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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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ギタリストはES-335を持ち上げアタマの後ろへ回し、狭いステージを踊りながらギターソロを弾いている。

唐沢と三羽がそれに見とれていると、「そろそろ上がろうぜ」須川が声をかけた。

振り向くと須川の隣に見慣れない娘が立っていて、ドリンクを作っている。

「この娘もバンドやってんだよ、また見てやってくれな」須川はそういうと娘の肩を軽く叩いて、楽屋につながるドアの向こうへ消えた。

二人は満員状態の人の隙間を縫って、須川のあとに続いた。


5年前もそうだったが、本番前の三人は極端に無口で静かになる。

無言のまま須川はサンバーストのストラトを、唐沢はEB-3のコンディションを確認しながら、指板潤滑スプレーをかけてクロスで拭きあげる。

三羽は同じ銘柄のスティックを5セット、つまり10本を順々に振ってみて、しっくり来る4本を選び出す。

「あ、そうだ」唐沢は思い出したようにシャツを脱いで、素肌に巻いたサラシのような布をキツく巻きなおした。

「これ緩んでるとアバラがまだ痛くてな」


「・・・ほ」須川が今夜のセットリストを書いたB5の紙を、二人に手渡す。

階下ではバンドの重低音とオーディエンスの喝采が響いているが、楽屋では須川がKOOLの、唐沢がセブンスターの、三羽がショートホープの煙を吐き出す呼吸と、首や指の関節を鳴らす音しか響かない。


・・・ベテランバンドのステージがはねた。数分して汗だくで息を切らしたメンバーが上がってきた。

「おつかれさまでした!」「ありがとうございます、トリがんばってくださいね!」それぞれが挨拶を交わす。

ベテランバンドのメンバーは、ステージではオーディエンスを煽動しまくるパフォーマーなのに、楽屋に戻ると非常に穏やかで低姿勢だ。


「じゃ、行きますか」須川が立ち上がる。

三人は黙ったまま階段を下りてホールへ入る。場内は満員のざわめきの中、オープニングSEに選んでおいたDOORSの「People Are Strange」が鳴り響いていた。

・・・唐沢は暗がりから左肩を叩かれた、振り向くと千夏が笑って立っていた。

「コウヤ、復活おめでとう。観ててやるからがんばれよ!」とデカい声でもう一度肩を叩く。

千夏の背後には、須川の彼女の紗希が微笑んで立っている。

唐沢の後ろにいた三羽は少しだけ寂しい気持ちでステージに向かうと、「タケルくん、桜ちゃんは来てないのー?」と千夏に声を掛けられた。

「あ、ああ。来てないんだよ」三羽は(・・・もう、いないんだよ。)と心の中で呟くと、いくらか鼻がツーンとなった。

「・・・そっか、今日会えるかなと思って楽しみだったんだけどな」

三羽はSEの音で聞こえない振りをしてステージに上がる。


床に置いたクライベイビーからマーシャルにシールドを突っ込んだ須川。

千夏のおごりのカップを、目の前のメインスピーカーに置いた唐沢。

スペアのスティックをバスドラのテンションボルトの隙間に差し込む三羽。


須川がPAブースの白井に合図を送ると、SEはフェイドアウトされた。


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