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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽は雑踏のような騒ぎのホールの隅に突っ立って、さっきの男のことを思い出していた。

10mぐらい離れた薄暗がりだからはっきりとした容姿は判らないが、自分と同じかそれ以上の背丈だったと思う。・・・三羽鴉は偶然にも、全員174cmだ。

多分40は過ぎている感じで浅黒く隙のなさそうな痩せ顔、とにかく眼光が異常なほど鋭かった。まるで闇に潜んでいる獣を彷彿させるような、ただならぬ眼の力。

何事もなく普通に生活している中では、まず出会わない見かけない種類の「眼」だった。

その別世界の人間の強烈な視線が自分一点に注がれていたのだから、気にせずにはいられなかった。

何を着ていたかは判らないが、闇に溶け込むように佇んでいたから黒っぽい服装だったのかも知れない。

(ヤクザ者のようにも見えるがどこか違う気がする・・・。)そしてあくまで勘だが、桜と何らかの関わりがあるような気がした。



・・・三羽は四方から肩を叩かれる、「おめえ、やるじゃねえかー!」「次のライブ決まってんの?」「今度、俺等とジョイントしてくんねえ?」「・・・ファンになりました、握手してください」

話しかけてくる相手と言葉を交わしたり握手したり、携帯やデジカメの画像に収まったり。妙な気分のひと時を過ごす。

男のことは気に掛かるが、目の前で多くのオーディエンスに誉められて、ようやく復活ライブの成功を実感して嬉しくなった。



須川・唐沢・三羽そして千夏と紗希は、ローズの近くの居酒屋でささやかな打ち上げをはじめる。

土曜の夜だから安酒場は相変わらず騒々しかったが、千夏が気を利かせて個室を予約してあったので、一同はくつろぎながら酒を楽しむ。

・・・宴の席はライブの成功の高揚感を伴って、様々な話題で盛り上がる。

席を仕切るのはやはり姉御肌というか、親分肌の千夏。

まるで千夏の女房のように、周囲に細々と気を配るのは紗希。

嗄れ果てたガラガラ声で大笑いしながら、酔って同じ話ばかりしてる須川はバンドのリーダーとして心から達成感に浸っているようだ。

人を笑わすのが上手で人知れず周囲に気を使う唐沢は、千夏とのやり取りのリアクションで場を一層盛り上げる。

いつもは一番飲んで酔ってヘタすると他の客とケンカを始める三羽だが、今夜はいくらかおとなしく飲んでいる。

「あれれ?タケル、勢いねえじゃん」須川は笑いながら言ったが、もう呂律が回っていない。

「タケルは桜が待ってる家に早く帰りてえんさ、な!」唐沢はそう言って千夏の方を見る。

千夏は(・・・からかうんじゃないよ。)と、空中で唐沢を小突く仕草をする。


三羽は千夏に笑いかけようとしたが、ひきつったような苦笑いにしかならなかった。

左手で頬杖をついたまま、空のグラスをカタンと鳴らしてテーブルに置く。

「・・・それがさ、もういねえんだよ。・・・いなくなっちまったんだよ」


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