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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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翌日の昼間、桜が店に入ってきた。ベッドの上で上体を起こしている三羽を見て、ビックリした顔で近づいてくる。

「タケルくん、もう起きれるようになったの?痛くないの?」

「ああ、もうだいぶ調子いいよ。痛みも遠くなってきた」三羽はあの物置部屋で再会して以来、ふたりだけで話す機会もなかったので、なんとなく照れて顔を見れなかった。

桜も同じなのか、妙にそわそわして落ち着かなかった。手に提げてきた鍋や袋をテーブルに置きに行く。

「あの・・・あらためてありがとう、タケルくん。私を助けに来てくれて」

「うん・・・みんなとも話せるようになった?」三羽は照れくさくて、関係のないことを言った。

「うん、タケルくんの友達は、みんないい人ばっかりだね。みんな優しくしてくれるよ」

それから、この二日間のことを話しだした。桜は話し出すと止まらない。身振りを交えて楽しそうに話す。

(・・・本当はこういう無邪気で明るいヤツだったんだな、あんなことが起こらなければ・・・)三羽は相槌を打ちながら、嬉しそうに話す桜を見て、少し悲しくなった。


鍋の中はシチューだった、袋の中にはクロワッサンが入っていて、桜はテーブルに並べる。

三羽はベッドの上で、桜はスツールを持ってきて、ふたりで食べる。・・・アパートで食った時とまるで違う雰囲気だった。

(・・・ただふたりでメシを食ってるだけなのに、こんな穏やかな気持ちになるのはなんでなんだろう)

三羽はこの不思議な安堵感みたいな気持ちが、妙に愛しく感じられ、この時間がいつまでも続いたらとも思った。


三羽は腹に巻いた包帯を解く、桜が背中の傷の消毒をしてくれた。背中なので目では見れないが、傷がひっつれた感じは今でもする。

「急所スレスレのところだったんだって。・・・三羽は運がいいって、山浦さん言ってた」桜は傷口にガーゼを固定しながら言った。

三羽は唐沢から聞いた話を思いだした。(親友の復讐で、ヤクザ組織をひとりで壊滅した男・・・県議会議長親子を殺した男・・・爆死から甦った男)

・・・暗闇で声をかけられ行動をともにした。とてつもない戦闘能力とバイタリティーを持った男だったが、殺人鬼というような冷徹な精神の持ち主には見えなかった。

確かに、平気で何人もの命を奪った男だが・・・。

「山浦さんと美弥さんは、あれからどうしたんだ?」三羽が訊くと、桜は一瞬とまどったような表情を見せたが、「タケルくんの手術以来、知らない」と答えた。

「俺はもうだいぶいいから、自分の部屋に帰ろうと思うんだけど」三羽はなぜか、桜に許可を得るような口調になった。

「一週間は安静にしていろって、山浦さん言ってたんだけど」桜は申し訳なさそうに言う。

「そうか・・・」

店の中に古いステレオが置いてあり、棚にレコードが山ほど立てかけられている。

三羽は好きなブルースやR&Bのレコードを選んで、桜と聞いた。好きな音楽と戯れると好きな酒が飲みたくなるが、それだけはさすがに控えた。


桜は古時計が23時になると、帰っていった。どこから来てどこへ帰るのか聞かなかったが、山浦か美弥がどこかに用意しているのかも知れない。

ベッドに座ってボンヤリしていると、Black Birdが鳴った。唐沢からだ。

「体調はどうだ?」

「ああ、もうなんとか歩けるよ。メシもちゃんと食えるしな」

「桜は来てんのか?」

「23時までいたよ。どっから来てんのか、お前知ってるか?」

「・・・いや、知らねえけど」三羽はちょっと引っかかった。

「・・・そうか、俺もうちょっとしたら、アパートに帰ろうかと思ってさ。・・・俺みてえな人殺しが、まともに社会生活していいもんかどうか、疑問に思うけどな」

「仕事、もしあれならウチの建設会社に来てもいいんだぜ。あんましいい会社じゃねえけどさ」

「ああ、サンキュー。・・・それとアパートで桜と暮らそうと思ってさ」

「桜と暮らす!?」唐沢は急に驚いた声を出した。

「え?なんだよ。あいつと暮らしちゃまずいんかよ?」三羽はさっきから唐沢の様子が気になってきた。

「・・・あ、いや。いいんじゃねえかや。桜も嬉しいだろうよ」


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