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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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桜が温かいタオルのおしぼりを持ってきて、三羽の顔を拭う。

「ここ、どこだよ?・・・俺はどうしてここにいるんだ?」三羽は今度は痛みが走らないよう、小声で訊いた。

「・・・ここは長野市内のとある場所だ。お前は桜と犬井のビルを脱出する寸前、犬井のとこのヤツに背中を刺された。・・・お前はそのあと、そいつをナイフで殺った。それは憶えてねえか?」

唐沢は三羽がショックを受けないようにするためか、ゆっくりと呟いた。・・・三羽は、背中を刺され相手の方を振り向いたところで、記憶が途切れていた。

「それで俺と千夏が、お前と桜をここに運んできた。・・・それから山浦さんと美弥さんが、お前の手術をして手当てをして出て行った。三日前のことだ」

(三日前、・・・俺はそれからずっと眠っていたのか)時間の感覚がまったくなかった。

「山浦って、あのすげえ男のことか?」三羽の記憶は、徐々に細部にわたって甦ってくる。

「・・・お前、名前も知らないで共同戦線張ってたのかよ?」

「そうか・・・」

(俺は初めて手にした拳銃で、結局3人も殺した。・・・いや最後はナイフでもうひとり殺した。・・・殺人鬼のような俺は逮捕されないのだろうか?)

思い出すことが苦痛になり、精神的に圧迫されてくる。また、思考を回転させることに疲労を感じた。

「まあ、またお前に話すから、今日はゆっくり休めよ」三羽の疲労の色を察して、唐沢が言った。そして手を挙げた。

千夏、リョウタ、紗希が「また来るよ」と言って、一緒に出て行った。

気づくと三羽は、上半身裸で腹部にサラシのように包帯が巻かれていた。桜が温かいおしぼりを何枚も持ってきて、丁寧に拭いてくれた。

眠りに引きずりこまれていく。


次に目が覚めた時は、だいぶ気分が良くなっていた。周囲を見回す、左側に点滴のパックが吊るされていて、管が左手の甲につながっている。

ゆっくりと上体を起こす。・・・腹から背中にかけて痛みが走ったが、我慢できないこともなかった。

二の腕にも包帯が巻かれていて、銃弾が掠めた熱い痛みを思いだした。だいぶ過去のことのような気がした。

部屋は薄暗いオレンジ系の電灯が灯っていた。窓がないので昼間か夜か判らないが、壁の古時計は『7時』を示している。

寝ているベッドは病院にあるようなパイプベッドだったが、周囲の様子はどう見ても地下酒場みたいだ。

奥の方にバーカウンターがあり、酒棚にはバーボンやスコッチのようなボトルが、何本も立っている。

部屋の反対側はソファーやテーブルがあった。だが、どこの上にもいろんな物が雑多に積まれていて、営業しているという雰囲気ではなかった。

部屋の隅には骨董屋みたいに、古い甲冑や武具なども立てかけられている。


入り口のドアに吊るしたカウベルが鳴った。振り返ると、仕事着の唐沢がビニール袋をさげて入ってきた。

「よう、起きられるようになったか?」くわえタバコのまま、ベッドの隅に腰掛ける。

三羽は無性にタバコが吸いたくなり、「コウヤ、一本くれねえか」と言うと、唐沢はビニール袋からゴソゴソとショートホープを取り出す。

封を切って三羽に差し出した。くわえるとzippoで火を点けてくれた。

(・・・何日ぶりのタバコだろう)深く吸い込むと頭がクラクラしてきた。2本目をもらうと、今度はなんともなかった。


「この前の話の続きをしようか」唐沢は少しだけ姿勢を正して、変な間を空ける。

「・・・桜、いや正確には西田美樹は、この酒場というか秘密組織の総裁の孫娘だ。・・・殺された彼女の父親もその組織の人間だった。桜本人はなにも知らなかったらしいがな」

三羽は初めて出会った夜の寒さを思いだした。

「山浦さんは20数年前、ヤクザ組織に大事な親友を殺された。そして復讐を誓い、ひとりでヤクザ組織を全滅させた上、この問題の元凶であった県議会議長親子も殺した」

唐沢はセブンスターに火を点け、また間を空ける。

「その時に何度か大怪我をして、西田氏に助けられたらしい。・・・最後はその県議会議長を殺る際、手榴弾で爆死したということだ・・・」

「爆死した?・・・じゃあなんで今も生きてるんだよ?」三羽がショートホープをくわえると、唐沢が火を点けた。

「いや、正確には瀕死状態だったらしいんだが、その山浦さんを甦らせたのが、西田総裁らしい。・・・美弥さんは殺された親友の妹だそうだ」

三羽はいきなりいろんな情報を聞かされたので、頭の中で整理しようと懸命だった。

「そして刑務所に何年か服役して出てきて、現在は秘密組織の人間らしい」

「何年か?・・・しこたま殺人を犯して、懲役何年程度なのかよ?」

三羽はこれまで『秘密組織』なんてものの存在は知らなかったし、世の中の暗部のようなものとは無縁の生活だったので、理解できなかった。

「それも西田氏の影響なのかも知れないがな・・・」唐沢はそこまで言うと、また来ると言って帰っていった。


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