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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽が刺されてから一週間、傷の痛みはまだあるが、普通の生活ができるまでに回復していた。

今日は須川、紗希、唐沢、千夏が西田の店に集まり、ささやかな快気祝いをやる予定だ。

・・・主人がいつも不在、どころか誰が主なのかもわからない、この不思議な空間であったが、三羽は居心地の良さを感じていた。

桜とふたりで店の中を片付ける。三羽が寝ていたパイプベッドを畳んで隅に寄せ、ガラクタが積まれたテーブルやスツールの上を整理する。

不思議なことに気づいた。物だらけの乱雑に見える店内だが、どこを触っても指には埃ひとつつかなかった。・・・まるで、物を移動させずそのまま丁寧に掃除してるみたいだった。

テーブルを並べ替え、6人が座るのにちょうどいいレイアウトにした。桜が丁寧にテーブルやスツールを拭いている。

(・・・こんな飲み屋をやるのも悪くねえな)思ったが、三羽はそんな夢を見る資格は、自分にはないのかもとも思う。

掃除機を探しに隣の部屋に行ってみた。・・・はっとする。そこには自分が刺された時に着ていたMA-1が、段ボール箱に放り込まれていた。引っぱり出してみる。

背中にはやはり刃物で突き刺された孔が空いていて、血糊でパリパリに固まっている。黒いジャンパーなので色はあまり良く判らない。

引きずりだすとヤケに重い。・・・内側ポケットにベレッタがあの時のまま突っ込まれていた。少しだけ背筋が寒くなる。(あれはやっぱり夢の出来事じゃなかった・・・)

そこらへんにあったビニール袋に、ベレッタと予備弾倉を入れて口を結んだ。


店に戻ると、バーカウンターの横にちょっとしたシンクやガス台がある。桜はそこでなにか作ってるようだ。なんとなく楽しげに見える。

三羽は桜に気づかれないよう、ベレッタの入ったビニール袋をカウンターの棚に置く。

古いステレオの電源を入れ、棚からレコードを取り出す。「今日はジョン・リー・フッカーにしようかな」

レコードをターンテーブルに載せ、針を落す。ES-335のバリバリに枯れたギター、バリバリに枯れたヴォイス。腹の底までブルースが滲みてくる。

酒棚からワイルドターキーを引っぱり出して、ショットグラスに半分注ぐ。怪我して以来の酒は胃袋が熱く灼けてきた。

グラスを手にカウンターのスツールに座り、桜と向き合う。(今、言うべきだろうな・・・)三羽は決めた。

「・・・桜、明日俺の部屋に一緒に帰ろう」三羽は桜がどんな反応をするか、予想していたわけじゃないが、嫌な顔はするまいと思っていた。

桜は一瞬手を止めた、少しうつむいたが顔を上げる。「・・・うん、タケルくんの部屋に帰ろうね。楽しみだよ」

三羽は心から安堵した。・・・唐沢の変な言い方が気になっていたからだ。

グラスを片手にテーブルにつくと、カウベルが鳴り須川と紗希が入ってきた。

「ようー、今日から飲めるんだろ?買ってきたぞー!」須川がジャックとターキーのボトルをぶら下げていた。紗希はオードブルの包みを提げている。

桜は「今日はありがとうございます」と、ちょこっと頭をさげる。「あれれ?タケルの嫁さんだっけ?」須川はおどけてみせた。

少ししてから、唐沢と千夏がやってきた。「タケル、お前のセリカ、ありゃダメだ。ハンドルは重てえしクラッチは重てえし・・・現代人には無理だ」

言いながら、2人は今夜の飲み物や食い物をテーブルに置く。唐沢と千夏は、上越に置き去りのままだった三羽のセリカを取りに行ってくれていたのだ。

「ふたりともありがとうございます」桜はまたちょこっと頭をさげた。


久々に笑顔であげた乾杯だ、全員、普段以上に酒がすすんだ。仲のいいダチと美味い酒を飲める・・・その喜びをそれぞれが噛みしめている、そんな感じだ。

桜が自分で作ったパエリアを出してきて、みんなによそる。「ちょっと失敗しちゃったんだけど、ごめんね!」そう言いながらも嬉しそうだ。

「え?これで失敗なの?すごいうまいじゃん!」唐沢も須川も、上出来の味に驚いていた。

「桜ちゃん、料理上手いんだね!あたしたちはもっぱら食べるだけだけだからねー」千夏は紗希と顔を見合わせて、苦笑いする。

三羽はそんな光景を眺めながら、照れくさいようなちょっとだけ桜を誇りに思うような、変な優越感に浸った。

だいぶ酔いがすすんだ頃、須川が店の隅にアコースティックギターを見つけて、持ち出してきた。

「・・・テキサンだよ、これはかなり古い。すげえ値打ちもんだぜ!」そう言って、錆びついた弦をチューニングする。「・・・なんか、ポールの気持ちになっちゃうね」と言いながらBlack Birdを爪弾く。

『Blackbird singing in the dead of night・・・』須川が歌うと、唐沢も三羽も一緒に歌う。千夏も歌詞を知らずにハミングする。

紗希が「そういえば、これみんなの携帯の着メロだよね?・・・なんでこの曲なの?」

「それはさあ、・・・なんでだっけ?」須川は唐沢と三羽に聞いたが、2人とも首を傾げた。


須川がギターを置こうとした時、近くに積み重なった荷物にネックがぶつかった。

一番上に積まれていたフォトフレームが落ちる。咄嗟にとなりにいた紗希が受け取る。

「あー、あぶなかったー!リョウタ、気をつけて!」そしてフォトフレームの中の写真を見る。

無表情にどこかを見ている4人の男たちの写真だった。

左端に白髪の背の高い男、あとの3人は若そうだった。

「下の白い枠のところに名前が書いてあるね。・・・西田・山浦・西柳・・・あれっ?もうひとりのこの人!」


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