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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽は小娘の顔をしばらく眺めていた。背が小さいので見下ろす姿勢のまま、お互い動かなかった。

・・・無表情の小娘の両目に水が溜まってきて盛り上がった。そして下瞼一杯に溜まるとポロポロと流れ落ちた。

小娘はまばたきもせず声もあげず、息を荒くすることもなく、ただ涙をこぼしていた。

三羽はいよいよ訳が判らなくなる。(・・・こいつ、ちょっとおかしいヤツなんかや。それともなんか相当切迫した事情でもあるのか。)

いづれにしても、この寒い夜中に建物の外で涙を流している小娘を、そのまま放置するわけにもいかないと思った。

幽霊じゃなかったことも確認出来たので、少しだけ優しくしてやりたくなった。

「・・・お前が嫌じゃなきゃ、中で寝ろよ」

三羽はドアを開け放したまま部屋に戻り、押入れから寝袋を出した。

ちっぽけなテーブルをずらして自分が横になるスペースを作っていると、小娘が部屋に入ってきた。俯いたまま立っているので「そこ」とベッドを指差した。


時間通りに目覚ましが鳴る。小娘はベッドで小さな寝息をたてて寝てるようだ。近年で最高の辛い気分で起き上がり、くわえタバコで身支度をする。なるべく音をたてずに部屋を出た。

赤錆の出た縞鋼板の階段をトントンと下りると、荒井がポンコツでやってきた。

途端に携帯が鳴る、会社の原田部長からだ。「中島建設の現場は柏木と清水に行かせたから、お前と荒井は会社に来い」・・・覚悟はしてたがあまりに予想通りで、朝から溜息が出た。


「三羽、俺もあの代理人は嫌いだしアタマに来たことは何度もある。・・・お前の気持ちは判らねえでもねえ」

「・・・はい」

「でも、相手は友達でもケンカ相手でもねえ。銭をくれる客だよな?」

「・・・はい」

「お前はまだ若くて一人者だから、気持ちを抑えることが出来ねえんかも知れねえが、家にお前を待つ人間がいるようになったらそうは行かねえんだぞ」

「・・・はい」三羽は思った、(そういや小娘は、もう家に帰るかどっか行っただろうな。)

「鶴田営業部長が先方に謝りに行ってる、お前のひと言が大問題になってんだぞ」

「・・・はい。」(そういやあの小娘、ひと言もしゃべらなかったな。)

「部長が帰ってきたら誠意を見せて謝れよ、判ったな」

「はい判りました、どうもすんませんでした」と口先だけで謝り、その場を後にした。


三羽は今日も荒井のポンコツでアパートに帰ってきた。アタマの中はバンド復活に向けて、一日も早くスタジオリハーサルを開始しようと、あれこれ考えていた。

(・・・リョウタは曲書き出すって言ってたし、コウヤはGIBSONのEB-3買うって言ってたし。俺も調子づいてブラスのピッコロスネア買っちゃおうかな。)


「三羽鴉」は結成当時はcreamやBBA、といった3ピースバンドのカバーやstones、kinks、whoなどのカバーをやっていたが、須川が作ってきたオリジナルの方がカバーよりもずっと自分たちにしっくり来て、オーディエンスの受けも良かったので、後半はずっとオリジナルで通してきた。


・・・三羽はアパートの階段を上がろうと、自分の部屋を見上げた。


部屋には灯りが点いていた。


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