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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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途中からウトウトしていた桜は、ハイエースの揺れで目を覚ました。ガラスの向こうの薄闇にボンヤリと暗い海が見え、火力発電所の施設が見えた。

国道は大型トラックやトレーラーが、地響きを上げて疾走している。小型の乗用車はその群れに阻まれているようにも見える。

しばらく走り、鉄工所や製造工場が立ち並ぶ一角に、ハイエースが停車した。

3階建てのあまり特徴のないビル、事務所のように見えるが社名を記す看板などは見えない。

桜は、またヒゲの男に促されて建物に入る。薄闇だとなおさら落ち窪んだ眼窩のためか、表情が判らない。

会議室のような部屋に通される。テーブルは「ロ」の字に並んでいて、男たちは無言で席に着く。

桜は、入ってすぐの真ん中の席に座らされた。

向かいの席に年嵩の男、隣に黒い服を着た背の高い男。右側のテーブルにヒゲとマスクの男。

左側のテーブルには、運転していた若い男と、40ぐらいの痩せた小顔の女が無表情に座っている。


「まずは一同を紹介・・・まあお前の今後を考えれば必要のないことだが、一応しておこうか」

年嵩の男は周りをぐるりと見回し、最後に桜を見つめる。

「俺が井川貿易の営業部長・・・ということにしてるが、実質の経営者の内田だ。役員連中は無難な人間を集めて、飾り物みたいに据えているわけだが。無論、社長の井川もそうだ」

内田はシガリロに火を点けて、ガラスの灰皿を引き寄せる。

「そしてこの黒い服の男が、ここの経営者の犬井。表向きは輸入雑貨を取り扱ってることになっている」

犬井は微動だにせず、冷酷そうな眼をテーブルの上に注いでいる。

「お前から見て右側の2人は・・・そう、お前を連れ出した連中だから、良く判っているとは思うが。・・・実態は某国の工作員だ」

「左側の男は犬井商事の運転手、その女は犬井の秘書だ」


一同は銅像のように微動だにしない。空調の音がやたらと耳に響いてくる。

「さて、今日NG04、お前がここに来てもらった理由を説明しようか」内田はシガリロを丁寧に灰皿で揉み消す。

「・・・先月、警備員であるお前の父親が当直の夜、着替えを届けに来ていたお前の目の前で偶然にも、父親が刺し殺された」

・・・桜の全身がガタガタと震えだす、光景が甦ってきて頭を抱え込んだ。

「お前は何も知らないだろうがな、お前の父親は国内のとある秘密組織の人間だった。・・・スパイとして潜入してたわけだ」内田の唇は歪み、人差し指でテーブルをトントンと叩く。

「・・・そして井川貿易と犬井商事が、某国の組織と秘密の取引をしていることを、嗅ぎつけてしまったわけだ」

桜の脳裏にうつ伏せで倒れていく父親の姿が甦る。加害者はちょうど死角になっていたため、見えなかった。・・・スローモーションのように倒れていく姿。

「我々からは、兵器転用出来る電子部品や光学機器、・・・まあもっといろいろあるが、某国側からは純度の高い覚せい剤や脱法ハーブ、某国内で製造された密造銃などの秘密取引だ」

「それを知ってしまったがために、我々と某国首脳は、秘密機関への見せしめのために殺し、わざわざ報道させたわけだ。・・・もっとも犯人は挙がるはずもないがな」

内田はあざ笑うように桜を見る。桜は顔を上げ憎悪に燃えた瞳で内田を睨む。


「さあ、そして今後のことだが、近日中に某国の機関の人間がやってくる。・・・お前はその者たちと一緒に、その国へ渡ってもらう。・・・そして某国の工作員に日本語や日本の習慣を教える仕事をしてもらう」

桜は内田を見据えたまま動かない。

「お前は今、ショック状態で口を利けないようだが、向こうの連中はその辺については、最先端の技術を持ってるらしいから問題ないだろう」


その場は解散となり、桜は犬井の秘書だという女に促されて個室に向かう。細く長い指で「あなたの部屋はここだから」と案内される。

踵を返して去っていくヒールの音が廊下に響く。


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