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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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唐沢と三羽にとって、ローズの楽屋に入るのは5年振りのことだった。

あらためて周囲を見回すと、だいぶリニューアルされている。

かつての楽屋は、使用不能のギターや割れたり変形したシンバル、買い替えで用済みになった機材等が積み上げられ、雑多に散らかっていた。

物置の空いたスペースに椅子とテーブルが置いてあるといった感じだった。

・・・今日の4階は、まず事務室部分が別室に仕切られていてビジネススペースとして楽屋と隔絶させているようだ。

散らかっていた楽屋部分は余計な物を排除して、大勢のバンドマンやアーティストがくつろげるよう配慮されている。

「おお?試着室か?」と唐沢が驚いた視線の先に着替え用の個室が設置され、その右側には横長の鏡とカウンターが据えつけてあり、出番前の「顔作り」に快適な設備になっていた。

テーブルの上には『三羽鴉』と書かれたセットリスト・要望等の記入用紙とともに、ドリンクチケットが3枚挟まったクリアファイルが置いてある。

「・・・なんかすげえな。前にリョウタが、改装してんだよって言ってたけど、えらく変わっちまったもんだなー」と唐沢が2枚のドリンクチケットをブラックジーンズのポケットに捩じ込んだ。須川の分を横取りするつもりだ。


三羽はスネアケースを、唐沢はEB-3のハードケースを開けて簡単にチューニングすると、階下のホールへと降りていく。

二人はカウンターの中の須川に「よう」と片手を上げるが、ドリンクを作るのが忙しい須川は軽く頷くだけで、目線は手元と旧式のレジから離れなかった。


ステージでは長身の痩せたボサボサ頭のボーカリストが、圧倒的な存在感を放って歌っている。多分30代の4人バンドだった。

かなりテクニシャン揃いのようだが、黙々と演奏している姿はどこまでも生真面目そうで「・・・あの人たちは普段、優秀な企業戦士なのかもな」と三羽はつぶやく。

「そんな感じだな。オリジナルだろうけど、すげえいい曲だな」唐沢はそう言うと、カウンターを向いて「リョウちゃん!ジントニックプリーズ!」

ステージ上のボーカリストが「最後の曲です、レイン」三羽はその曲にのめりこんだ。


人いきれでムンムンしているホールから、PAブースを眺めていた三羽と白井の視線が合った。

白井は輪郭のはっきりした大きな目の鋭さを緩め、右手の親指を立てて見せる。相変わらず口元には濃厚な煙がトロリと漂っている。

「・・・なんか、ホームに戻ってきた気がするな」三羽はこの瞬間だけ、桜の失踪を忘れていた。


突然、三羽と唐沢の僅かな隙間にぶつかるように人が割り込んできた。二人に同時に嫌悪感と苛立ちが走る。

「お、わりいな兄ちゃんたち。リョウタ、黒霧濃い目でよろしくー」

・・・案の定「下品な隙っ歯なおっさん」だった。おっさんは今夜もチンピラみたいな格好とセンスのない安っぽいサングラスで、ガラガラ声でステージをヤジっている。

三羽は「ムカつくな、このおっさん」と目で合図したが、唐沢は「今夜は大事な夜だぜ、我慢しな」と苦笑いで首を横に振った。須川はそんな二人の心情を察してつい笑い出す。

「タケル、ほらよ」濃い目のジントニックのカップを三羽に渡した。


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