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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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・・・部屋の外からのみ施錠できるドア、嵌め殺しの厚いガラス窓のすぐ向こうは白い壁、ベッドと簡易テーブル、ユニットバス。

食事と着替えは、無愛想な老婆が無言で運んでくる。まるで拉致された者専用の宿舎のようだ。

・・・桜が三羽の部屋から連れ出されてから、4日が経った。


―――4日前の夕方。

階段を駆け上がってくる足音、部屋の外廊下を近づく足音、そしてドアの鍵穴に何かが挿し込まれる金属音がする。

ガチャガチャと引っ掻き回す音がして、内側のノブが左右に回転する。

桜は恐怖で立ちすくんだまま、身動きができなくなる。キョロキョロと周囲を見回すが、アパートの2階の部屋から逃げ出せる非常口などはありはしない。

・・・不意に三羽の顔が脳裏をかすめる。桜はテーブル上のタウン情報誌の下にあった広告を引き抜き、あわててボールペンでなぐり書きをした。

ドアがガチャリと開き、黒いキャップをかぶった2人の男が部屋に入ってくる。

ひとりは口ヒゲをはやしている男、もうひとりはマスクをしている。ヒゲの男が「ついてきてもらう」とだけ呟き、黒革の手袋の手を伸ばしてくる。

桜は後ずさりして逃げようとしたが、すぐに腕を掴まれ引っぱられていく。桜の抵抗の力は相手には微塵も影響せず、グイグイと部屋の外へと進んでいく。

(・・・タケルくん!)桜の足がゴミ箱に当たり倒れた。ヒゲの男は構わずに開けたままの玄関を出る。

裸足のまま連れ出された桜のあとを、マスクの男が無言でついてくる。

アパートの前にガンメタリックのハイエースが、エンジンをかけたまま停車している。桜は開いているスライドドアから無理やり押し込まれた。

マスクの男が足元に、桜のスニーカーを放り投げる。

ヒゲの男が唇をゆがめて、桜の口元にハンカチを押し付けてきた。嫌な臭いに頭を振った時、記憶が途絶える―――。


・・・拉致部屋のドアが開錠する音がした、カーテンのすき間から覗く空は暗い。

ダークスーツを着た男が無表情に入ってくる。・・・4日前、桜を連れ出したヒゲの男だ。

男はまだ若そうだが、額はだいぶ後退している。頬骨とエラの骨が張り、落ち窪んだ眼が影になっている。

「NG04、部屋を出ろ」抑揚のない声で、いくらか妙なイントネーションだ。

(エヌジーゼロヨン・・・)桜はなんのことか理解できず、その場に突っ立ったままでいる。

「・・・NG04とは、お前の管理番号だ。覚えておけ」落ち窪んだ眼が、早く部屋を出ろとばかりに見つめてきた。

桜はヒゲの男とともに、部屋を出る。長い廊下を歩く。壁はコンクリートのグレーがむき出しで、窓は少ない。

つきあたりを右に曲がり、また少し歩くと玄関らしき場所が見えた。

手前はロビーのようになっていて、ソファーがいくつか並び3人の男が座っていた。広い玄関には若い男が立っている。

桜とヒゲの男が到着すると、3人は無言で立ち上がり順次玄関から出て行った。

玄関には桜のスニーカーもそろえてあり、ヒゲともうひとりの男に促されて外に出る。

・・・夜風が少し寒かった、久しぶりに屋外の匂いを嗅いだ。三羽の部屋の窓を開けて干した布団を取り込んだ時の匂いがした。

(・・・洗濯物)出しっぱなしで連れ去られたことに気づき、少し心が痛んだ。

道路の向こうにハイエースが停まっている。男たちが乗り込んでいくのが見える。車内に入るのをためらっていると、後ろから押された。

一番後ろの席に押し込まれて座ると、隣にハイエースの天井に頭がつきそうなぐらい背の高い男が、脚を組んで座っている。

運転手らしき若い男がスライドドアを閉める寸前、車の後方から人の声が聞こえた。振り向くとバックドアの暗いガラス越しに、争っているような人影がふたつ。

(・・・タケルくん!)三羽ともうひとりは、一度アパートに来た三羽の友達の唐沢だった。

シートの背もたれを掴んで身を乗り出していると、隣の背の高い男が気づき振り返る。細めのタバコの煙とともに「ふん」と吐き出した。


ハイエースは動き出し、路上の三羽と唐沢の姿はみるみる遠くなっていった。


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