと親や教師から叱られたくらいで逆上して暴れるような馬鹿じゃないんだ。もうじき十八歳になるんだから、それくらいの分別はある」

「………………」

 ほどなくして料理が運ばれてきた。僕は大振りのスプーンでリゾットを掬ったが、まだ舌が火傷しそうなほど湯気を立たせるものをすぐには口に入れられない。だからリゾットが少し冷めるまで、群像に質問してみることにする。

「群像は女に生まれたかったのか?」

 カルボナーラをフォークにくるくると巻きつけていた彼は、ぴたりと手を止めた。

「……ちょっとなら」

「どうして」

「小学生――思春期を迎えた頃から羨ましかったのを覚えてる。女の子同士で集まって行動することも、恋愛の話に盛り上がることも、お互い腹の内を探り合うことも。休日の朝は特撮の戦隊モノよりもアニメの魔法少女モノをよく見ていたな。……表向きは綺麗なのに、中身がどろどろとしてる女の子がいつの間にか憧れの対象になっていた。でも、何より羨ましいのは可愛いものを身につけても変に思われないところだ」

「可愛いもの?」

 聞き返しながら、そろそろ冷めてきた頃かなとスプーンに息を吹きかける。

「パールボタンのついたブラウスも、フリルやレースで飾られたスカートも、リボンがついたワンピースも、花や蝶の柄がある振袖も、お姫様が着るみたいなドレスだって、男が着たら変な目で見られるだろ。化粧だって同じだ。持ち物の色がピンクってだけでもからかわれる。女は男の服を着てもボーイッシュってだけで片付けられるのに、不公平だ」

 僕は適当に相槌を打ち、リゾットを口に運んだ。なかなか美味しい。群像は憤った口調でありながら、器用なことに顔は生意気な笑みを浮かべたまま続ける。

「可愛いものは全部女のものだなんて、おかしいじゃないか。普通って認識は残酷だよ。親も友達も教師も、俺の女装を知った途端皆気持ち悪いって顔をした。特に性の障害を患っていないと知ったら尚更だ。スナさんも澄ました顔で隠さなくたっていい。本当は今、耐えられないくらい嫌な気分なんだろう」

「何が」

「女装してる俺と一緒にいることが。だからこの前、俺を水浸しにした」

 そう言い終えると僕の返事は待たず、群像はカルボナーラを巻きつけたままだったフォークを口に持っていった。しばらくはお互い黙々と食事をした。空いた皿が下げられ、最後にティラミスパフェが運ばれてくる。

「一口、どう」

「きみのじゃないか」

「俺が注文したパフェをどうしようと俺の勝手だ。この店にあるパフェの中で一番美味いんだぜ。……もしかして、甘いものは苦手?」

「そんなことない」

 僕は勧められるがまま一口だけティラミスパフェを食べた。ココアパウダーを表面にまぶした、甘いチーズのアイスとスポンジケーキ。かすかにオレンジリキュールが香る。

「ティラミスの語源、知ってるか」

 ガラスの器がほとんど空になったとき、群像が不意に訊ねてきた。ティラミスの語源。いつだったか聞いたことがある。確かイタリア語の文章だったはずだが、忘れた。僕が首を横に振ると、群像は最後の一口を食べた後、上品に口元を拭ってから言った。

「《私を引っ張り上げて》」



 洋食店を出た僕達は駅前でバスに乗り込み、繁華なショッピングモールに向かった。歌手の名前も曲名も知らないヒットソングばかりがあちこちから耳に入ってくる中、新しい服とマニキュアを買うのだと群像に連れ回され、時計を確認してみればもう二時間以上経っている。何軒も梯子しておきながら購入まで至らない店ばかりだったが、ようやく一軒の女性向けブティックが彼の御眼鏡にかなったらしい。

「それでしたらお客様、このブラウスはいかがでしょう。袖にケープとお揃いのカットワークを施してあります」

「へえ……。すごく可愛いですね」

 若い女性店員と楽しげに会話する群像の手には黒いケープが握られている。残暑が過ぎ去れば、どこの店でも早々に秋や冬用の服を取り扱うらしい。店員は群像が男だと気づいているはずだが、見事な職務精神で彼を普通の客として対応している。僕は数歩離れたところでぼんやりとその光景を眺めていた。

「これに合うボトムスのお勧めってありますか?」

「あ、トータルコーディネートで揃えるおつもりでしたら、こちらですね」

 店員が勧めたのはロングスカートだった。無地だけでなく、チェックや水玉など様々な柄を揃えた生地に群像の目が嬉しそうに輝く。

「ロングスカートなどがよく一緒にご購入されてるんですよ。ケープやブラウスが作り出す、ふんわりとした雰囲気に合いますから」

「なら赤と黒のチェック柄を――あっ、このショートパンツも似合いませんか?」

 群像が手に取ったのは、夏物として残っていたのだろうショートパンツの一つだった。色はコバルトブルーでウエストについた三つのボタンがアクセントになっている。店員はそれを見て、感心したように声を高くした。

「ああ、そちらもよく似合うと思いますよ。ショートパンツで腰回りをすっきりさせてウエストラインを強調した方がケープの裾やブラウスの袖が広がりますし、カットワークの可愛らしさも引き立つでしょうね」

「じゃあ、この二着にします。それからショートパンツに合うオーバーニーソックスと靴下留めがあったら一緒に買いたいんですけど……」

「オーバーニーソックスと靴下留めですね? ご案内します」

 店員にレジの近くへと案内された群像はしばらくして、紙袋を片手に戻ってきた。

「スナさんも自分の服、見ててもよかったのに。何も買わないつもりなのか」

「これだけで十分だよ」

 そう言って、僕は自動販売機で買ったレモネードのペットボトルを持ち上げた。

「それよりも群像、もういい加減買い物は終わりにしてくれ」

 現在僕は二色のマニキュア塗料、一本の化粧水が入った袋を持たされている。当然群像が買ったものだ。こんなものに金をかける男子高校生の考えなど理解できない。それでも、店の中で商品を選ぶ彼は無邪気な子供のようにはしゃいでいた。

「まさかとは思うけど、もう帰りたいとか思ってる? 大学生なのに」

「正直ね。あと大学生は関係ないだろ」

「まだ三時過ぎじゃないか。親が厳しい小学生だって、今から外で遊び回っても許される」

「きみがあちこち連れ回すから疲れたんだよ」

「思ったより体力がないな。じゃあ、次で最後だ。疲れない静かなところに行こう」

 群像は僕の手から化粧品の袋を取り上げ、バスの停留所へ歩き出した。行き先は教えてくれないらしい。疲れない静かなところと言ったら、映画館くらいだろうか。この際人が少なければ公園でもいい。しかし群像に促されてバスを降りたのは、近くに映画館も公園もない鈴懸の並木道だった。降車したのは僕達二人だけで、行き交う人や車も少なく寂然としている。

「一体どこに行くつもりだい」

「先に言ったら面白くないだろ。ヒントを挙げるとしたら、俺の好きな場所だ」

「出会って間もないきみの好きな場所なんて、わかるわけが」

 それ以上、言葉が続かなかった。約五十メートル先の曲がり角から、見覚えがあるフラクスンの人が出てきたからだ。さらに露出した右耳にシルバーのピアスが揺れているのを見た瞬間、自分の顔が強張るのを感じた。

「スナさん?」

 群像の怪訝そうな声が聞こえたが、僕の目は真っ直ぐ前を向いたまま瞬きができない。見知った男友達と女友達を二人ずつ連れた、忽滑谷の笑い顔。他人の空似などではない。

 思わず「何故こんなところで会うんだ」と叫びたかったが、ぐっと堪えた。まだ相手はこちらに気づいていないらしい。直ちに踵を返して駆け出すと、群像の慌てた声と足音が追いかけてくる。僕は狭い路地に飛び込み、薄暗い空き地のような場所で足を止めた。いきなり全力疾走したから、息が苦しい。

「スナさん。さっき曲がり角から出てきたの、同じ大学の人か」

「……っ、ああ。そうだよ」

 僕が呼吸を整えながら頷くと、群像は眉を寄せて不機嫌そうな表情になった。しかしあまりに一瞬の変化だったから、見間違いか気のせいだったのかもしれない。渇いた喉にレモネードを流し込んでいると、彼は小さく言った。

「もう帰っていいよ」

「え、でも」

「スナさんが気分悪そうだから今日はもういい。その代わり、明日も俺に付き合ってもらう。午前十時に本屋集合だからな」

 それだけ言って、群像は一人で路地から出ていった。今の僕は彼に気遣われるほど悲壮感を漂わせているのだろうか。なんだか年上としての情けなさと、平気だと思っていた失恋の痛みが同時に込み上げてくる。コンクリートの壁に凭れて、目を閉じた。

 無理、と短く言って薄笑いを浮かべた忽滑谷の顔が目蓋の裏に浮かび上がる。典型的な「ごめんなさい」だとか「気持ちは嬉しいけど」だとか、そんな前置きは一切なかった。

「平気だと、思ってたんだけどな」

 そう呟くと、自然と溜め息が出る。もう一度レモネードを飲むと、掌の熱が原因なのかさっきよりも温くなっていた。



 翌朝、神経に障る電子音で起こされたときにはもう九時になっていた。休日にしても少々寝過ぎたかもしれない。きっと昨夜、鳴神相手に日付を跨ぐまで通話していたことが原因だ。話し上手かつ聞き上手である彼と会話していると、ついつい時間が経っていることを忘れてしまう。最初は群像とのことを相談しようと考えていたのだが、僕は鳴神が話してくれた暴行罪の法定刑や暴行罪と傷害罪の違いについての話に聞き入ってしまい、結局群像のことは相談しなかった。できなかった、と言う方が正しいかもしれない。

 白いフードシャツとフレンチベージュのチノパンツに着替え、窓から顔を出すと管理人が趣味で植えたという酔芙蓉の木が見える。曇り空の下、白い花を咲かせていた。八重咲きで、時間が経つにつれ淡いピンク色になる変種。今日は何時に帰れるだろうと思いながら、僕は簡単な朝食を済ませるとすぐにアパートを出た。

 本屋に入って群像を探すと、昨日と同様海外文学のコーナーで立ち読みをする姿が見つかった。髪型や化粧は変わっていないものの、昨日と比べて随分シンプルなワンピースを着ている。シャンデリアのような白い刺繍が胸元に施され、袖がラッパ状に広がった黒いワンピースはどこか喪服じみていた。今日読んでいるものはシャルル・ボードレールの詩集。もしかして彼はフランスの散文詩が好きなのだろうか。

「なかなか灰汁のある詩を読むんだな」

 僕が声をかけると、群像はすぐに詩集を閉じて本棚に戻した。

「スナさんはボードレールとかランボーの詩は嫌い? 俺は結構好きなんだけど」

「嫌いじゃないよ。でも、耽美な雰囲気のある散文詩だったら彼らよりもワイルドが好きかな。なかなか色彩表現がいいんだ」

「じゃあ、読んでみよう」

 そう言うと群像はオスカー・ワイルドの詩集を棚から探し出し、一頁も試し読みすることなくレジに持っていった。昨日の高そうな洋服や化粧品と言い、よくもそれだけ散財できるものだ。基本的に書籍は図書館で借りるようにしている僕からすれば、彼の行動は大胆不敵とも言える。

「それで、今日はどこに行くつもり?」

「昨日行けなかったところ」

 僕達は本屋を出てすぐバスに乗り込み、あの鈴懸の木が立ち並ぶ静かな通りで降りた。

「もうすぐ……ほら、見えてきた」

 十五分近く歩き続けていると、不意に群像が声を上げた。四つ角を曲がった途端前方に見えた芝生の中、青い丸屋根の大きな建物が存在している。

「これって、プラネタリウムか」

「ああ」

 大きく頷いた群像は、あの生意気そうな笑みではなく、子供のように無邪気な笑みを浮かべていた。彼は早足で正面玄関のガラス扉に向かっていく。

 中に入ってみると、玄関ホールは全体が海底のような深い色を湛えていた。その中央では巨大な黄金色の天球儀が、大理石でできた台座の上でゆっくりと回転している。

「いつまでそれを見てるんだ」

 群像の声が遠くから聞こえ、思わず立ち止まっていた僕は彼の姿を探した。天球儀の向こう側、入場券売り場の近くに群像を見つける。僕がすぐ隣に駆け寄ると、彼はどこか懐かしそうに薔薇色の唇を綻ばせた。

「スナさん、ここに来たのは初めてか」

「ああ。プラネタリウムなんて、幼い頃に一度か二度、小さなところに行ったくらいだ。あんな大きな天球儀を見たのは初めてだよ」

 僕が天球儀を振り返ると、群像もそちらに視線を向けた。

「確かにあれは易々とお目にかかれないシロモノだ。俺がここに来たのはもう五回以上だけど、最初に来たときはやっぱりあの天球儀をしばらく見つめてた」

 それから僕達は入場券を買い、天球儀を囲むように左右対称となっている螺旋階段を上った。投影室は二階にある。次の投影時間までの三十分は主にオリジナルグッズを扱う売店や、惑星や恒星の模型から日食や月食の様子を示す写真を並べた展示室を見て回った。投影室に入ると、背凭れが後ろへ反るようになっていて楽にドーム状の天井を見上げられる椅子が並んでいた。中央にはスプーンでくり抜かれたような丸い空間があり、無骨な印象を受ける黒い投影機が鎮座している。

「こういう扇形の座席配列になっているところは見やすい場所が決まってるんだ」

 そう言いながら出入り口から後方に離れ、北側の席に近づいていく群像に僕は訊ねた。

「ここだと北側が見えにくくならないか?」

「大丈夫。実は北側の星座が紹介されることはあまりないんだ。少し見えにくくても問題ない。あとは投影機に近過ぎず、壁に近くない席が理想だから……この辺りだな」

 群像はまだ誰も座っていない列を進んでいき、僕はその後ろをついていった。群像が言う特等席に腰を下ろしてほどなくすると、室内の照明は全て消えて投影が開始した。

 真っ暗な闇の中、音楽が流れるとともに天井には冬のダイヤモンドと呼ばれる七つの星座が映し出された。てっきり秋の星座を紹介されるものだと思っていたが、どうやら違うらしい。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、ふたご座のポルックスとカストル、ぎょしゃ座のカペラ、おうし座のアルデバラン、オリオン座のリゲルと順番に紹介される。約一時間の投影中、室内ではその壮大で幻想的な雰囲気に圧倒されたのか、誰一人として声を上げず、物音すら立てなかった。隣を見ると、群像は人工の星空をしっかりと双眸に焼きつけていた。僕の視線に気づかないほど、集中している。

 投影が終わって照明が点いてからも、ほとんどの客はしばらく席に座ったままぼんやりとしていた。僕自身、すぐに席から立ち上がる気分にはなれない。

「思い出したよ。プラネタリウムって、こんなふうに、本当に宇宙へ連れて行かれた気分になるんだったな。なんだか懐かしい」

「ああ。……頭がまだ、ちゃんと現実に戻ってきてないようだ」

 長い夢から覚めたばかりのような表情で群像がくつくつと笑う。結局僕達は他の客が全員出ていって、ようやく席から立った。

 買いたいものがあるから、と群像は再び売店に寄った。しかしいざ買うときとなれば悩むらしく、いくつかの商品を手に取って見比べている。せっかくだから僕も記念として、セルロイドのボールペンを一本買うことにした。全体が細かいラメ入りの濃紺で、さっき見たばかりの星空をペンの形にしたようだ。ペン先が万年筆によく似ているが、ボールペンとして売られている。その遊び心が気に入った。それから今持っている付箋の残りが少ないことを思い出し、黄道十二星座が描かれた付箋も買う。

「文房具ばかりじゃないか。いかにも真面目な学生らしい買い物だな」

 レジの列に並んでいると、僕の後ろに立った群像が苦い顔をした。

「もっと可愛いストラップとか綺麗なアクセサリーとかを買えばいいのに」

「僕はきみと嗜好が違うんだよ」

 彼の手にはデフォルメされた山羊のストラップと、無色透明や青色の天然石を使ったブレスレットが握られていた。アクセントとして小さな三日月と星の飾りもついている。

「群像はやぎ座か」

「スナさんは?」

「かに座」

 気づけばもう前の人が会計を済ませていた。慌てて僕はレジの前に出て商品を置いた。



 プラネタリウムを出た後、近くのファーストフード店で昼食となった。ハンバーガーとLサイズのポテトをつけたセットだけでなく、バニラシェイクや期間限定のデザートまでを注文する群像を横で眺めながら、僕は「やっぱりこいつは大食いだ」と思うことにした。それだけカロリーの高いものを多く食べて何故身体が細いのだろうか。

「何、ケチャップでもついてる?」

「いいや」

 僕は首を横に振り、ストローを銜えた。怪訝そうにこちらを見てきた群像の口元にケチャップなどついていない。食べ方が上品だからだ。昨日の洋食店でも思ったことだが、親の教育がよかったのだろう。彼は左右の肘をテーブルに突くことなく、両手でハンバーガーを持って慎重に食べている。ここから離れた席に部活帰りといった風貌の中学生らしき少女が五人集まっているが、彼女達は大きく開けた口でハンバーガーを頬張っていた。

「……あんな女子中学生が好きなのか」

「な、っ!」

 アイスコーヒーを飲んでいる最中に突然言われ、思わず噎せた。そこまで熱い視線を少女達に向けていた覚えはない。

「誤解を生むようなことは言うなよ」

「俺は誰かの恋愛に偏見なんて持たない」

「そう言う群像の恋愛対象はどうなんだい」

「女」

 即答だった。

「女装が趣味ってだけで、他はストレートだからな。俺、言葉遣いだって男だろ。もし本格的に心が乙女だったら、もっと綺麗な言葉遣いになってるはずだ」

 僕は頷いて揚げた白身魚のハンバーガーを齧る。タルタルソースとチーズがこれほど合うとは、初めてだったが注文して正解だった。

「でも、基本的に女装好きの男は男装好きの女より異常だと見られる。……今まで女子から告白されて、交際を申し込まれたことは三回あったんだけど」

「すごいじゃないか」

「その中に付き合ってもいいかなと思える人も一応いた。それでも俺の趣味を知った途端、全員が前言撤回した」

 これにはコメントを挟めなかった。きっと群像は、告白されるたびに傷ついてきたのだろう。交際するのであれば女装趣味を隠したくないと思い、言葉に出して、そしてことごとく拒絶された。初めての告白で振られた僕よりも、よっぽど辛かったのではないか。

「あ、スナさん」

「何」

「ソース、こっち側から垂れてきてる」

「わっ……」

 確認してみるとタルタルソースが今にも落ちそうになっていた。寸でのところだったが左手で受け止め、行儀が悪いとは思いながらも紙ナプキンで拭う前に舐めておく。

「スナさんってたまにぼんやりしてるよな」

「そういう奴なんだよ」

「ふうん」

 やがて僕は一足先に食べ終え、アイスコーヒーも氷だけになった。群像は最後のポテトを口に入れ、残りはバニラシェイクと期間限定のデザート――カップにアップルパイとソフトクリームが入っているもの――だけだ。

「外に行こう」

「なんだって」

 窓の外を眺めていた僕が聞き返したとき、彼はもう立ち上がっていた。バニラシェイクとデザートのカップを両手に持ち、すたすたと出入り口に向かっていく。僕は二人分のトレイを返却し、慌てて追いかけた。午前中の曇天がいつの間にか晴れていて、暖かい日差しが地面に降り注いでいた。

「こんないい天気に、外で食事をしないなんてもったいないだろう」

「きみって本当に自由奔放だな」

「……そう見える?」

「ああ」

 海運会社の古い建物やこぢんまりとした商社が並ぶ通りをしばらく歩き、群像は人気のない埠頭の近くで足を止めた。こういった場所には海釣りをする人が少ならずいるものだと思っていたが、いい獲物がいないのか近くに釣り人の姿は見えない。

「ここで食べるのか」

 僕が訊ねると群像は堤防の天端に座り、肯定を示した。ソフトクリームが溶けかけた、と言いながらもさすがに太陽のせいにはせず、デザートを食べ始める。確か殺人を太陽のせいにした小説があったな、と思い出しながら僕は彼の隣に腰を落とした。遠くで海猫がミャオミャオと飛び交っている。

「ご馳走様」

 デザートもシェイクも平らげた群像は鞄からマニキュアを取り出した。

「それって昨日買ったもの?」

「へえ、覚えてるんだ。スナさんの爪にも塗ってあげようか」

「遠慮するよ」

「たまには人の爪も塗ってみたいのに」

 言いながらマニキュアを左手の親指から塗り始める。明らかに慣れている鮮やかな手つきだ。それをじっと見つめるのもどうかと思い、僕はまた海猫の観察をすることにした。

「できた。これ、スナさんはどう思う」

 数分後、僕の目の前に突き出された群像の爪は、男のものとは思えないほど綺麗なネイルアートが施されていた。わずかにラメを含んだ薄紅色で、爪先の色が濃い。最近は奇抜なデザインも増えているらしいが、彼のネイルアートは自然で落ち着いた印象がある。

「いいと思う、けど」

「けど?」

「今きみが着ている黒いワンピースと合わせて見ると、ちょっと浮いてるよ」

「服のことはいいんだよ」

 やや不満そうな表情になって、群像はマニキュアを片付けた。両手の指をやや反らすようにして、自分の爪を見つめる。その仕草もまるで女のようだ。

「…………群像は、すごいな」

「え、何」

 戸惑ったようにこちらを見る群像の表情は、僕にとっては初めて目にする。

「服飾のセンスもあって、マニキュアまで綺麗に塗れるじゃないか」

「そりゃあ、好きだから当然だろ」

「男なのに」

 群像の顔が強張る。次の瞬間、マニキュアを塗った両手が僕の首に掴みかかった。女のそれに見えるけれど、やっぱり男の手だ。勢いがよく、加えて力も強かったため僕はそのまま天端の上に押し倒された。視界には青い空と群像の呆然としたような顔。左右に反転して逃げようとすれば天端から落ちてしまいそうだ。彼の両手に少しずつ、力が入る。

「どうしてスナさんがそれを言うんだ」

 僕は何も言わない。

「あなただけは、ずっと、最後まで、口に出さないでいてくれると思ってたのに」

 僕は何も言わない。

「心の中でならどう思っていてもいい。でも、面と向かって言わないでほしかった」

 僕は何も言わない。

「ひどいよ、スナさん。今日で最後なのに、そんな言葉って残酷じゃないか」

 両手の力が緩み、軽く咳き込んで僕は言った。

「群像。きみは、男なんだよ」

 両手を僕の首から離して、群像は笑った。生意気さも無邪気さも感じられない。空っぽで、作り物のような笑顔だった。それを見た途端、僕の胸がざらっと毛羽立つのを感じた。

 群像は無言で立ち上がる。嫌な予感がして、僕も仰向けの状態から上体を起こし、腰を浮かした――そのとき、突き飛ばされた。

「えっ」

 ぐらり、と視界が大きく動いた。かと思ったら群像が遠ざかっていった。とっさに両腕で頭を抱えるようにして、堤外に着地する。幸い海面ではなくコンクリートがある場所だった。身体のあちこちが痛むが、目立つ怪我はない。

「群像……」

 堤防を見上げたが、すでに彼の姿はなかった。それほど高くない堤防で足をかけられるところもあったため、なんとか自力で上ることができた。ただ、それなりに気に入っていたフードシャツが汚れてしまったことが被害と言えるだろう。

 昨日今日訪れたばかりの街中で、僕はひたすら歩いて群像を捜し回ってみた。倉庫の並ぶ海岸通り、年季のあるアーケード商店街、小さな公民館、遊具の少ない公園と目についたところから次々巡っていく。また昨日のように忽滑谷と遭遇してしまう可能性もあったが、このときは気にしていられなかった。

 日が暮れ始め、もう諦めようかと思ったときにようやく群像の姿を見つけた。最初に訪れたプラネタリウムの近く、深い影が落ちた踏切の向こう側。下りた遮断機の前に一人、列車が通過するのを待っている。

「群像」

 僕は遮断機の前で声をかけたが、何の反応もなかった。群像の目はどこを見ているのか、ぼうっとしているようだった。ここの警報機の音はやけに耳に響く。突然、彼は肩にかけていた鞄をこちら側に放り投げた。マニキュア、財布、駅前の本屋やプラネタリウムの売店で買ったものが入っているはずの鞄だ。そして群像は遮断機をくぐり、線路の中に入った。自分が投げた鞄を拾い上げ、肩にかける。そして僕に向けて、何かを投げた。とっさに受け取ったそれは、僕の定期だった。顔を上げると、群像はまだ線路の上にいる。

「っ、おい! 早く戻れ!」

 まさか、と思って叫んだ。群像は線路の真ん中で立ち止まったまま微動だにしない。ものすごい勢いで近づいてくる列車の方を見つめている。その黒いワンピースはまるで喪服のようで、少なからず不吉な印象を朝から漂わせていたことを思い出した。目の前で起きようとしていることが脳裏に浮かぶ。狂ったような警報音が耳に痛い。

「――――っ!」

 僕は遮断機をくぐり、全力で走った。レールと枕木と砕石の感触を靴の裏にはっきりと感じる。僕に気づいた群像が目を大きく見開いた。そのまま僕は力いっぱい彼を突き飛ばし、思い切り跳躍した。神様どうか、と目を閉じる。

 轟、と風を切る凄まじい音が聞こえた。びりびりと震えるような空気が通り過ぎて目を開けると、真っ先に遮断機の警戒色が飛び込んでくる。自分と群像は線路外で重なり合い、どちらも足の先まで無事だった。まだ心臓の鼓動が激しい。

「ス、ナさん」

 小さな声が聞こえ、僕は群像の上から飛び起きた。いつの間にか人が集まっていて、信じられないものでも見るような目をこちらに向けている。とっさに群像の手を掴んで起き上がらせ、僕はそのまま走り出した。



「この、馬鹿野郎」

 もう子供も大人もいない公園に着き、僕は開口一番に群像を罵った。ベンチに座った彼は、呆気にとられた顔で僕を見上げている。

「自殺をしようだなんて、信じられない。仮にも年上として言わせてもらうけど、これから先どんなに生きるのが辛くても絶対に自分から死のうとするな。逃げるように死ぬな。見ているこっちが恥ずかしい。きみがこの十七年間生きてきた間に、他の生き物がどれほど犠牲となったか考えてみろ。それをちゃんと理解してる動物は自殺なんてしない。自殺ってのはこれ以上ないほど傲慢な人間のエゴイズムだ。…………でも」

 そこで一旦言葉を区切った僕は自分を落ち着かせるため大きく深呼吸して、群像の隣に座った。目の奥が熱くなり、視界がじわりとぼやける。

「きみがそんな傲慢な考えを起こすきっかけになったのが、僕の言葉だったと言うのなら謝るよ。本当に、すまない」

「違う」

 焦ったような声で群像が言った。

「俺は、もうずっと前から死のうとしていた。正確に言えばスナさんと初めて会った日、さっきの踏切で死ぬつもりだった」

「えっ?」

 目を瞬くと涙が一粒零れ落ちた。慌てて袖口で拭い、群像の顔を見る。初めて見る彼の神妙な表情は、嘘をついているようには感じられない。

「どうせ死ぬなら自分が好きな格好で、好きな建物に近い場所で逝きたい。だから学校から帰る途中、電車の中で女装したんだ。それなのにいきなり知らない人から水浸しにされて、化粧は落ちて服も濡れた。なんだか一気に気分が醒めたから、あの日は諦めた」

 そう言えば以前、鳴神が言っていた。冷静な自殺者は大抵、自分が死ぬ状況によく気を配るらしい。女性の場合は服装も化粧もしっかり決めてから死ぬことが多いと。

「定期が洗面台に忘れられているのを見たとき、ちょっと思いついたんだ。最期なんだから、せっかくの予定を台無しにしてくれた相手を振り回してやろうって。そしてその相手の前で派手に死んでやる、って決めた」

「じゃあ昨日はどうして」

「あの曲がり角から出てきた大学生を見て、スナさんが顔を青くして突然走り出しただろ。何か因縁があるんだなって気づいたよ。すでに気分が悪くなってる人の前で死ぬのはなんだか嫌で――あなたは俺の気分を醒めさせる天才だな」

 群像は自嘲気味に笑った。

「それで、今日。まさかあんなことを言われるだなんて予想外だったけど、もうこれ以上日を延ばしたくなかった。遮断機が下りた後スナさんが向かいに現れたから、ちょうどよかったよ。でも、助けられて説教を受けるとは全然予想していなかったな」

「……鞄を投げたのは」

「ああ、噂で聞いたんだ。持ち物を放り込んでから取りに行くようにして轢かれれば、自殺じゃなくて事故として扱われるって。それに俺の死後に鞄から見つかるものが遺書じゃなくて買ったばかりのものだったら、余計自殺っぽくないだろ」

「…………」

 群像は僕と出会う前から自殺するつもりだった。それでも、堤防で僕が言った言葉に少しも傷つかなかったわけではないのだろう。

「あのときの失言は取り消させてくれ。僕は、本当はきみが羨ましかったんだ」

「羨ましかった……?」

 天を仰いでいた群像は、聞き間違いではないかと言いたげな顔でこちらを見た。もう彼は自分のことをすっかり打ち明けてくれた。僕だけが黙っているのは公平じゃない。

「曲がり角から出てきた大学生の中で、一際目立つフラクスンがいただろう。忽滑谷って言うんだ。僕は群像と初めて会った日、大学であいつに告白したけど見事に振られたよ。無理、だって」

 群像は何も言わずに聞いている。

「笑いながら言ったんだよ、彼。全然化粧をしなくて、可愛い服を着なくて、大きな胸がない僕は女として見れないらしい。……友達として、クラスメイトとして接していたときと全然違う態度だった。その帰りに、電車で人目も気にせず女装をする男子高校生がいた。年下で、それも男なのにこれほど上手に化粧ができると知って腹が立ったんだ。自分はこの子以下なのかと思うと悔しくて、ひどく妬ましい気もした。……きみには本当に悪いことをしたな。反省してる」

 すると群像は首を軽く横に振った。

「電車の中で化粧や着替えをしたのはあれが初めてだった。最期だからって、思ってたから。でも、やっぱり人が混み合う交通機関であんなことをするのは身勝手過ぎた」

「それが理解できてるなら、いい。……昨日は楽しそうに化粧品や洋服を選ぶ群像を見て、自分よりずっと女性らしいと思って、ますます嫉妬したよ。今日、堤防であんなことを言ったのはただ羨ましくて、妬ましくて、堪らなくなって、傷つけてやりたいと思ったからだ。……でも本当は、女の僕よりとても可愛くて綺麗なきみに憧れた」

「……お世辞だろう。今まで俺にそんな嬉しいことを言ってくれた人なんて、いない」

「お世辞なものか。僕は劣等感を抱いただけで、群像のことを気持ち悪いだとか異常だとか思ったことは一度もない。悩みを持つ普通の健全な高校生にしか見えないよ。本当、だ」

 そこまで言ったところで、僕の目からぼろぼろと涙が溢れてきた。

「群像は生きてていいんだよ。誰の許しもいらない。それなのにいなくなるなんて、死ぬなんて、絶対に駄目だ。……死んじゃ、嫌だ」

 止め処なく涙が流れ、頬を濡らしていく。僕の視界でぼやける群像の顔は、今にも泣きそうなほど歪んでいたけれど、涙を流してはいない。

「さすがに男、だな。泣かないのか」

「男だから泣かない、なんて言うのは性差別だぜ。俺は単純に化粧をしてるときは絶対泣かないようにしてるんだ。どんなに薄い化粧でも、涙を流せばみっともなく崩れるからな。俺は泣かない。その分、スナさんが泣いてくれればいい」

 結局僕の涙は、日がすっかり落ちて街灯が点き始めた頃にようやく止まった。高校の卒業式や忽滑谷に振られたときも泣かなかったから、随分と久しぶりに出し尽くした気分だ。

「スナさん。今度俺が化粧、教えるから」

 隣を歩く群像が言った。今にも触れそうなほど近くで彼の空いた右手が揺れている。

「きっと似合わないよ」

「似合うようにするんだ。服のコーディネートも、マニキュアも、全部。あのヌカリヤって奴がスナさんを振ったこと心から後悔するくらい」

 想像力を必死に働かせてみたが、失敗に終わった。自分が化粧をして、可愛い服を着て、マニキュアまで塗っている姿なんて想像もできない。

「あっ」

 突然群像が足を止め、つられて僕も立ち止まる。

「何」

「そう言えば、そろそろ教えてくれよ。スナさんの名前がどんな漢字なのか」

「変なところにこだわるな。七月と砂の子供で、(なの)(つき)(すな)()。七月七日生まれなんだよ、僕。それで母親が《七夕さま》の歌詞から取ったんだって」

「……金銀砂子?」

「そう。それ」

「へえ、綺麗な名前。俺はすごく好きだ」

「ありがとう」

 素っ気ないな、とどこか不満げに呟く群像。ちゃんと感謝の言葉を述べたのに、一体何が不満だと言うのだろうか。

「ところでさ、スナさんは失恋の心理的なストレスに効くものが何か知ってる?」

「知らないよ」

 群像は生意気そうな笑みを浮かべた。

「回避型対処法」

「は?」

「とどのつまり新しい恋。……試す気、ない?」

 これって、誘われているのか。

 思わずたじろいだと同時に、さっきからすぐ近くで揺れていた群像の右手に優しく左手を掴まれた。男のそれとは思えない綺麗なネイルアートがされた爪を持つ長い指が、僕の指にそっと絡みつく。決して強制するようではなく、すぐにでも離れられる程度に。

「もう定期は返した。だから本当なら、これ以上スナさんが俺と会う必要はない」

「………………」

「今から俺は十秒だけ待つ。口に出して数えるから、手を振り解いて逃げるなら今のうちだよ。その後はどうなろうと保証しないからな。じゅう……きゅう……はち、っ」

 僕が手を握り返したことに群像は相当驚いたらしく、声が止まった。大きく見開いた猫のような目を見つめ返しながら、僕は早口で引き継ぐ。

「なな、ろく、ご、よん、さん、に、いち――」

 ぜろ、と笑った。



 

 私にとっては二回目となる短編小説の《メランコリーキッチン》を読んでいただき、感謝感激です。

 今回は一人称を利用した、所謂性別の叙述トリックを使った初めての作品です。作中の登場人物は誰もがスナこと砂子を普通に女性として理解したうえで接していますが、読者の方々にだけは砂子を男性だと錯覚させるようにしていました。前々からこのような叙述トリックに挑戦してみたかったので、騙された読者がいれば成功したと言えるでしょう。


 砂子は女子大生ですが、男のような一人称や喋り方です。しかし異性を好きになって、告白した結果振られてショックを受けるという普通の少女らしいところも見られます。一方で群像は最初から女装趣味であることがわかる男子高校生で、こちらも恋愛対象は異性です(そのせいで余計に周囲からは異物のような扱いをされていますが)。

 今後二人の関係がどのように発展していくのか、正直作者の私は彼らの未来設計図を考えているのですが敢えてここでは語りません。どうぞ、ご自由に想像を膨らませてください。


 最後に、本作を読んでくださった方に両手いっぱいの感謝を捧げます。ありがとうございました!


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすい一人称でした。 [一言] この読み取り方は邪道かもしれませんが、タグに恋愛が存在し、最序盤に「凛としているが〜男の声だった」とあり、「あぁ、主人公は女性なんだな」と思って読んでし…
[良い点] さらりと読める文章。 疲労感なく読み進めました。 [気になる点] 叙述トリックが少し分かりやす過ぎたかもしれません。 話の展開が読みやすく、すぐに主人公は女かなと見当がつきました。
[一言] 叙述トリックの基本は三段階ですよ つまり、一発目のネタで読者に予想させて→やっぱ裏をついたと思わせてこっちの方だったのかって読者にドヤ顔させてからの→実はこっちだったっていう。 二段階だとオ…
2016/07/03 01:18 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ