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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽は部屋に戻り、黒いジーンズ、黒のパーカーに黒のMA-1を着て、唐沢がやって来るのを待つ。

タンスの引き出しから、桜が書き残した短文のメッセージを取り出して眺める。夕べは気を失ってる時間以外は眠ってないが、とてもじゃないが眠る気にはならない。

唐沢は電話で「タケルのセリカは目立つから、俺の仕事のボロで行こう」と言った。やがてアパートの外で安っぽいクラクションが鳴ったので、部屋を出る。

唐沢はボロバンのドアの会社名の部分を、白いガムテープで覆ってあった。示し合わせたわけでもないのに、唐沢も黒いジャンパーにジーンズを履いている。

・・・唐沢が大原から聞き出した内田の現住まいは、この街でというより全国的にも名の知れた、大きな寺の裏手にある町だ。

分厚い住宅地図のその区画には、家主の名前は明記されていないが、広い敷地だというのが地図上でも解る。


今日は三羽が地図を見ながらナビをして、わずか15分足らずで内田邸付近に到着する。

ボロバンをゆっくり走らせると、それらしい建物はすぐに判った。

大原が言っていた通り、2m以上の高さの白い擁壁を全周に囲ったバカでかい家。300坪はありそうな敷地だ。

見上げるとRC造りの平らな屋根が見える。鉄平石を奢った豪華な門柱のそばまで来ると、監視カメラのレンズがこっちを睨んでいたので、スピードを上げて通過する。

「すげえ豪邸じゃねえか、たかが営業部長ごときの住む家じゃねえぜ、あれは」通り過ぎた先の交差点でUターンしながら、唐沢が言う。

「まったくだな、ただの一会社員が普通に仕事してるだけじゃ、あんな家に住めるはずがねえ・・・その上、地下室つきの別宅も建てるとはな」三羽は住宅地図をパタンと閉じて、後ろの席に放った。

内田邸の門柱が見えるはす向かいの路上に、駐車してる車が2台あったので、そのすぐ後ろにボロを停める。



千夏と紗希が連れ立って、中央通りを北に向かって歩いている。

半年前の千夏の誕生日に、紗希がお祝いとして食事を奢ったお返しだが、誕生日当日の昨日は、須川と一緒だったので今日になった。

「しかしさー、リョウちゃんはエライよねー。バースデイパーティーにホテルに一泊。・・・紗希は大事にされてるよねー。いいなー」

「うん、リョウタ優しいから。・・・これもね」紗希は左手中指のスカルリングを、千夏に見せびらかす。

「ちょっと、なにそれ!のろけてんの?ムカつくー。・・・それにひきかえウチのコウヤときたら、『今日、誕生日』って言ったら、『ふうん、それで?』だよ!」

目指すイタリアンレストランが見えてきた。

「紗希はなに食べる?前にご馳走してもらったから、遠慮なく・・・」

雑貨屋の前を通り過ぎようとした時、突然紗希が足を止めた。

「あれ?紗希、どうしたの?」千夏は振り返って聞いたが、紗希は怪訝な顔をしている。

雑貨屋の外の棚に香炉が置いてあり、そこから甘い香りが立ち上っている。

「この香り、昨日の黒い服の人と同じ匂い・・・」

「え?黒い服の人って?」

「前に、コウヤくんを痛めつけた相手・・・」

それを聞いた千夏の目の色が、みるみる変わってくる。・・・口ではいろいろ言っているが、唐沢を大事に思っているのだ。


『Jasmine Fragrance』と書かれた店のドアを開けて、2人で入っていく。

「いらっしゃいませー」店主らしき女性が棚の商品を並べながら、愛想のいい笑顔で振り向く。ストレートの茶髪にジャスミンの髪飾りをつけている。

「あの、お店の外で匂ってる香りって、お香ですよねー?」千夏が聞く。

「いい香りでしょ?あのお香は、ちょっと珍しい品物なんですよ」店主が棚から離れて、2人のそばに来る。

「あんまり嗅いだことない甘い香りですよね」紗希は店内を見回しながら聞く。

「そう!この辺では犬井商事って会社しか取り扱ってないんですよ。それで月に何度か直接届けてもらってるの」

「犬井商事・・・あの、もしかしてその会社の人、すごく背の高い人じゃないですか?」紗希は不審に思われないか心配しながら聞いた。

「ああ、社長の犬井さんね。そうね、背が高くて痩せてるわねー」

「あの、もしよろしければ、その犬井商事の住所とか教えていただけませんか?」店主があっけらかんとしているので、思い切って聞いてみた。

「ああ、いいですよ。ちょっと待っててね」

店主は奥へ行き「住所録、住所録」と言いながら、レジの周りの書類棚を探す。そのうちに積まれている小間物を派手にぶちまけた。

2人がいくらか呆れていると、店主はまったく気にした風もなく「あった、あった」と言いながら、犬井商事の住所をメモしてくれた。



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