2.
「真紀、ただいま」
けれど彼女は、ベッドの上でまっすぐに、開けることのない目を天井に向けていた。
―――今日こそは、きっと彼女は目覚めている。
希望を持ち続けて、二年が過ぎようとしていた。
「真紀……。まだ起きないのか?」
俺は、真紀の髪を優しく撫でながら、彼女の顔を覗き込んだ。
どんなに呼びかけても、返事が返ってくるはずがないのは分かっている。それでも話しかけずにはいられない。
結婚して三年。
真紀の指には俺とつながる指輪がはめられている。
「真紀。今日は三時のおやつに、お菓子をもらったんだよ。ほら、真紀の好きなバームクーヘンだ。起きないと食べちゃうぞ。
……外は気持ちがいいよ。桜の木に蕾がつき始めてる。もうすぐ咲くだろうね……。
でも……もう……」
言葉が詰まる。
あの時、真紀がまだ元気だったあの日。
「ねぇ、お~ね~が~い~。桜を見にいこ~よ~」
真紀は疲れている俺の腕を引っ張って、ドライブに連れて行けとせがんだ。
「連休には連れて行くから。今日は休ませてよ」
「酷いよ、章ちゃん。結婚したら、途端にサービスしなくなったじゃない」
「そんなことないでしょ。ただね、仕事で疲れてるんだよ。真紀を幸せにしたいからこそ、俺も頑張ってるんだから」
「分かるよ~。すっごく分かるの。でもね、私はずっと一人で章ちゃんを待ってるの。家で、ずっと一人で待ってるのよね。せっかくの休みなんだから、休みぐらいは出かけようよ」
「真紀ちゃん……。その気持ちも分かるけどね。俺の気持ちも分かってくれよ」
「分かるけど、わかんない~」
どんなに説明しても、あの時だけは許してもらえずに、結局桜見物にでかけたのだ。
実際、結婚してから仕事の責任も大きくなり、疲れは度を越していた。真紀の言うことも分かるが、残業続きの体は悲鳴を上げ始めていた。
それでも半泣きの真紀を放っておくこともできずに、俺は車の鍵を手にすると、立ち上がった。
「よし、いこー!」
泣きそうだった真紀の顔がパッと輝いた。
「それで、どこの桜を見にいくんだ?」
車に乗り、エンジンをかけると真紀に聞いた。
明日も22時に更新します。
また、読みに来てくださいね~^^
『RISOU』更新中です~
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ある日届いたジャンクメールから始まる不思議で怖いお話です。
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