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ライジング・サン  作者: 村松康弘
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三羽はコンビニの袋を提げて部屋に戻る、小娘は相変わらず黙ったまま座っている。

テーブルの上の缶ビールはそのまま置かれ、表面に水滴が垂れていた。

無人じゃないのに物音がしないのはなんとなく息苦しいから、見たい訳でもないがテレビをつけた。お笑いだかバラエティーがやっていた。

三羽は笑い声を背に、警備着を脱いで壁に掛かっているハンガーに吊るし、部屋着のスウェットを着る。

風呂場のお湯の蛇口をひねりリビングに戻ると、小娘は思いつめたような目で壁の警備着を見上げていた。・・・思い出してタンスからジャージを出して小娘に放ったが、まだそれを見上げたままだ。

・・・小娘に弁当を渡すと三羽に深いお辞儀をして、弁当に手を合わせてから食いはじめた。三羽は適当な惣菜をつまみにビールを呷る。


Black Birdが鳴る、「よう、店でコウヤと飲んでるんだけどさ、これから来れねえか?」須川からだった。

「これからかー?昨日遅かったからキツいわー」時計を見ると23時を過ぎていた。

「おめえとコウヤは、明日休みだろ?・・・コウヤがギブソン買ったから、久々に合わせてえとさ。スネア持ってこいや」

(・・・コウヤが何か言いたげだったのは、その事か。)三羽は夕方の電話を思い出す。

そして(いよいよ転がりだすかー。)とワクワクしてきた。

「わかった、なるべく早めに行くわ」と電話を切った。

小娘が黙々と弁当を食ってる脇で、押入れからケースに入ったスネアとスティックケースを取り出す。

「俺、ちょっと出掛けてくるから、勝手にやってろな。・・・鍵は持ってくから閉めといていいからな」三羽が言うと、小娘は姿勢を正してお辞儀するように頷いた。

その仕草が滑稽に思えて、つい笑い出した。

ジーンズに履き替えて革ジャンパーを着て、玄関を出る時に思い出して言う。

「・・・それから、お前が名乗らねえから、俺は『桜』って呼ぶことにしたからな」

桜はキョトンとした顔をしていたが、三羽はそのままドアを閉める。


ローズに辿り着くと「よう、いらっしゃーい」と須川がカウンターから、生ビールの入ったカップを寄越した。

ステージは透明な明かりに照らされ、唐沢がアンペグのベースアンプの調整をしていた。

くわえていたタバコをヘッドの4弦に挟んで、繰り返しリフを弾いている。買ったばかりのEB-3はビンテージらしく、野太いゴリゴリの音を出してる。

「コウヤの野郎、前より調子いいんじゃねえか?」・・・三羽は懐かしさとともに快い緊張が滲みでてきた。

しばらくして楽屋からのドアから、須川がストラトを肩からぶら下げて出てきた。赤いキャビネットのマーシャルにシールドを挿し込んで、唐沢のリフに合わせはじめる。

足元にはクライ・ベイビーのワウペダルひとつしか置いていない。ギターマニアの1番お気に入りはエフェクターなしでも、枯れた音色を出す傷だらけのサンバースト。

三羽はカップのビールを飲み干すと、両手の指をポキポキ鳴らして「いよいよはじまりますか」と独り言を言って、ステージに上がる。

スネアを自分のメイプルシェルの物に交換して、タムをひとつ外して自分に最適なポジションに調整する。

すべてが完了した時、3人はお互いに目だけの会話で「客のいないギグ」をはじめた。

creamのcrossroadsで延々とジャムをして、グルーブを高めていく。


転がりだして20分で、今までのブランクは吹っ飛んでいた。


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