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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽は空っぽの部屋の、桜の指定席ともいえる座布団に腰を下ろした。

さっきから溜息ばかり出る。普段、虚勢を張って強がってる自分がなおさら女々しく思えて情けなくなってきた。

テーブルに放り出した携帯が「Black Bird」を奏でる。

「・・・もしもし」三羽は声を装うこともできず、暗い声で出る。

大勢の話し声や楽器の音が聞こえ、しばらくして「ようよう、リョウタだけどさ、さっきはおつかれさん!」と上機嫌な声が聞こえてきた。

「店に帰ったらさ、明後日のライブ、俺等分で52枚も売れててさー!かなり期待されてんぞ!三羽鴉!」

それは確かに快挙だった。月一でステージに立ってた頃のマックスが40枚だったから、いかに今回の復活を待っていた人が多いかを物語っていた。

「今回、オールドガレージ企画なんだけどさ、ヨシトモさんとこでだいぶ売ってくれたらしいんだ」

だが今の三羽は正直に言えば「ライブどころじゃない」心境にまで落ち込んでいた。

「・・・それはすげえな、ありがてえな」そう言うだけで精一杯だった。

「・・・あれれ?どうしたい?元気ねえじゃねえかー」須川はそう言ったが、チケットの売り上げで舞い上がってるようで、あまり心配してる風でもない。

三羽はバンドを引っ張っている須川の気持ちに水を差すのも気が引けて、「いくらか疲れてんのかもしんねえや」と嘘をついた。

「そうか、現場遠いしな。・・・お前やコウヤに無理させちまってるかや?俺」

三羽は、そう言われるとなおさら真実を言えなくなる。

「そんなこたぁねえさ、俺もコウヤも楽しみにしてるさ」

「そうか、なら明後日よろしくな!どうせサウンドチェックは出来ねえだろうけど、今日の調子で行けりゃぶっつけでOKだからさ」

須川の電話の向こうは変わらず雑踏のような音が響いている、白井の吐き出すガラムの香りまで匂ってきそうだ。

「ああ、判ったよ。なるべく早めに入るわ」


三羽は携帯を放り出し、棚に並べてある瓶の中からROLLING Kの栓を開けてラッパ飲みする。

押入れの段ボール箱の中のCDをあさり、古いBLUESばっかり選び出した。

ロバート・ジョンソン、ソニー・ボーイ、エルモア・ジェイムス・・・。

酔いに任せてすべてを忘れたくなった三羽は、携帯の電源を落とした。



『コチラハNTTドコモデス・オカケニナッタデンワハ・デンゲンガハイッテイナイカ・デンパノトドカナイバショニアルタメ・カカリマセン』

「・・・だめだ、タケルの電話通じねえや」唐沢はクッションの上に携帯を放り出し、パイプベッドに凭れかかる。

「タケルくん、普段通じないこともあるんだ」千夏は2杯の水割りで頬を紅くしていた。

「いや、そんなことねえけどな。・・・・・・あっ!」唐沢は突然身を起こした。

「タケルさん、邪魔されたくねえ時間なんかもしれねえぞ。桜とさ、ああやってこうやって・・・」

「・・・やらしい言い方すんなよ、コウヤ!」千夏はそう言うと、唐沢のアタマを小突いた。

「まぁいいや、明日電話すりゃあ。・・・それとお前さ、その香織って子に桜の家の住所聞いといてくれねえか?」


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