表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライジング・サン  作者: 村松康弘
39/50

39

明け方の18号はガラガラだ。三羽は真っ直ぐなアップルラインを駆けていく。

117号との分岐を左に曲がる。人家は急に途絶え街路灯も淋しくなってきた。

途中、勾配がきつくなり長い登坂車線になる。

古い車体のセリカだが、二度のオーバーホールとチューンナップを施された2T-Gエンジンは、軽快に坂を駆け上がる。

数台のトラックを追い越して、信濃町に入る。野尻湖を過ぎたトンネルを抜け、高い橋脚の大きな橋を渡れば新潟県だ。

「夜明けの疾走か・・・」三羽は左前方に聳える峻厳な妙高山を眺めながら呟く。

妙高から先は、なだらかな坂を駆け下りていく。・・・路肩にはまだ残雪が固まっていて、雪とは思えないほど黒く薄汚れていた。

だが、豪雪地帯だけに雪を溜めるだけの幅員を確保しているので、走るには何の支障もなかった。


いくつもの店舗が併設されている『道の駅』に入る。

三羽は広い駐車場を過ぎ、一角のコンビニに車を停め、ショートホープとブラックの缶コーヒーを買ってくる。

シートを倒しタバコの煙を吹き上げると、数日眠っていないせいか疲労感がどっと押し寄せてきた。

「・・・そういや今日仕事休むこと、会社に電話しなきゃ・・・」

缶コーヒーの栓を開けると、芳しい匂いに心が和んだ。普段は感じたことなどなかった。

・・・三羽は何もかもがどうでも良くなってきた。

「コウヤと千夏との約束も破って、突っ走ってきちまった・・・」短くなったタバコを消し、新しいタバコに火を点ける。

「俺は一体どうしてえんだろう・・・すべて衝動のままに来ちまったな」

ため息を吐き出し、ラジオのスイッチを入れる。旧式のダイヤルを回し周波数を合わせる。

『・・・ガラスのジェネレーション さよならレボリューション 見せかけの恋ならいらない So one more kiss to me』

古い曲をかけていた。確か小さい頃、このセリカのカーステレオでも聴いたことがあった。

アーティストの名前までは知らないが、ジョン・レノンに似ている声のトーンだった。

『街に出ようぜBaby 二人の街にMaybe 君の幻を守りたい So one more kiss to me・・・ガラスのジェネレーション さよならレボリューション つまらない大人にはなりたくない・・・』

三羽はタバコの灰が落ちるのを忘れて、聴き入った。「つまらない大人にはなりたくない・・・」

その短い一節が、三羽の頭に衝撃的に突き刺さる。

「理由なんてなくていい。そう、つまらない大人にはなりたくない・・・俺の衝動はそんな言い訳でもいいんじゃねえか」


シートを起こして、高速で突っ走るトラックの群れに合流する。

徐々に明けていく18号を北へ走る。途中から国道は、片側二車線の高架道路になる。

・・・昔の政治家の力のせいだろうか、長野県と新潟県は隣県であるが、交通網の整備のレベルは桁違いだ。地形の問題もあるのだろうが、まるで高速道路並みの快適さだ。

8号に入りしばらく走る。頭に刻んでいた地図を頼りに工業地帯を走り回る。暗い状態ではなかなか思うようには行かなかった。

同じところを堂々巡りして、やっと犬井商事と思われる建物を見つける。・・・決め手は建物前に停まっているガンメタリックのハイエースと、そのナンバーだ。

桜を乗せて走り去る時、辛うじて下二桁の「39」だけは憶えていた。

3階のビルは明かりもなくひっそりとしていた。「桜・・・無事なんだろうな」

辺りは白々と明けはじめていた。三羽は疲労と眠気で朦朧とする。「とりあえず仮眠しねえともたねえ・・・」

場所と建物を確認すると、すぐ近くにあった公園の駐車場にセリカを停める。

エンジンを切った途端、泥のような眠りに引きずり込まれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ