居合わせた人の視点。
拾う神が拒まれた。
それはゲートシティ内を駆け巡り、本人から声をかけられない限り、遠巻きにみるようになった。
声をかけたが最後、面倒を見る気にはならなかったから。
プレイヤー間の情報共有で、今日もそのお近づきになりたくない人が迷宮1階にいるらしいことを聞いた。
それまで、居酒屋の片隅で書類とにらめっこしていた拾う神が立ち上がって、ちょっと行ってくる、すぐ戻る。って言って出掛けていった。
が、直ぐに戻ってきた。
どこ行ってきたのか知らないけれど、鶏肉の味がする羽ウサギを複数手に持って居酒屋の主人に渡していた。
味が鶏肉に近いから、調理法は鶏肉に近いやり方で使うのだと。
主人との会話はポロポロ漏れ聞こえていて、なんでもこれを焼きウサギにして振る舞ってくれとか、足らない欠片の補充をしてくるとか、最近物騒だから気を付けてくれとか。
居酒屋の主人もまた、NPCではなく一人のプレイヤーだ。
なんでも、現実世界では資金面で不足がでるからなかなかできないが、ここなら思いきり料理ができる。と、喜び勇んで居酒屋を立てたらしい。
店員には一部NPCも含まれているが、プレイヤーも混じってる。
見かけは原則自分の姿だが、課金すれば数年後の大人の姿、数年前の若い自分が手に入る。
ちょうどそこに珍しく石材屋の看板娘が通りかかった。
「ロゼッタさん、お久しぶり。そろそろお伺いしようと思ってたんだ。良い石材無いかな?」
「あら、お久しぶりね詞葉。その話しっかり聞かせてくれる?用途と種類と…その他たくさん」
呼び止めたのは拾う神で、看板娘のロゼッタ嬢は首をかしげて珍しそうな表情を浮かべてた。
かの看板娘さんを見ると、ある英会話教材を思い出してしまう。
拾う神は良く集めた言葉を、石材屋のロゼッタ嬢に手伝って貰って、アミュレットストーンに加工する。
それらは緊急時にプレイヤーに無料配布されるが、非常にしっかり管理されているので、平常時資金につきたプレイヤーが売ろうとしたら、何処からともなく現れて回収していくと専らの噂だ。
先日の迷宮からモブが溢れだすという異様な異変から暫くは平穏な日々が続いていたというのに、今石材が必要になるとはなにか大変なことが起こるんだろうか?
心配である。
居酒屋の主人は羽ウサギを手にして厨房の奥にいつの間にか消えていた。
少しして美味しそうな匂いの元を手にして店員に運ばせて振る舞っている。
「拾う神からの差し入れよ。これから例の人物が来るから下手に構うな。っていうお願いつきで」
さっきのあれはそういうことだったのかと、納得する。
焼きウサギは低レベルでも狩れるのに数が中々居ないから振る舞う量を集めるのは大変だったろうにと思えば、大人しく買収されることにした。