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理由なんて無い

作者: 道半 風景

  その駅は田畑の真ん中にある。


駅を利用するものは少なく、ホームには苔や雑草が蔓延っていた。


勿論、駅には駅員はいない。



  その駅に止まる電車は日に5本ぐらいで終電は昼の4時ぐらいだった。


一時期は廃駅の意見が上がりそうなくらい廃れていた。


  それでもその駅は頑固にその田畑の真ん中にある。


まるで、そこだけ何十年も時間が止まっているような場所だった。


雨の日も風の日も、凍える冬の雪の降る日も溶けてしまいそうな干からびてしまいそうな暑い日もそこにあった。



  そんな所を毎日の様に利用している。若い人間がいた。


その人間の年頃は13歳くらいだった。


平日、休日以外の日もその人間は毎日その駅にやって来た。


  最初、我輩は不思議に思えた。


こんな廃れた所にやってくる人間は中々いない。


やって来るのは大抵、車を持っていない爺さん婆さんか、旅行でやってくる外の人間だった。


  だが、その人間は今までの人間とは何処か異質だった。


顔はほとんど無表情で、時々何かを思い出したように微笑む。


駅のホームに座り足を前へ後ろへ動かしていた。


我輩にはその行動を始めて見た時、時間を潰しているのだと思った。


最近は何かを誰かを待っている様に見えた。だか、それを毎日の様にしているとさらに不思議に思えた。


  一日中同じ事をしている我輩でも同じ事をしていると気が狂ってしまう。


だが、我輩は暇で暇でしょうがなかった。


良い暇つぶしであった。


趣味の身だしなみを何時間もかけて続ける、それに飽きたらぼっと空を見上げて暇を潰す。


散歩をしても良いのだが……。

 


もう、この町を知り尽くしている我輩にとってはそんな事をしても何も楽しくない。


自慢ではないが今どこに何の植物が生えて何本あるかも解る。作物の実りも言える。


我輩にとっては人の心を読むことより簡単なことだ。


  だが、我輩は神ではない完璧に読むことは出来ないが……。


それにしてもどんな人間でも少しは我輩は心を考えを読める。


だがあの人間を読むことは出来なかった。


  少し、ほんの少しの興味が私の中に出来てきた。


  今日はいい天気だ。風が心地よい。


あのニンゲンも居ないので我輩は昼寝をすることにした。


こんな日は昼寝するに限る。


瞳を閉じても日の光を遮ることはできないが。

 

また、たまらなくそれがいいと感じた……。



  しばらくすると、あのニンゲンの足音が聞こえた。


我輩はを目を開けて、あの駅を見た。


  季節は秋の初めでまだ、夏の暑さが残っていた。


我輩は木陰にいたからそんなに暑さは感じないが、日向はまだ汗ばむ暑さなのだろう、あのニンゲンの肌は少し濡れていた。


そして、何か入った紙袋を持っていた。



  けれど、もう日は傾いていた。


あと少したてば夕方になる。


駅に着く電車はついさっき終電が出発したから、もう明日の朝までやってこない。


  あのニンゲンはそれを知っているから、ホームから降りて線路に座った。


そして持っていた紙袋からアイスを出していた。


  うまそうだな。我輩も頂きたいものだな。


今度、買ってみるかな。


  ニンゲンはそのアイス、正確には長方形をした青色のアイスキャンディを食べている。


やはり、今日も何かを待っているようだった。

  食べ終わったアイスキャンディの袋を紙袋に入れ、その紙袋を丸めズボンのポケットにニンゲンは入れた。

 

ここからではニンゲンの顔までは見れなかった。ここから見えるのは後ろ姿だけだった。


その事が思うようになれずイライラした。そしてそれがとてもはかなかった。



  そして、その思いのまま時間は過ぎ去って行った。


もう、空は見事な蜜柑色であのニンゲンもあの駅で輝いていた。


  その風景が水に浮かぶ月のもうなもので、我輩は何も言えなかった。


……いや、それは嘘だな言葉では言い表せないナニカ。


喪失感に近くても虚しさでもなくて、期待でもない。


一番近いのは多分、祈りだろう。


  そして、美しい。

 

あの自然と駅と線路と夕焼とあのニンゲンがあってこそできる風景だった。

 

我輩は息をするのも忘れただひたすらその風景を祈り、美しい感じていた。


  ニンゲンは夕焼けを見てナニカを感じている。

今日も来なかった誰かを想っているのだろうか。

それともそれ意外か。


  私には関係ない。


何もかも。


でも知りたかった。

 

やがて夕焼けは終わる。


蒼は永遠に続くことのない時間は静かに教えて、藍色の空はこれから来る未来を教える。


  なら、あの夕方はどんな物を教えてくれるのだろうか。



  答えは一つだった。



  ワカラナイ。



  夕方が終わると、この辺りは一気に暗くなった。空はもう、夜空になっていた。



  駅には優しい明かりがぽっとついていた。

 

ニンゲンは糸の切れた凧のようにフラフラといた。


立っているのか、歩いているのかは、あのニンゲン自体わからないと思えるぐらい不安定だった。


  そして、ニンゲンはホームで少しばかり寝転がってから家路へ向かって行った。


  今日も昨日も一昨日も、このニンゲンはこんな感じであそこにやってきて帰ってくる。


  そして明日も明後日も明明後日も、終わるまであの人ニンゲンはやってくるのだろう。


  それを我輩は終わるまで見守るのだろう。


永遠と感じてしまうぐらいずっと……。



  今日もあのニンゲンを我輩は待っていた。


何時もと変わりなく、何も変わったことは今までなかった。


  今日は少しばかり風が強かった。


自慢の服が揺れる。


  だが、いつまで立ってもあのニンゲンはいっこうにやってこない。


我輩は心配になってきた。


結局その日は夕方になってもあのニンゲンはやっては来なかった。

  どうしたのだろう。


我輩は少しばかし心配になった。


しばらくして今日は都合が悪かったのだろうと自分に言い聞かせた。



  きっと、また明日会えるさとわけの分からない自信を胸にして眠ろうと瞼を閉じる。


その日は中々眠れなかった。


  その日を境にニンゲンはやっては来なくなった。


我輩に残るのは、この美しい景色と寂れた駅とがあるだけだった。


  我輩はポッカリと胸に穴が空いたような気分だった。


  もう、終わったのだ。


考えてもみれば、あのニンゲンもここでナニカを癒していたのかもしれない。


そして、あのニンゲンは癒すことを必要としなくなったのだ。


  それにあのニンゲンにも人間としての生活があったはずだ。


人間は時間にうるさい生き物だ、一日の半分とは言い過ぎだが、あのニンゲンは明らかに四半日はあの駅にいた。


明らかに人間としての生活とかけ離れている。


そうだこれで良かったのだ。


正しい事だ。


  それに我輩は知っていた。


人間には……いや、この世界の生き物に永遠にということは無いのだ。


それが今、終わったのだ。


  そう考えるしか我輩にはなかった。


それ以外考えるしかなかったのだ。

 

けれど我輩はあの景色を知ってしまった。一度知ってしまった事を忘れることは出来ない。


それも、正しいことだった。


  我輩にとっては、あの光景は忘れられないのだ。

 

我輩はあの人間に会うために街に出かけた。


  今も考えるとバカなものだ。


たかが、人間ごときにここまでするとは……。


本当に馬鹿らしい。


  ここで誰かに我輩は今、何をしているのか。何をしようとしているかと言われたら分からないとしか答えられないだろうな。


  人の街の中に入るのは久しぶりだった。


相変わらず、光がチカチカしていて眩しい。


  あのニンゲンの匂いを追う。


我輩は匂いが大きくなるにつれ気持ちが高ぶる。

 


いた。



  だが、今更ながら会ったところでどうすればいい。


あのニンゲンは我輩の事を何も知らないのだ。


いくら我輩があのニンゲンの事を知っていても、あのニンゲンにとって我輩は何者でもないのだ。

 


  近くで見るとニンゲンいや、少女はとても美しかった。


氷のような不安定な空気を身にまとって、瞳の中は対照的に太陽のように輝いていた。



「ん、こんな所に猫。捨て猫かな、それと野良猫なのかな」



  我輩に向けて娘が話しかけた。どこまでも響くような声だった。



「可愛いなー。そうだご飯あるけど食べる?」



  我輩は娘に尻尾を振って答える。



 そして、娘のバッグから取り出したパンを食べた。


  私にとってこの時間は永遠の宝であり忘れることのできない思い出になった。


  その後、パンを食べ終わったから、我輩は元いた場所に帰った。


娘もそれから元いた場所に戻ったのだろう。


  結局、それからあの駅に娘は来なかった。


そして、娘があの場所に通っていた理由もわからずじまいとなった。


しばらく経ってから我輩は娘のいた場所で昼寝をすることが多くなった。


夕方になると何か起こるのではと考えていた。


あの娘が何かを待っていたように。


我輩もこの美しい場所で何かを待っていた。


昼寝を駅でするようになって何十日かたったとき、その現象は起きた。


我輩はその現象を見てすぐに、あの娘が待っていたものだと気づいた。


駅の近くの川に光明が夕方の蜜柑色した雲から降り注いでいた。


川はどこまでも眩く美しかった。


理由なんてないくらい。


美しかった。

 

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