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6.

 俺は、自嘲するように笑うと病院へと急いだ。


 真紀が待っている。いや、俺が真紀に会いたいだけかも知れない。


 その頃には、今朝の女子高生の話などすっかり忘れていた。


 起るはずのない都市伝説に振り回されるほど、若くはなかった。


 電車に乗り、バスを乗り継ぐ。


 いつもと同じように、目的のバス停まで。


 バス停に着くと、いつもと同じように降り歩き出す。


 駐車場を抜けた場所に植えられている桜は、満開とは行かないが、それでもきれいに咲き誇り、空気をピンクに染め始めている。


 俺は病室へと急いだ。



「真紀、ただいま」



 いつもと同じように声を掛けるが、返事など返ってくるはずもない。


 諦めきれない諦めが、俺の心に忍び寄る。



「真紀、桜がきれいだよ」



 俺は今日あったことを話し始めた。



「朝の電車で、女子高生が賑やかだったよ。学生はいいね、まだ苦労らしい苦労をしらないから。きっと、あの子達は今夜泊まりで騒ぐんだろうな」



 俺は真紀の手をさすり続けた。



「真紀、俺の声が聞こえてるか? 真紀と始めて会った時のこと覚えてるか? まるでテレビドラマみたいに、俺は電撃ショックを受けたんだよ。真紀以外にいないって思ったんだ。その気持ちは今も変わらない」



 真紀の手を握り締めては、じっと見つめるが、何が変わるわけでもない。


 虚しさがこみ上げてくる。


 あの頃の気持ちが変わるはずはない。確かに変わらない。


 しかし、いつまでこんなことが続くんだろう。


 そんな思いが頭をもたげるが、それでも愛している気持ちに変わりはないのだ。



「真紀、愛してる。……元気なときにちゃんと言えばよかったね。愛してるって。どうして言わなかったんだろう。言わなくても分かってると思っていたんだろうな……。元気になったら、百万回でも言い続けるよ。愛してる。……だから、早く元気になってくれ」



 枯れたはずの涙が残っているらしい。またしても、涙が流れた。


 俺は、真紀の手を額に押し付けて泣き続けた。


 しばらくすると館内放送が流れ、消灯の時間を告げた。



「真紀、今日のデートは終りだって。ずっとそばにいたいのに。……また明日……」



 俺は、真紀の手を布団の中に入れると目を窓に向けた。


 閉め忘れていたカーテン。



「カーテンを閉めてから帰るか……」



 立ち上がり、窓に向かおうとしたとき、去年もあったはずの桜の木を見つけた。


 それは、窓ガラスの全てをピンク一色に染めていた。



「まるで、桜の額のようだな」



 俺は静かにカーテンを閉めた。



そろそろ、終盤に入ってきてますよ~


さて、どうなるかな~

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