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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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一瞬、畳敷きの小部屋は沈黙する。三羽の空グラスの氷がカラリと鳴った。

「お前、どういうことだよ?・・・いつからいねえんだよ?」須川と唐沢は同時に口を開く。

「・・・おとといガレージでリハやっただろ?・・・あれでコウヤに送ってもらって帰ってみたらいなかった」三羽は頬杖を突いたまま、空のグラスに話しかけるように呟いた。

また沈黙が訪れた個室は、天井あたりが白く煙っている。

「・・・桜ちゃん、自分で出てったの?なんかメモとか書き置きみたいなのとかなかったの?」千夏はテーブルに手を付いて、身を乗り出すように聞く。

「メモやなんかはなかったな。ただ部屋ん中がさ・・・」三羽はその時の状況を、一同に細かく説明した。

「俺をぶちのめしたノッポ野郎が関係してんのかなー」唐沢は天井を見上げて煙を吹き上げる。

三羽は不意にさっきのローズにいた男のことを思い出して、全員に聞いた。

「俺等ん時にカウンターの角にいた男のこと知らねえかな?すげえ目つきの鋭い男だったんだけど」

須川は唐沢と、千夏は紗希と顔を見合わせていたが、誰も記憶になかった。

三羽は愕然となる。「リョウタとコウヤは俺より客に近えのに憶えてねえんか」

・・・だが、あの男の滞在時間は短かったのかも知れない。次に見た時にカウンターの角にいたのはガレージのオーナーだったのだから。


「あっ!そうだ、これこれ!」千夏は畳の上に置いたバッグから、二つに折った紙切れを出して三羽に渡した。

「桜ちゃんの・・・あ、正確にいうと名前違うんだけど、彼女の住所判ったんだよ」

そう言われると三羽はいくらかドキドキして、紙切れを広げる手が慎重になる。

『〇〇町△△ 396-55 西柳美樹』

(・・・ニシヤナギ ミキ。・・・ミキか。)若い女らしい水性ボールペンの文字が、そこにあった。

メモを書いたのは千夏か別の誰かか知らないが、三羽は桜が自分で書いたような錯覚に陥る。しばらくその紙切れから目を離すことが出来なかった。

『私を助けにきて』そう訴えているような気がして、胸が詰まる。

喉の奥に違和感を覚えて、そのまま眺めていたら涙が出てきそうだったから、あわてて紙を畳んだ。

「千夏、ありがとな」三羽はあくびをしてみせる。

「・・・桜は美しい樹でしょ?ある意味近いよね。ねえ、紗希」紗希は三羽の心情を悟っているかのように切なそうな表情で頷いた。


午前3時、須川と紗希、唐沢と千夏と三羽は手を振って逆方向に別れていく。

まだ春先だが、夜中でも上着がいらなくなるほど暖かくなっていることに気付く。

「・・・どうすんだ?タケル」しばらく歩いてから唐沢が聞いてきた。今夜は唐沢も三羽も、足取り・記憶ともしっかりしている。

「明日、行ってみようと思う。桜ってか美樹の家まで」舗道は三人の足音以外は聞こえず、通り過ぎるタクシーも代行もまばらだ。

いつも通りの分岐点で、いつも通りに手を振って唐沢と千夏に手を振って歩き出した三羽は、あの夜のことを思い起こしていた。

・・・あの小路まで差し掛かったところで立ち止まり、暗がりを見つめる。

ショートホープに火を点けて、いつもと変わらない小路の奥を眺めていると、腹の底に何かが沸々と湧き上がってくる。


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