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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽は唐沢の社有バンで送ってもらう。

「・・・なんか、ただ事じゃ済まねえ気がするんだよ」唐沢は前方から目を逸らさずに言った。

「・・・どういうことだよ?」返事を聞きたくない気分だが、それしか言いようがなかった。

三羽はさっきから嫌な胸騒ぎに襲われて、一秒でも早く桜の顔が見たかった。

アパートの居間で、きょとんとした顔で出迎える「いつも」の桜の顔を見て安心したかった。

「あの野郎からすげえ殺気を感じたんだよ。・・・切羽詰ったというかなんと言うか、なんせ不気味なヤツだったわ。・・・ヤクザ者とは違う感じで」

唐沢は少しだけ開けたガラスの縁にタバコを当てて灰を落とすと、灰皿でもみ消した。

「・・・背が高いやせた男か」三羽は窓の外の暗闇に男の風貌を想像したが、知ってる顔は浮かんでこなかった。


アパートに到着すると、部屋の灯りが見えている。

「無事なようだな。」「そのようだな。・・・今日はありがとな」

唐沢のバンはクラクションを控えめに鳴らして去っていく。三羽は安堵したが、少し重い気分で錆付いた階段を登る。

だが、部屋の前まで来た時、安堵の気分は一瞬にして吹き飛んだ。


玄関の薄いドアが少しだけ開いていて、中から灯りが洩れている。

三羽は血の気が引いていくのを実感し、心臓の鼓動が耳鳴りのようにアタマに響いてくる。

ドアを開ける。狭い玄関にはサンダルの片方がひっくり返っていて、三羽の黒いブーツは踏んづけられたように倒れている。・・・桜が履いていた小さいスニーカーは見当たらない。

慌てて部屋に入る。「桜!・・・桜!」思わず大声で呼びながら狭い部屋を探すが、いないことはすぐに判った。

テーブルの上にはタウン情報誌がページを開いたままになっている。プラスチックのゴミ箱が空っぽのまま倒れている。

いつもキレイにしてくれていたあいつらしくない感じが、嫌でも目に付いた。

カーテンを開けガラスを開けると、洗濯物が夜風に揺れている。

三羽はしばらくの間、茫然と立ちすくんでることしか出来なかった。

(・・・コンビニに行くことすら恐怖のように首を振っていたあいつが、ひとりでどっかに行くはずはない。)

三羽はもう一度玄関の様子を眺める。(誰かに無理矢理連れていかれた・・・。背の高い男・・・。)


三羽は思わず玄関を飛び出し駆け出す、駅前まで走り続ける。桜が暗い目で自分を見つめていたあの小路まで。

多分見つかりはしないだろうと思いながらも、三羽はそうせずにはいられなかった。

腹わたが煮えくり返るほど悔しくて、不意に涙がこぼれそうになる。




唐沢の家のブロック塀の外に、黒い軽自動車が停まっていた。

(・・・千夏、来てんのか。嫌なときに来やがったなー。)と、脇腹をさすりながら玄関を開ける。

「おかえり、千夏っちゃん来てるよー」お袋がにこにこしながら出迎える。

「ただいま。・・・ああ、そうだね」階段を上がりながら(・・・クルマ見りゃ言わなくても判るさ。)と、いくらか憂鬱な気分になる。

唐沢は部屋の襖を開ける前に、自分の体調が悪いことを悟られないように姿勢を正す。

「おかえりー、コウヤ」千夏は唐沢のパソコンを勝手にいじりながら、コーヒーを飲んでいる。パソコンから目を離さない。

唐沢は「お前、パソコンにこぼすなよ」と言いながら、作業着を脱いで部屋着に着替える。自然に振舞うのが苦痛で仕方なかった。

「・・・コウヤ、どっかでケンカでもしたの?顔色悪いし、どっか痛そうだね」思わずギクリとなる。

「え?なんともねえよ。そんな風に見える?」と聞くと、「嘘ついても判んの!」と笑った。

(・・・こいつは何でもお見通しな女だな。)と、恐ろしくなる。

唐沢はどうせ隠しきれないと思い、昨日からの経緯をすべて話した。やられっぱなしの部分は非常に話しづらかったが。

「怪我は大したことねえと思う。肋骨にヒビはいってるかもしれねえけど、治しようねえし」言ってはみたが、あの執拗な蹴りは思い出すとゾッとなった。

その時ばかりはいくらか神妙な顔をした千夏だったが、そのあと、「・・・で、タケルくんちの桜ちゃんてどんな娘?」と中年のおばさんのように、根掘り葉掘り聞いてきた。

唐沢は自分の目で見た桜の印象を話したが、彼女の容姿を誉めるようなことは一切言わない。(・・・なにをキッカケに嫉妬しだすか判らねえからな。)と、警戒してだ。

・・・台所に下りて国産ウィスキーの瓶とグラスを2つ持って上がる。お袋は居間でテレビを見ていた。


「・・・さっきの桜ちゃんのことなんだけどさー」千夏は考え込むような表情で、溜息をつく。


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