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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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「うぅ、さびい・・・」三羽は寒さで目を醒ました。右目だけを開けて周囲を見回す。

薄明るくなっていたが、束の間ここがどこなのか判らなかった。

上体を起こす、途端に激しい頭痛に襲われる。

「痛ててて・・・」頭を押さえて、あらためて周りを見ると、そばに唐沢がうつ伏せで倒れていた。

「コウヤ!コウヤ!」大声を出すとまた頭痛が走る。

唐沢は三羽の呼びかけに反応し、「うぅ・・うぅ・・・」と呻きながら仰向けにひっくり返った。

「だめだ、寝てると吐きそうだ、頭痛えし・・・」唐沢はようやく上体を起こし、ポケットから携帯を取り出す。「・・・4時半か」

2人して路上にあぐらをかいたまま、タバコに火を点ける。ため息とともに煙を吐き出す。

「俺、あいつにやられたんかや」三羽はこめかみをさすって呟いた。

「・・・秒殺だった、お前も俺も。タケルは回し蹴りで吹っ飛んで、俺は拳をふたつ喰らったと思う」

「あんな殺人マシーンみてえなヤツ、はじめて見たよ」

「超能力みてえなのも使いやがったしな」

それから2人は、何も話さずに小路を出て、駅前に停めたセリカまでよろよろ歩く。たかが500mの距離が途方もなく遠く感じた。

やっと辿りつき乗り込むと、三羽はアクセルをポンポンと踏んでから、チョークレバーを引き、スターターを回す。

マフラーから白い煙が噴出しているのが、フェンダーミラーに映る。

エンジンが温まるまで、タバコの煙を吐き出す。アイドリングはまだ不安定だ。

「コウヤ、今日仕事だろ?家まで送るよ」

「ああ悪いな、けど仕事になるかどうか」

それっきり黙ったまま、唐沢の自宅まで走り、自分のアパートに戻ってきた。新聞配達のカブがパタパタと走ってきて、忙しそうにポストに突っ込んでいる。

寒々とした部屋で仕事着に着替えていると、部屋の隅のカラーボックスの上に、広告のチラシの切れ端が載っていた。何気なくつまみ上げると、チラシの裏になんか書いてあった。

『 タケルくん ありがとう 忘れない  美樹 』

多分、黒服か誰かの到来の直前、急いで書いたのだろう。

・・・三羽は胸がつかえて、チラシの字がぼやけてきた。涙がポロポロと溢れてくる。部屋の隅に突っ立ったまんま、しばらく泣いた。

三羽は黒服に一矢報いることなく、簡単にぶちのめされた不甲斐なさが、たまらなく悔しかった。

呼吸を整えると、チラシをタンスの引き出しにしまい、部屋を出る。


三羽が向かった現場は、市街地の一角の基礎工事の現場だった。今日が初日らしく、工事用のフェンスの中は空っぽだった。

顔なじみの現場代理人が到着して、今日の搬入予定を説明したが、三羽の心は虚ろでうわの空だった。

「・・・それで10時に鋼材のトレーラーが来るからね。・・・ちょっと三羽ちゃん、聞いてる?」

「あ、すんません。10時にトレーラーっすね」三羽が復唱する。

7時半に杭打機を載せたトレーラーが、2台到着する。狭いゲートの中に、笛を吹いて誘導する。

杭打機が自走でトレーラーを降りると、また誘導して現場から搬出する。もう出勤の車が繰り出してる時間だ。

8時ちょっと前に、杭打ち相番のラフタークレーンが到着する。

「よう、三羽ちゃんじゃん。ご無沙汰だね」オペレーターが窓から顔を出す。

8時にラジオ体操をやり、朝礼がはじまる。元請けの監督が「本日の作業内容、安全注意事項、出面の報告をお願いします」

各業者が順々に報告しているが、三羽の耳には届いていない。

「ワールド警備さん、・・・ワールド警備さん!」三羽は、はっとなる。

「あ、はい、すんません」

・・・慌しい1日がはじまる、交通量の多い国道と近接している上に、ビジネス街だから歩行者も多い。ひっきりなしに通過する車、横断する人、大きな病院も近いので救急車の往来も頻繁。

緊張が強いられる中、10時と3時の休憩もなしで、目まぐるしい1日がやっと終わる。三羽は首をポキポキ鳴らしてやっとタバコに火を点けた。

クレーンが回送するため、オペレーターが声を掛けてきた。

「お疲れさんー、今日は搬入多くて大変だったな。やっぱ初日はガードマン2人いた方がいいよなー。」オペは一緒になってタバコに火を点けた。

「そうっすね、こんなに交通激しいと車と歩行者、一度に見れないっすよ」

「・・・でも、今日の三羽ちゃん、普通じゃなかったぜ。なんかあったんかい?」赤いバケツの灰皿に、タバコを放り込む。

「・・・いや、別に。なんもないっすよ」近くの高層ホテルの16階のスカイラウンジの窓に、夕日の赤が反射している。

「そうかー、ならいいけど。・・・じゃまたよろしく!」

オペがクレーンに乗り込んだので、三羽は誘導灯を発光させて笛を吹く。

鈍重な車体が夕闇の街に紛れていく。

代理人に日報のサインをもらい、歩き出すとBlackBirdが鳴った。



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