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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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バンドはアンコールをもらい「・・・それじゃ1曲だけやらさせてもらいます」

長身のボーカリストはいくらか照れたような渋々のような表情で、バラードを歌いだした。

「・・・あのバンド、CD出してんの?」三羽はカウンターを振り向いて、須川に聞いてみた。

「多分あるよ、買うか?」須川はそう言うと、酒棚の下の滑り戸の奥から1枚のCDを出してきた。

「あったあった、2枚しか残ってねえな。・・・ほら」三羽はビニール袋に入った薄手のケースを手に取る。

さっきの曲が入ってるか気になる。「・・・あった、The Rain。これだな」


次のバンド、つまり三羽鴉の出番の前のバンドが、ステージでセッティングを始める。

伊那の3ピースロックンロールバンド。もはやセミプロの域のバンドで高校生だった5年前に圧倒されまくった記憶は今でも鮮明に残っていた。

唐沢はカウンターを振り向き「・・・おいー!俺等このあとかよ!・・・白井さんもヨシトモさんも鬼だな・・・」


ベテランロックバンドのステージはさすがとしか言いようがなかった。

ワインレッドのGibson ES-335のポテンシャルを最大限に引き出して「ロックの在るべき姿」を体現しているボーカル&ギター。

華奢そうな体格なのにバンドのボトムを上へ下へと自在に操るベースマン。

ハンティングを被りうつむき加減なトラディショナルグリップのドラマーは、シンプルでタイトなビートを叩きだす。

「・・・うぅー、あの頃と同じかそれ以上だな。参るぜ・・・」唐沢は何杯目かのジントニを空ける。

「まったくだ、観れて嬉しいが俺等がこのあとなんだからな。・・・参った」三羽はポケットから500円玉を出して、アーリータイムスのロックを頼む。

須川はニヤニヤしながら、「いいじゃねえか、あの人たちはあの人たち。俺等は俺等。・・・桜梅桃梨だよ」

「オウバイトウリ?・・・なんだそれ?」三羽の質問に須川は笑って答える。

「サクラ、ウメ、モモ、ナシ・・・それぞれ違った良さがあるってことだよ」

「・・・サクラ、ウメ・・・」唐沢が復唱する声で、(・・・サクラ。)三羽は不意に胸が痛んだ。


『ロックンロールのパワー!パワー!』目の前のバンドはオーディエンスを激しくうねらせ、前へ後ろへ右へ左へと波打たせている。

羨望の眼差しで茫然としている唐沢と三羽の後ろで、須川だけは余裕しゃくしゃくの笑顔でステージを観ている。


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