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童話っぽいお話

嘆きの歌姫と命の巻物

作者: 榎本あきな

※忠告

1.このお話を、民に話してはいけない。

  話せば、あなたはいじめられるであろう。


2.このお話の、道化師を探してはいけない。

  探せば、あなたの人生は台無しになるであろう。


3.このお話を、城の人に話してはいけない。

  話せば、あなたは殺されるであろう。


最後に。このお話を他国に伝えてはならない。

    伝えたらあなたは――――――


この忠告は、注意ではなく忠告だ。

破ってもいい。だが…ひどい目にあうのはあなただ。

そこを踏まえて、この本を読んでほしい。


名もない大陸に、ひとつのお城があった。


そのお城では、王様が泣いていた。……棺おけの目の前で……


王様の一人娘である姫が何者かに殺されたのだ。


毒殺なのか殺害なのか自殺なのか…それはまったくわからない。


そんな王様に近寄る影がひとつ…


何かと思い振り返ると…そこには道化師(ピエロ)がいた。


その道化師はいった。


「私が、あなたの涙を止めて見せましょう…」


そういい、ショーが始まった。


最初は、なぜこんなところにこんな奴がいるのだと、姫が亡くなったのに悲しみがなくなるわけない。


そう思っていた王様は…次第にショーにのめり込んでいった。


もう、目の前のショーしか眼中に入らない。そんな感じだった。


いつのまにか、王様の涙も止まっていた。


だが、そんなショーにも終わりが来る。


それが姫との別れと同じような気がして、王様はまた涙を流した。


すると、道化師がいった


「そこまで悲しむならば、これを差し上げましょう」


そういい道化師が王様に渡したものは…巻物。


王様が首を傾げていると、道化師が説明した。


「それは命の巻物。死人を…生き返らせることができます」


それを聞き、王様は飛び上がった。


姫を生き返らせることができる…と。


王様が巻物に目を通していると、道化師がいった。


「せいぜい使用方法には気をつけてください。…人形の王様(マリオネットキング)?」


何の名前か理解ができず、王様が道化師に聞こうとしたときは、道化師はどこかに消えていた。


そして、そんなことよりも姫を。と思った王様は、道化師を思い出すことはなかった。


***


王様がいるであろう部屋からは喜びの声が聞こえる。


そう。姫が生き返ったのだ。


ドタドタと王様の部屋へかけつけてくる人々が大勢いる。


その中で、一人だけ逆流している人がいた。


王様の側近だ。


彼は、道化師と王様の会話を盗み聞きしていたのだ。


側近は自分の部屋に戻り、とある人物に依頼をした。


「王を暗殺し、巻物を奪え」と…。




数日後、王は何者かによって殺された。


姫が生き返った直後に亡くなった事により、これは天罰だと人々は思った。


姫を生き返らせた代償なのだと。


人々は嘆き悲しみ、その元となったと思われる姫に罵声を浴びせた。


そんなときに出てきたのは一人の男性。


王の側近だった人だ。


側近はこういった。


「これは隣国の策略。姫を眠らせ、姫が起きた時に王を殺す。そうすれば人々は姫を恨み、暴動を起こし、わが国は内戦をすることになり、結果自滅する。そういう策なのだ」


側近の言葉を聴き、人々は我に返った。


それと同時に、人々の思いは隣国への怒りへとなった。


この国を陥れようなんて、なんて下劣な国だ。と…


嵌った。側近は誰にもわからないように にやり と笑った。


側近が言った言葉は全部嘘である。


隣国はそんなことは企てていない。むしろ平穏に過ごしているだろう。能天気に。


これは側近が王になり、この国が他の国を倒す第一歩なのだ。


そして…側近は人々を動かすための一本の糸を紡ぐ。


「腐りに腐ったあの隣国を…我らの手で潰そう!!」


この国に、人々の怒りと決意の轟きが響き渡った。


***


皆の支持を得、側近は王となった。


そして、民間の者や兵士などを集め、隣国へと攻め入った。


結果は勝利。しかし、こちらの被害も大きい。にも関わらず、側近は他の国に攻め入った。


絶対の勝利を確信して。


なぜなら…彼の率いる軍は全員(アンデット)だからだ。


そう。実際だったら負けていたはずが、命の巻物によって蘇らせた事で勝利を掴んだのだ。


だが、その見た目の悲惨さから、(アンデット)と呼ばれるようになったのだ。


やはり、そんなことが続くといつかはバレるというもの。


側近のこのことがバレ、市民は側近に戦いを挑んだが、結果は惨敗。


死を恐れない屍に勝てるはずもない。


その事実に、国の人々は嘆き悲しんだ。


いつになったら、私たちの大切な人々を眠らせてくれるのか。と…


***


姫は一人部屋の中で泣いていた。


どうしてこうなってしまったのかと。自分が生き返ったのが悪いのか。と…


そんなとき、どこからともかく風がふいた。


姫がふと顔をあげると、そこにはあの道化師がいた。


道化師はいった。


「泣いているだけじゃなにも始まらない。止まっているままじゃ、良い方にも悪い方にも進まない」


姫は、その言葉に涙をとめた。


嘆いているだけじゃ、ただの人。この争いをとめてこそ、この国の王族だと。


そんな決意を秘めた泣きはらした目を見、道化師は微笑んだ。


そして、この部屋を後にしようとしたとき、


「待って…!」


喉の奥から搾り出したかのような声に足をとめた。


「あなたは……誰?」


道化師は振り返ってこういった。


「この世の管理者。この世界のこの星の破滅をとめにきた者です。血塗れ姫(ブラッド・プリンセス)いや…この世界では嘆きの歌姫か」


その言葉に疑問を感じ、姫は聞こうとするが…誰かが自分を呼ぶ声にさえぎられてしまう。


一瞬、その声に気をとられ、道化師の方を見ると…そこには誰もいなかった。


まるで、元々そこにはいなかったかのようだった。


すると、さっきと同じ声が自分を呼び、姫は急いでそっちに向かった。


そのころには、なぜかすっかり道化師のことを姫は忘れていた。


***


姫を呼んだのは、幼いころから姫と一緒にいる侍女だった。


侍女の目は、赤く腫れていた。


すると、侍女が姫の手をひっぱり、一番高い塔の一番高い場所にある窓まで連れて行かれた。


何事かと思いながら侍女と歩いていると、急に姫の手を離し、窓の外を指差した。


首を傾げつつも窓を見る。そこには…



地獄絵図があった。



人々が怒りの形相で相手を切りつけ。


あるものは命乞いをし、


あるものは狂気に狂い、


またあるものは嘆き悲しんでいた。



姫は、いつの間にか涙を流していた。


それと同時に、何かをやらなければという気持ちにとらわれた。


この戦を終わらせる何かを…。


だが、何も思いつかない。


考えても考えても、何も思いつかない。


自分はなんて非力なんだろう。


この国の姫であるというのに…。そう思い、姫はまた涙を流した。


***


枯れてしまうんじゃないかというくらい涙を流した。


体中の水分が出て行ってしまったのかというくらい流した。


すると、その窓の近くに何かが落ちていた。


よく見ると、それは一枚の紙だった。


いつ入ってきたのだろう。そう思いながら紙を拾う。


何も書いてない。そう思いながら紙を裏返すと、文字が書いてあった。


「唄」


…そうだった。忘れていた。


私は歩けるじゃないか。私はしゃべれるじゃないか。


私は聞こえるじゃないか。私は―――



――――詠えるじゃないか。



私は非力じゃない。非力なフリをしていた人間だ。


姫は、自分が皆になにかをしてやれる。そのことに喜びを感じ、唇をかみしめた。


そして、泣きながら、鳴きながら、謡った。



怒り狂った人間も、狂気に満ちた人間も、嘆き悲しむ人間も、


すべてがすべて、姫の歌声に耳を傾けていた。


その様子はまるで…



争いが嫌いな天子のようだった。



***


戦が終わり、人々が正気に戻り、側近を倒した。


また、新たな平和がこの国に訪れたのだ。


無論、勝手に言いがかりをつけられ、国を攻撃してきたところもある。


しかし、相手はまったく勝てなかった。


屍でないにもかかわらず。


それは、姫のおかげだった。


戦を始めると、姫は泣き出す。


国の人々は、姫を泣かせたくなかったのだ。


この国を救ってくれた天子を、人々は泣かせたくなかったのだ。


だから、絶対に負けられない。絶対に死ねない。その思いが人々を強くした。


そして、この国は無敗の国になったのだ。



時が流れた。


夫もでき、子供も二人生まれた。


幸せに暮らしていた姫。


だがある日、暗殺者がやってきた。


隣国が、姫を殺せばあの国の結束力も弱まるだろう。そう思い、手配したのだ。


駆けつけた姫の夫…王が敵と交戦中に、姫は子供を抱きかかえた。


だが、抱きかかえた子供は一人(・・・)だけ。


もう一人は見つからない。


このままいたら腕の中にある、この国の未来を握るこの子も死んでしまう。


胸を引き裂かれる思いで、姫は城を抜け出した。



必死で、森の中にいる知り合いの元へと走る。


だが、姫の足では追いつかれてしまう。


それなら…。と、姫は子供を木の隙間へと寝かした。


餓死するかもしれない。動物に食べられてしまうかもしれない。


けど…ここで私と死ぬより、少ない可能性にかける。


姫はそう決意し、森の中を駆けていった。


その後、姫の姿を見たものはいなかった…。


***


城に残した姫の子供は、奇跡的に生きていた。


どこに隠れていたか…というのは、誰にもわからない。


暗殺者が帰ると、どこからともなくひょっこり現れたそうだ。


その子供はすくすくと育ち、王子になり、王になった。



そして、これは誰も知らない事実だが…


姫が木の隙間に置いた子供は今もどこかで生きている。


まあ、狼に助けられ、少々荒い姫の知り合いに育てられ、野生児になってしまったらしいが。


これは、この本の中だけの秘密だ。


…まあ、いじめられるのが怖くなければ知り合いに話してもいいし、


その姫の子供を捜すというのもいいだろう。君の勝手だ。


だが、この本を閉じる前に一つだけ読んでほしい。













最初の忠告だけは、絶対に破るな。














雰囲気作りに前書きとか本の忠告っぽいものをつけてみました。

雰囲気を作りたかっただけなので、別に話しても問題ないです。

だって、城とかないでしょう?

そもそも、こんな国もこんな御伽噺もないでしょう?

だったらOKです。

ってか、あったら自分が困ります。

ですが、皆さんが楽しんでくれたら幸いです。

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