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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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22:00


須川はsunday gigのメニューが終わると、片づけを白井に押し付けてそそくさと帰り支度を整える。

「白井さん、すんません!今日だけはちょっと特別な日なんで」須川は目の前に掌を合わせる。

「いいさー、気にすんなよ。それより早く行ってやんな!」白井はくわえガラムで、マイクケーブルを巻いている。

「すんません、お疲れさまでしたー」須川は暗い急階段を駆け下り、足早に駅前方面に向かう。


日曜の夜は昨夜と打って変わって静かなものだ、明日からの平日に備えて街までも眠ってしまっているようだ。

・・・地下街へ降り二つ目のドアを押す、木製の重いドアの向こうにはまるで西部劇に出てくるような、腰上から首下までの開き戸がついている。

『AmericanBar 砦』

枯れた木材を張った床と壁、天井近くには鹿の頭部の剥製や革製のテンガロンハットが、いくつもぶらさがっていた。

「やっと来たかー、色男め」カウンターの向こうには縁の擦り切れたテンガロンに、スウェードのベストを着たマスターが、掠れ声で笑っている。

厚い無垢のカウンターボードの左隅に座っていた紗希も、振り返って微笑む。片手にグラスを掲げて。


「あれれ?紗希はもうやってるの?」須川は革のハーフコートを背もたれに掛けて、隣のスツールに腰掛ける。

「はいよー、リョウタ」マスターの通称ashが、ロックのジャックをゴトンと置いた。

「バースデイの乾杯前にやっちゃってんのかよ」

「乾杯はさっきアッシュさんとやっちゃったよ」紗希は空になったグラスの氷を鳴らす。

あらためて須川と紗希とアッシュで、紗希のバースデイの乾杯をやり直した。


アッシュが手を掛けた珍味が次々に出され、カウンターの上は「ささやか」ではなくなっている。

須川と紗希は瞬く間に、三分の一残っていたジャックのボトルを空けた。

「今日はリョウタも紗希ちゃんも、いい飲みっぷりだねー」アッシュはいくらか呆れ顔で、新しいボトルを封切る。


砦でささやかなバースデイパーティーをやるのは、今日で3回目だ。

「このパーティーが来年も再来年も、永遠に続きますように・・・」紗希はくわえタバコの須川の横顔を眺めながら思った。

「来年はどんなプレゼントを用意しようかな」須川は紅潮した紗希の横顔を眺めながら、ポケットを探る。

「・・・はい、これ」須川は紗希の左手を取り、中指にシルバーリングをはめてやる。

リングはストーンズのキース・リチャーズのシンボルにもなっている「スカル」のデザインだった。

「誕生日にドクロのリング?」紗希はリングを光にかざして笑っている。

「金沢のブライアンに作ってもらったんだよ、どんなデザインがいいかやって聞いたら『わしが思うに縁起悪いもんの方が長続きするんや』って言うからさ」

「ブライアンらしいね、ありがとう。大切にするね」紗希はアッシュに手の甲を見せて満足げだ。


紗希がトイレに立って行った。

「アッシュさん、たまにはライブやりましょうよ」須川はジャックを一息に空けると、カウンターにゴトンと置く。

ロックアイスとジャックを注ぐと、グラスを磨きはじめながら「最近のヤツらの音楽はよくわからねえからなー、ジョイントしても話が合わねえしな」

アッシュは磨いたグラスを光にかざしながら言った。

「闇夜鴉さんは今でも飲んだくれながらやってますよ」

「なんだ、ムラとテツは今もやってるんか。あの下品なチンピラども」アッシュは懐かしげにマルボロの煙を吹き上げる。

「やってますよー、白井さんなんて大喜びして笑ってますよ。高校の同級生らしいっすね」


紗希が不審げな顔をしてトイレから戻ってきた。

スツールに腰を下ろすと、奥のボックスの方を眺めている。

「紗希、どうしたの?」須川はアッシュが作った水割りを紗希の前に差し出す。

「あの奥に座ってるお客さん・・・」


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