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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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唐沢と三羽は駆け出し、小路の入り口を左に曲がる。

・・・黒服は小路の先10mぐらいの真ん中に、向こうを向いて立ち止まっていた。2人は足を止める。

「地下街を出た時から、貴様らが尾行けてたのはわかってたんだぜ」黒服は低く落ち着いた声でそう言うと、ゆっくりと振り返る。

垂らした長い前髪の奥に、冷酷に光る細い眼が2人を睨みつけてくる。薄ら笑いを浮かべた薄い唇にJOKERのような細いタバコをくわえて。

体ごとこちらに向け、「俺は殺気には敏感でな。・・・それからな、こういうことも出来る」そう言って黙り込む。

突然、唐沢が強い頭痛に襲われる「痛え!なんだこれは、急に頭が痛くなってきやがった」両手で頭を押さえる。

次に三羽も同じ症状を顕した「痛え!この野郎はエスパーか!」頭痛は、こめかみを針金で締め上げるように激しい。

「ふん、それで貴様らは俺に何の用だ」・・・2人の頭痛の波は、急に去っていく。

「こないだのお礼をしに来たのさ!」唐沢が一歩踏み出す。

「桜を連れてったのはお前だろ!返しやがれ!」三羽は叫ぶと、黒服に飛びかかって行った。・・・黒服は「ふん」と鼻で笑う。

踏み込んだ三羽の目の前すれすれに、黒服の右足が掠める、ブンと空を切る音とともに。

その隙をついて、握った拳とともに黒服の懐に飛び込むと、高い位置からのストレートが叩き落されてくる。まるで大ハンマーの一撃が空から降ってくるように。三羽は寸前でのけ反り、黒服の拳をかわす。

が、今度はヤツの左足が水平に飛んできた、それは三羽のこめかみに、高速で衝突した。三羽は声も上げずに真横に吹っ飛び、地面に叩きつけられた。

「この野郎がー!」唐沢が怒鳴りながら飛びついていく。

黒服は細身のタバコを吹き飛ばし、唐沢の突進をフラリとかわす。

・・・三羽は倒れたまま、意識を失ってるように微動だにしない。

唐沢が踵を返そうとした時、腹に強い衝撃を受けた。・・・息が出来なくなる。黒服の長いリーチが、唐沢の腹にめり込んでいる。そして後頭部にハンマーのような右拳が振り下ろされた。

唐沢は路面に顔から叩きつけられ、意識が遠のいていく・・・



「わー、遠くまで良く見えるー!夜景がキレイだね」紗希は南面の窓から見える市街地の夜景を、楽しんでいる。

ここはホテル15階のダブルルーム。

「金曜か土曜の夜なら、もっとキレイだろうな」須川は上着を脱いで、ソファーに腰を下ろす。

スカイラウンジのバーは、とっくに終わってるだろうと思って、途中のコンビニで買ってきたジャックの栓を開け、2個のグラスに少しずつ注ぐが、もうあまり飲む気はしなかった。

紗希が並んでソファーに腰を下ろす。「リョウタ、ありがとう。私幸せだよ」そう言うと、紗希の目には少しだけ涙が溜まっていた。

須川は黙って、紗希を包み込むように抱きしめる。

「大げさだよ、紗希・・・でも今の俺に出来ることは、これぐらい」

紗希が涙を拭いながら、顔を上げる。須川はその顔に黙ってキスをする。

・・・紗希の家庭の事情は複雑で、幼い頃から父母の実家を行ったり来たりしていた。親戚に預けられていたこともあった。

バースデイケーキに火を灯し、『ハッピバースデイ・トゥーユー』を歌いながら祝ってもらった記憶は、一度もなかった。

「リョウタ、愛してる。これからもずっとね」


紗希がシャワーに行ってる間、須川は窓際に立ち、じっと夜景を眺めている。

「紗希は俺を愛してくれている、俺も紗希を愛している。つきあって3年経つが、気持ちは少しも変わらない。むしろ日に日に強くなって、今はいつも一緒にいたいと思う。そろそろ結婚を考えた方がいいのかな。・・・でも俺はずっと半人前で、金もない。あいつを幸せにする自信もない・・・」

窓際に持っていったガラスの灰皿で、KOOLを消すと、紗希がバスルームから出てきた。

「ここのバスルーム、すごい広くて豪華なんだよ。早く浴びてきなよ」

ホテルのパジャマを着ている紗希は、子供みたいに見えた。

須川はシャワーを浴びてバスルームから出てくると、グラスのジャックをひと息に呷る。

そして紗希ともつれあいながら、ベッドに倒れこむ。

深いキスをして、パジャマを脱ぎ捨て、紗希のパジャマも脱がす。2人とも全裸だ。

「リョウタ、淋しそうな目をしてるね。・・・将来のことなんか考えないで。・・・私はこうしてリョウタと愛し合ってるだけで嬉しいんだよ。幸せなんだよ」

須川は心を見透かされてることに気付く、そして吹っ切れた。

(・・・俺は俺で、これからも精一杯に紗希を愛していこう、今はそれしか考えられない)

紗希はいつもより激しく身体を開き、よじり、声を荒げる。

須川は心に踏ん切りがついたのか、獰猛に紗希の身体中を攻める。

そして紗希の中に深く埋没し、両腕で抱きしめたまま、激しく貫く。

獣になった2人は、お互いを貪りあい、長い時間をかけてようやく果てた。



3:00

須川は15階のベッドで、唐沢と三羽はゴミが散らかる小路の路上に、ぶっ倒れていた。


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