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3.

「え? 章ちゃんがリードしてよ」



 いつもこうだ。結婚前から変わらない。



「じゃぁ、すぐそこの川に咲いてる桜でいいな」


「えー、それじゃ散歩でも行けるじゃない」


「同じ桜だよ」


「いやだー」



 そんな反応が返ってくることは分かりきっていた。


 俺は、ゆっくりと駐車場から出ると、ウインカーを右に上げ大通りを目指した。


 満開の桜を目指し、独身時代のようにドライブを楽しんだ。


 かなりの距離を走った頃、満開の桜で空気がピンクに染まってしまうのではないかと思うほどの公園にたどり着いた。


 真紀は嬉しそうに笑うと、俺の腕を取って歩き出した。


 幸せというものは、こんなものかもしれない。


 愛する人と、同じものを見て、心穏やかに時間を費やす。


 それこそが、本当の幸せではないのか。


 まだ風の冷たい日だった。それでも、一時間以上公園をぶらつき、帰りには小さなレストランで食事を楽しんだ。


 疲れていることすら忘れているように時間が流れた。



「日が落ちるのが遅くなったとは言っても、やっぱり夜が来るのは早いね」



 真紀が空を仰いで言った。


 仕事に追いまくられている俺は、空を見る暇などないのが現状だ。そう言われて初めて、確かに日が伸びているのだということに気がついた。



「ねぇ、今度は夜桜を見に来ようよ!」


「夜桜ってね~。俺、仕事があるんだよ」


「だから、休みの前日とかさ」


「仕事から帰ってきてからかよ」


「土曜日に夜桜見れば、日曜日は休みじゃない! ねっ!」


「おぃ~」



 それでも『夜桜、夜桜』と連呼されると、約束せざるを得なかった。



「分かった、分かった。今度ね、今度」


「今度ねって、今度と昼間のお化けは出たことないって言うよ。約束だからね!」



 結局、約束を破ったら向こう一週間禁酒というペナルティをつけられて、約束は成立したのだった。


 俺は苦笑いを浮かべながら、なんとか約束を果たさないと、大変なことになりそうだと覚悟を決めたのだった。


 帰りはできるだけ渋滞を避けるために、空いてる道を探しながら走っていた。


 心のどこかに焦りがあったのかもしれない。



―――明日は仕事だ。



 信号が青に変わり、エンジンをふかした。


 交差点に車を進めたとき、大きな衝撃を覚えた。


 とっさに真紀の方を見ると、左から突っ込んできた大型車に真紀が押されるように潰されていた。


 助けようと手を伸ばしたが、俺の体は何ものかに引っ張られたように動かなかった。


 そのまま意識が途絶えた。


明日も22時に更新します。

また読みに来てくださいね~^^

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