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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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17時まで通しの片側交互通行規制の場合、ガードマンたちは交代で昼食をとる。

12時30分になり、ポンコツ軽の助手席でコンビニの握り飯の包装を解いていた三羽の携帯が、Black Birdを奏でた。

「・・・やっと繋がりやがった。ゆうべはどうしてたい?」唐沢の声の背後で、電話のベルや話し声が聞こえる。事務所からだろう。

「・・・ああ、携帯の充電が切れちまってたの忘れててさ」三羽は二人に嘘をつくのが少し気が引けた。

「そうかそうか。・・・実はさ、桜の素性が判明するかもしれねえ情報が入ってさ」

「桜の素性?」途端、三羽は背筋から脳天に向かって痺れるような衝撃がきた。

「それはどういうことだい?」声の震えが唐沢に伝わっていないか気になった。

「昨日、千夏が家に来てさ・・・」唐沢はゆうべの一部始終を話した。ガードマンの殺人事件・二人暮らしだった娘の失踪・新聞でその記事を探しだしたこと。

「・・・それで千夏には、近所に住んでるっていう同僚に住所を調べてくれって言っといたから、じきに判ると思うわ」


・・・桜が三羽の部屋に転がりこんできたばかりの頃、壁に吊るした警備服をいつまでも眺めていた姿が脳裏に過った、まばたきもせずにじっと見上げてた桜の眼差し。


「それでさー・・・それでさー・・・おい!聞いてんのか?」

「あ、ああ、わりいわりい」三羽はフロントガラス越しに見える民家の壁に、桜の横顔を投影していた。

「リョウタから連絡いってると思うけど、明日のライブのチケットの売り上げ、相当なもんらしいじゃねえ。・・・リョウタすげえ気合い入ってるしさ、俺等も期待に応えなきゃな!」

「ああ、そうだな」三羽は気のきいた言葉を返すことが出来ない。

「・・・お前、大丈夫か?・・・まぁいいや、明日はなるべく早めに入ろうぜ。じゃあな」


三羽は右手に握り飯をつかんだまま、しばらくボーッとしていた。

左肩の無線の送受器が「三羽さんどうぞ」と言う。「・・・はいどうぞ」

「・・・時間過ぎてます、どうぞ」腕時計を見る、13時11分だった。

「ごめん!すぐ行く・・・どうぞ」こういう場合の昼食時間は30分しかないのだ。

三羽は握り飯をダッシュボードに放り出し、ヘルメットをかぶってクルマを下りた。



『OLD GARAGE GIG Vol.69』

アッシュトレイズ・ローズの入り口の、白いタイル壁に貼られたA4のメニュー。

今日はオープン前から人が集まっていて、隣のコンビニのあたりまで列が出来ていた。


唐沢と三羽が到着した頃、3階からはすでに重低音が響いている。

急勾配の階段を登る、2階は『テナント募集中』の空き事務所。そこから上は暗がりだ。

二人のブーツの踵の音が窓のない空間に響く。

もう使われていないタバコの販売機の向かいのドアを押すと、爆音と共にインドネシア煙草の香りが鼻をついてくる。

須川から来た「入り口入場困難、隠しドアから入れ。」のメールに従って、エントランスのピンク色のドアの右側にある壁のような扉を開ける。

生ビールの樽やコンテナが積んである廊下の先に、ちょっとしたシンクがある。そこからまた急勾配の階段を登った4階部分が、ローズの事務室と楽屋スペース。


二人が階段を上がりきると、スリーフィンガーのブルースが聴こえてきた。

「よう、お疲れさん。・・・お前ら動員力すげえじゃん!もうキャパいっぱいだぜ」オールドガレージのオーナーは愛器の薄緑色のグレッチで古いデルタブルースを爪弾いていた。

「今日はお世話になります、久々なんでいくらか緊張しますね」唐沢と三羽はペコリとアタマを下げる。

オーナーはグレッチをスタンドに置き、「お前らトリだから、よろしく頼むぜ!」と、階段を下りていく。


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