第2話:団長さんの胸の中で
ー翌朝。
私は天幕の外から響く馬のいななきと、騎士たちの慌ている足音で目が覚めた。どうやら遠征は終わり、王都への帰還が始まるらしい。
(ふあぁ……よく寝たわ。……あら、団長さん?)
見上げると、そこにはすでにフル装備の鎧に身を包んだ団長さんが立っていた。相変わらずの凄まじい気迫。部下たちが外で「今朝の団長は一段と近寄りがたい……」と囁き合っているのが聞こえる。けれど、私の前で跪く彼の瞳は、困り果てたように揺れていた。
「……君をここに置いていくことなど、俺にはできない。だが、連れて帰れば間違いなく騒ぎになる」
団長さんは真剣な顔で考え込み、やがて何かを決意したように私を抱き上げた。
「……すまない、少しの間だけ我慢してくれ」
そう言うと、彼はあろうことか、自分の胸当ての隙間に、私をすぽっと差し込んだ。さらに上から重厚なマントを羽織り、外からは私の姿が一切見えないように隠してしまう。
(まあ……。ちょっと窮屈だけど、とっても暖かいわね)
団長の厚い胸板と、冷たいはずの鎧の裏側。けれど、彼の体温が直接伝わってきて、なんだか守られている安心感がある。そのまま団長さんが馬に跨ると、ドクン、ドクンと、力強く規則正しい心臓の音が耳に届いた。
(心音って、なんだか落ち着くわ。……騎士さんも、緊張しているのかしら?)
団長さんが馬を歩かせ始めると、外から部下たちの声が聞こえてきた。
「団長、本日の隊列ですが――……えっ、団長、その、胸のあたりが少し……動いて……?」
「……気のせいだ。マントが風に煽られただけだ。貴様、余計なことを気にする暇があるなら前方を確認しろ」
「は、はいっ! 申し訳ありませんっ!」
団長さんの声が、鎧を通じて私の体に低く響く。ごまかす声は氷のように冷たいけれど、私を支える腕の力加減は驚くほど優しい。
(ふふ、団長さん、必死ね。私の存在がそんなにばれたくないのかしら)
馬の心地よい揺れと、耳元で響く安心感のある鼓動。昨夜の残業の疲れがまだ残っているのか、私は団長さんの胸の中で、再びゆっくりと瞼を閉じた。
(……このまま、あの騎士団長さんにしっかり面倒を見てもらえるかしら。あんなに私を見て喜んでくれたんだもの、きっと大丈夫よね。……でも、もしお城についても私を隠し通せなかったら、どうなっちゃうんだろう)
ふわりと浮かんできた小さな不安は、彼がそっとマントの上から私を支えてくれた手のぬくもりに溶けていく。王都まで、あとどれくらいかしら。目覚めた時には、もっと素敵な「お猫様用」のベッドが待っていると幸せだわ――。
私は淡い期待と、ほんの少しの心細さを胸に、再び深い眠りへと落ちていった。




