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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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深夜、唐沢と三羽は、アッシュトレイズローズの真っ暗な急階段を上がっていく。

営業日でさえ暗い階段だが、定休日の今夜は電灯をつけてないから闇に近い。壁を手探りで上がっていく。

重いドアを開けると、空っぽのホールの真ん中に、コーヒー豆の樽をテーブルにして千夏と紗希が座っていた。

唐沢はホールの隅に積んであるスツールを引き寄せ、三羽とともに座る。

楽屋口のドアが開き、須川が人数分のコーヒーをトレイに載せて運んできた。

「コウヤとタケルくんが見たのは、本当に桜ちゃんだったの?」電話で大まかな様子を聞いていた千夏は、そう切り出した。

「間違いねえよ、あれは絶対に桜だよ。なあ?」三羽が答えて、唐沢に視線を移した。

「俺は桜に一度しか会ったことねえけど、あれは桜に間違いねえと思うよ」唐沢はコーヒーをすすりながら、セブンスターに火を点ける。

「それに黒服野郎もいやがったしな」三羽は悔しそうに、指をポキポキ鳴らした。


「・・・そうそう、これこれ!」紗希がメモ用紙を樽の上に置く。雑貨屋の女店主が書いてくれたメモだ。

『新潟県 上越市 下×× 3××』

須川が奥からドライブマップを持ってきた。『長野~新潟版』と書いてある。

樽のテーブルの上に拡げて、一同で覗き込む。


長野から行けば18号をずっと北上して、上越市内で8号に交差する信号を右折する。・・・右折しないで直進すれば、直江津港の埠頭はすぐそこだ。

右折して8号をしばらく走ると、工業団地地帯になる。犬井商事はその一角にあるらしい。もう少し走ると海水浴場や温泉などもある。

「ここが黒服の犬井が社長をやってる会社ってわけだな」唐沢が千夏と紗希を交互に見る。

「それも間違いないと思うよ、紗希の嗅覚と人物の印象に間違いなければ」千夏は紗希の方を向く。

「あの匂いには自信あるよ、それにあの体格とか服装とか」

「そうだよな、あの甘い匂いはあんまり嗅いだことのねえ、特殊な匂いだったしな」唐沢は一度目の襲撃のことを思いだした。執拗に蹴りつけてくる長い脚・・・。

一同はしばらくの間、黙り込んでコーヒーをすすっていた。


「で、ひとつ疑問に思うことがあるんだが・・・そもそも桜は無理やり連れて行かれたのか、それとも同意の上でついて行ったのか」唐沢が呟いた。

すると、それまでうつむき加減だった三羽が、急に顔を上げて唐沢を睨んだ。

「そんなもん、無理に連れて行かれたって決まってんじゃねえか!」三羽の声に、一同は静まり返る。

「タケル、まあそんなに興奮するなよ」須川が三羽の肩を叩く、じきに三羽の興奮も収まる。

「コウヤごめん、怒鳴っちまって。・・・桜が俺の部屋から消えちまった日、部屋ん中も靴もちらかっててさ。ゴミ箱も倒れてた。洗濯物もそのまま。・・・で、『タケルくん ありがとう 忘れない』って走り書きもあってさ。・・・俺、あいつと過ごしたのほんの数日だったけど、消え方があいつらしくねえというかさ。ひとりでコンビニにも行けねえあいつがさ」

また沈黙の空気が漂った。


「で、これからどうするか、本当に・・・」唐沢が肩を落して呟いた。

結局、明日の仕事が終わってから、三羽・唐沢・千夏の3人で、上越の犬井商事まで偵察に行くことに決めて解散した。

三羽は唐沢のボロで送ってもらう。

「コウヤごめんな、お前にはさんざんつきあってもらってんのにさ、怒鳴っちまって」

「いいさ、気にすんなよ。俺だって千夏のヤツが・・・あんなうるせえ生意気なヤツでも、いなくなっちまえばお前と同じになると思うぜ」

三羽のアパートに着く、深夜なので控えめにクラクションを鳴らして、ボロは去っていった。

三羽は部屋に戻ると、押入れの箱の中からフォールディングナイフを取り出した。折りたたみ式のナイフの刃を起こす。

昔、少しだけ凝って集めたが、生活が困窮した時に売っぱらってしまったナイフ。だが、お気に入りのコイツだけは手放さず残しておいたのだ。

・・・鈍く冷たく光る刃を見つめる、手の甲を滑らせるとヒンヤリした。・・・腹は決まった。

財布に桜が書き残したメモを、たたんでしまう。黒いリーボックのハイカットの紐をきつめに締める。

―――深夜4時、三羽はセリカのスターターを回した。


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