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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽が茫然と拳銃を眺めていると、男はいったん拳銃を取り上げる。

「これが安全装置、これをこっちにして銃爪を引くと・・・弾が出る」男はカチャッカチャッと、実際に操作してみせた。

「オートマチックだから、発射した瞬間このスライドが後退して、ここから薬莢が飛び出す。・・・あとはダブルアクションで引けばいい。簡単だろ」

「そ・・・」三羽はあとの言葉が続かなかった。

「2、3発ぶっ放してみりゃ判るさ、弾倉には15発入っている」男は気軽に言って、三羽にオートマチックと予備弾倉を渡した。握ってみると手に吸いつくように感じる。スライドには『beretta』と彫ってある。

三羽は、まさか自分が拳銃を持ち、銃撃の渦中に飛び込むことなど考えてなかったから、躊躇した。(・・・ビビってるのか、俺)

男を振り返り訊く、「・・・あんたはマジで何者なんだ!殺し屋か!」

「三羽、お前はやるのかやらんのか?マゴマゴしてると、お嬢は外国行きだぞ」男は肩をひねり、億劫そうに訊く。

(外国行き!・・・そうだ、俺は桜を連れ戻すことだけ考えて突っ走ってきた)三羽はさっきまでの勢いを忘れているのに気づく。

「やるさ!どうせイチかバチかで突っ込もうとしてんたんだ。・・・やるさ!」


「そろそろだ・・・」男は腕時計を眺めて、三羽に言う。

「ビルには昼間、何人か入ったようだから10人ぐらいはいるぞ。・・・それと中に俺の身内が潜入してる。段取り通りに行ったなら、そろそろブレーカーが落ちる」

じきにビルの明かりが一斉に消えた。

「・・・よし、行こう」2人はフェンスをよじ登り、裏口まで駆ける。

「いいか、ヤツらは執拗だ。こっちが全員を叩き潰すか潰されるか、それしかない。・・・お嬢の身柄は身内が確保する手筈になってる。俺達は先手必勝でヤツらを叩き潰す・・・いいな」

三羽は興奮してきた、腹の底から湧きあがる説明のつかない感情が、身体を揺さぶる。そして黙ってうなづく。

男はポケットからコピーしたらしい鍵を取り出し、裏口のドアを開ける。

「俺は3階へ行く、お前は2階だ。・・・生きてここを出ようぜ」男の右手には銀色に光るリボルバーが握られている。

男と三羽は暗がりのビルに忍び込む。三羽は2階への階段を静かに駆け上がる。



あてがわれていた狭い部屋の電灯が突然消え、空調の音も止まった。

桜は父親の死から今日までの出来事を、思い出していた。・・・そしてじきに日本を離れて、誰も知らない場所で生きていくこと。

悲しみや辛さの連続で感情が麻痺している桜には、もはや抵抗する気力も残ってはいなかった。

・・・廊下を足早にやってくる靴の音が聞こえた、すぐにドアが開く。小型のペンライトがこちらを照らす。相手の姿は見えない。

「お嬢、こっちへ」呼びかけられると同時に、右手首を掴まれた。細長い華奢な指だった。

(・・・あの秘書の女の人)引かれるまま部屋を出る。

「いそいでね、脱出するんだから」桜は混乱した。(・・・この人はいったい誰なんだろう)

廊下を駆ける。途中、建物の奥の方で走り回る音が聞こえ、階上で拳銃の弾ける音が断続的に聞こえる。そして悲鳴。

何かが倒れる激しい音、ガラスの割れる音。

桜にとっては恐怖の連続の日々だったが、銃撃戦のような騒ぎはまた別で、心臓が破裂するような恐怖が襲ってくる。


・・・1階の隅の物置部屋のようなところに入れられる。中は空っぽで何もなかったが、棚の上に電池式のランタンが灯っていて、一緒に入ってきた女の姿も見れた。

「ここでちょっと辛抱しててね」言うと女は優しく微笑んだ。来た時に見た無表情な顔とまったく違っている。

混乱した桜の表情に気づいた女は、「心配しなくていいの、あなたの味方だから。・・・美弥っていうの、覚えといてね」

女は黒っぽいスリムなズボンに、ホルスターを吊っている。

「じゃああとでね」そう言うと、ドアを閉めた。



「ちょっと!コウヤ、飛ばしすぎ!パクられるよ!」千夏を拾った唐沢のミニバンは、上信越道を180キロのスピードで北上している。

「うるせえ!それどこじゃねえ!あのバカ野郎のことだ、今ごろなにしでかしてやがるか知れたもんじゃねえ!」

追越車線の先に見えるテールランプが、近づいては除け近づいては除け、狂った黒い弾丸は走り続ける。


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