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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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リハーサルは結局、ぶっ通しで4時間。5年のブランクはあっという間に埋め尽くされた。「三羽鴉」は一夜で完全に復活した。

三羽が「もうダメ、両手の指のマメが潰れてもう無理!」と根を上げて終了となる。

「仕方ねえな、初日から飛ばしすぎかもしんねえな」と笑う須川の声もガラガラに嗄れていた。唐沢のみが、「俺はまだまだ大丈夫なんだけんなー」とEB-3をクロスで拭き始める。

午前4時過ぎの窓の向こうは夜明けの青い闇が、朝の訪れを連れて来ている。


唐沢と三羽はカウンターに座り、須川は酒棚の奥から自分のフォアーローゼズを出してきた。ロックアイスを放り込んだカップにそいつを半分ほど注ぎ、あらためて乾杯する。

心地よい疲労と空腹の身体にはたまらなく滲みこんでくる、3羽のカラスは一杯で酔いが回って来た。

須川がカウンター横のノートパソコンを立ち上げ、店のHPのスケジュールを検索する。

「・・・来週の土曜日の企画に空きがあるから、そこで復活デビューだな」と2人の顔色を見る。

「おえおえ、ちっと早すぎじゃねえか?それまでに何回リハ出来るか判らねえのに」三羽はホープの煙が目に滲みたように、しかめっ面で言う。

「いくらか早え気もするが、俺はいいぜ。まだ現場がはじまってねえと思うから」唐沢は相変わらずベースを磨き上げていた。

「・・・そりゃそうとさータケル、女拾って部屋に連れ込んでるらしいじゃん」須川が興味深い顔で、三羽の前に肘を突いた。

三羽は言われるまですっかり、小娘が部屋にいることを忘れていた。「連れ込んでるわけじゃねえよ。勝手についてきて、部屋の外で咳き込んでるからついかわいそうんなって入れてやったんだけど、まだ帰らねえんだよ。」

「へえー」須川はその状況を想像するように、天井を眺めながらKOOLの煙を吹き上げる。

「・・・まぁ大事にしてやれば?」唐沢は磨き中のベースに目を落としたまま、他人事のように呟いた。

(・・・こいつらマジで他人事だよな。・・・でもどうしたもんか・・・。)三羽はいくらか憂鬱な気分になり、頬杖を突いてバーボンを舐めた。

「名前なんていうの?」須川が自分のカップに酒を注ぎながら聞いた。

「桜」三羽は頬杖を突いたまま、ぶっきらぼうに答える。

「ほう、いい名前じゃん。桜ちゃんかー」唐沢は久々に顔を上げた。

「・・・名乗らねえから、勝手に名付けたんだけどさ」三羽が言うと、2人は一瞬黙りその後爆笑した。

それからは根掘り葉掘り聞いてくる2人に、三羽はありのままを話す。(・・・なんか面倒くせえな。)と思いながらも。



結局、朝6時に店の階段を下りて散開する。

また須川のみ逆方向へ向かい、唐沢と三羽は自転車を押してしばらく歩く。

「なあコウヤ、俺一人住まいだから、桜を預かってくんねえ?」三羽が言うと、唐沢は目を丸くした。

「バカ言え!お袋になんて言うんだよ。・・・千夏にも説明できねえわ、そんなの」唐沢は母親と2人住まいだ。

「・・・早く帰ってくれりゃあいいが。どうしたもんかと思ってさ」三羽が溜息まじりで言うと、唐沢は三羽にいくらか同情した。

「少し経てば何か話し出しゃしねえかなー。・・・どうしてもダメなら警察に届けるしかねえが」

(・・・警察か、それだけはやだな。あいつらに頼みごとしたくねえし、なんとなく桜がかわいそうだ。)三羽は桜の仕草をひとつひとつ思い出していた。

「まぁ、様子見てみるわ」三羽は言うと唐沢に手を振って別れた。


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