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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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SEのフェイドアウトとともにホールの客電が消え、ステージのライトも落ちて、ハコの中は一瞬の暗闇と静寂状態に包まれる。

三羽がスティックでカウントを取り、スネアを一発入れる。「カッカッカッ・ド・タン!」

須川と唐沢がユニゾンでリフを入れる、『Cross Roads/Cream』

ステージが透明のライトに照らし出される、自信満々の薄ら笑いでオーディエンスを見据えながらイントロリフを弾く須川。

吸いかけのセブンスターをヘッドの4弦に挟み、ブリブリの太い音でうねりを生み出している唐沢。

二人を交互に眺めながら、思い切りリムショットで強力なビートを叩き出す三羽。

ホールはすでに波立ち、各々が三羽鴉のグルーブを楽しんでいる。

「I went down to the cross roads,fell down on my knees・・・」

須川の声は図太く嗄れ、ヴィンテージのストラトの音色に良く似合っている。

ワウを踏みながら延々と繰り返す須川のソロに、唐沢のリフが絡みつき、客を一層煽動させる。

8分のオープニング曲が終わると、「Hello!三羽鴉です。」

それだけの挨拶でカッティングがはじまる、『All day and all of the night/The Kinks』

三羽鴉が結成した頃からやっている曲で、中間で三羽のドラムソロが入る。

オリジナルは3分ぐらいの曲だが、三羽鴉バージョンは倍の6分。

間髪入れずに次曲のビートを畳み掛ける『I Can't Explain/The Who』

須川のリードボーカルに、唐沢・三羽が合いの手のようなサブボーカルが入る。

バンドもオーディエンスも、もはや汗だくだ。


「・・・5年ぶりに今夜、三羽鴉復活です。多くのオーディエンスが最後まで残ってくれて感謝です」須川のMCに歓声と拍手が飛んだ。

唐沢はカップのアルコールを飲み干すと、ベースをチューニングする。

三羽はシンバルスタンドに掛けたタオルで顔を拭いながら、薄暗いホールを眺める。

・・・右から左に一巡した時、何か心に引っ掛かってくる奇妙な視線を感じる。

ライドシンバルの上の空間の向こう、カウンターの角にいる男の視線が、真っ直ぐに自分に向いているのを感じる。

それはローズで音楽を楽しむためにやって来た人間の眼差しではない。

明らかに異質な視線であり、なにか思惑を感じる「射抜く」ような鋭さがピリピリと伝わる。

三羽がその男を凝視しようとした瞬間、「それじゃ最後の曲になります、今夜はありがとう!」須川の声とともにホールは暗がりに戻る。

『Communication Breakdown/Led Zeppelin』

バンドとしては久々にカバーした曲だが、それが返って新鮮に感じる。

須川と唐沢は目の前のオーディエンスとともに、恍惚の境地に達しているが、三羽だけはさっきの男の視線が気になり、淡々と叩き続けた。

(・・・これで客電が点いたら、ヤツの正体を確かめよう。)

予定以上に最後のソロが長くなった、須川と唐沢から飛んでくるアイコンタクトで承知した三羽は、二人がOK出すまで叩き続ける。

ようやくラストのフィルを入れて、唐沢のジャンプとともに締めくくった。


客電が灯ると三羽は立ち上がって、さっきの男を目で探す・・・。

さっき男が立っていたカウンターの角には、オールドガレージのオーナーが立っていて、満足そうにカップのアルコールを舐めていた。

三羽はすぐにステージを下りたかったが、ホールはアンコールが響いていてステージでは須川と唐沢がなにやら合図をしてくる。

(・・・Summertime BluesのWhoバージョン。)

三羽は了解してカウントを入れる。バンドとしては最高の復活ステージとなった。


曲が終わると三羽は、一目散にステージを下りて男を捜す。やはりどこにもいなかった。

「タケル、やったじゃねえか!大成功の復活だぜ!」カウンターの角のオーナーに声を掛けられ肩を叩かれる。

「あ、ありがとうございます。・・・ヨシトモさん、さっきここに立ってた人知ってます?」三羽はあたりを見回しながら聞いた。

「え?見てなかったなー、お前の知り合い?」オーナーは上機嫌に出来上がっている。

「いや、そうじゃないんですけど」

三羽はホールの中のすべての人間を観察したが、あの男はいなかった。


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