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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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唐沢は社有のバンでいつも通り会社に向かう。20万キロを超えたボロは最近、エンジンの掛かりが悪い。

ゆうべの酒が少し残っていたが、バンドを復活させることで自分の生活に張り合いが生まれることが嬉しかった。

会社に着くと、宮岡は朝からどこかへ出ているようだった。(・・・どうせブレイン連れて、例の現場を見させてんだろう。自分じゃ段取りも銭勘定も出来ねえだろうから。)そう思いながらパソコンの電源を入れる。

「おはよう。お前、今日どうしてんの?あの現場行くの?」出勤してきた青木が聞いてきた。

「あの現場はさんざん見尽くして予算書まで上げたんで、今さら行く必要なんてないっすよ。・・・それに俺は大原重機の作業速度をベースに工程出したんで、あれ以上に早く安く上げられる段取りはないと思うし。・・・だけどやっぱ俺は索道施工の方が、絶対安く上がると思ってるけど」

「お前と大原のコラボか、最強だな。・・・そういやおっさん、現場行ってるみてえだな。好きにさせときゃいいよ、どうせ最後にゃお前に頼まざるを得なくなるんだ」

「・・・俺は正直、代理人変更したって構わねえと思ってますよ。最近マジでウンザリしててね。人を信用出来ねえ馬鹿社長のツラ見るのもウンザリ」

「まあ、そうキレずにさ。お前は仕事も早えがキレんのも早えからな」

青木は柔らかい笑顔で、唐沢の気分を鎮めようとする。(・・・この人は仕事はそこそこだが、世の中が回るためには不可欠な人種なんだな。)

だが、唐沢はその会話ですらどうでも良くなってきた。


結局、青木の手掛けた「道路改良工事」の竣工検査が近いため、唐沢は書類作成を手伝った。金額も工種も少ないため、一日手伝っただけでだいぶ捗ったようだった。


18時過ぎに会社を出る。・・・実は、今日は仕事どころじゃなかったのだ。ガキの頃からの馴染みの楽器屋へ直行する。

唐沢はホッとして、ガラスケースに陳列されている憧れのGibsonを眺めた。・・・Gibson EB-3だ。

古くはcreamのジャック・ブルースが愛用していたエレキベース。フロントにバカデカいハムバッカー、リアにシングルを載せたソリッドの薄いボディー。

1968年頃のビンテージの中古品だが、「27万円」の値札が付いている。・・・半年前から気になっていた物件だった。

馴染みの店主にさっそく掛け合う、唐沢は貯金を下ろして現金を財布に詰めてきていた。

さんざん掛け合った末、24万円まで負けさせてハードケースや本革のストラップや、カールのシールドを付けさせた。


ボロのトランクにベースを積んで心ウキウキの唐沢は、三羽と須川に報告しようと携帯を出した。途端に電話が鳴る・・・Black Birdだ。


「ようタケル、昨日はおつかれさんー。俺さー・・・」唐沢が言いかけると、「・・・小娘が家にいるんだよ」

「それは昨日聞いた、女が落ちてたら拾って大事にすんだろ?それよかさ、ギブソン・・」

「それが現実になっちまって、帰ったらまだ部屋にいるみてえなんだよ。どうしよう」三羽は気弱な物言いだった。

「・・・そうなんか。どうしようもなにもねえじゃん、うまくやれよ」

「いや、そういう関係じゃねえんだよ。だからどうしようかなと思って」三羽は珍しくオドオドしている。

「いるみてえって、部屋に帰ってねえのか?」唐沢は少しだけイライラした。

「・・・部屋に灯りが点いててさ、たぶんいるんだろうな」三羽は情けない声で言った。

「まあ、なんか問題あったらまた電話しろよ。・・・リョウタに電話しなきゃなんねえからまたな」


三羽は携帯をポケットにしまい、また部屋の灯りを見上げた。


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