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3話:奇襲

「相変わらず田舎くせぇところに住んでんなぁ」

その日、哲郎の家に一人の老人が訪れた。白いポロシャツにアロハ柄の半ズボン、麦わら帽子をかぶった軽装の男は、家の敷居を潜るとそのまま庭へと歩いていく。


「きったねぇ庭じゃなー、部品の山しかねぇぞ」

「久しぶりに来て、開口一番がそれかー?都会に移り住んでも変わらんのぅ」

庭で花に水をやっていた哲郎が、そう返す。


「派手な格好じゃな、まだ若作りでもしとるんか?」

「馬鹿言えっ!じじいだからこそ、老い先短い人生を楽しんどるんじゃろうがっ!棺桶に入ったらどうせ土に返るんやで。オメーこそそんなこきたねぇ繋ぎ服なんぞ脱いで、可愛げある恰好せんか」

「これは昔からのオレの一張羅よ!死ぬまで脱がんぞ!」

二人は顔を合わせ、ニィっと笑う。


「減らず口を!……元気そうでよか」

「まだまだくたばらんわい」

話題を切り替え、哲郎が口を開く。


「んで、電話で話してた“見せたいもの”っていうのは何じゃ?」

「こっちじゃ」

哲郎に案内され、慎太郎は庭の裏手へ向かう。視界に飛び込んできたのは、大きな布で覆われた、横に長い物体。


「大きいな…」

「親友のオメーだからこそ言う、これは機密じゃ」

「ん?それは一体どういう……」

慎太郎が言いかけた瞬間、哲郎が布を一気に剥ぎ取る。現れたのは、仰向けに眠るように置かれた白い装甲に赤い胴体のロボットだった。


「お……おい。これって……」

「今、世間で騒ぎになっている例のロボットじゃ。名はガルガンダという」

「街で動いとった片割れ……じゃあ、あれはオメーが操縦しとったんか!」

「勘違いするな。オレじゃない。動かしていたのは未来から来た17歳の少年じゃ」

「み……オイオイ、何といっとんじゃ!?歳でついにボケたか?未来から来たぁ?」

「まだボケとらんぞ。今の世界の技術で、あんな機敏に動く人型ロボットを作れると思うか?軍艦や戦闘機の製造工場におったオマエさんなら、わかるじゃろう」

慎太郎は目を丸くし、ガルガンダを見上げる。


「戦闘機ならともかく、ロボットなんぞ見たことないぞ…ワシにこのロボットのどこを見てほしいんじゃ?」

「話によると、両足のスラスターの噴射力が落ちとるらしい」

「スラスター……ブースターのことかのう。まぁ、これも何かの縁じゃ。未来の技術で作られたロボットがどんな代物か、見てやろうじゃないか」

「さすが親友、変わったもの好きなところも変わっておらんのぅ」

「ケッ、うるさいわい……ところで、未来から来た少年はどこにおるんじゃ?姿が見えんようじゃが」

「彼なら今、服を買いに孫とショッピングに行っておる」

「ショッピングゥゥ?」



***********************************




一方、その頃。


午前10時37分。賀姫市中心部の大型ショッピングモール「イセザキ」。円形の吹き抜けを中心に五層構造、テナントがひしめき合い、週末には遠方からも人々が訪れる。


「へぇ~、結構人いるな」

ユキトは萌里に案内され、混雑する館内を慎重に歩く。


「京都で一番大きい場所だからね!こういうところに来るの久しぶり?」

「買い物自体はシェルター内で済ませてたけど……人が歩き回ってるのを見るのは久しぶりだ」

珍しい光景にキョロキョロするユキト。萌里が先導しながら声をかける。


「気になるお店はいっぱいあるけど、今日は服を買うって目的があるからね!」

「服って、アンタの?」

「ちょちょちょ!私じゃなくて!この世界で生活するなら、パイロットスーツばっかじゃダメでしょ」

「別に俺は構わないけど」

「いやいや、世間の目があるから、服装にも気を使って活動するの!あと毎日風呂もね?」

ユキトはコクンと頷く。初めて来た日、風呂上がりのパイロットスーツが鼻を曲げるほど臭かった経験がある萌里は、衛生面も徹底してほしいと強く思っていた。


「…なんか、おめかししてるね」

「え、私?」

「うん」

「そうかな?これくらい普通だと思うけど」

ふんわり白いブラウスに腰の引き締まった黒いショートパンツ、白いスニーカー。頭にはストリート系の帽子、腰まである金髪を指でクルクル回す萌里。その表情をユキトは無言で追う。


――そのとき、背後に手が伸びる。


ユキトの視線が瞬時に捕らえる。人込みに紛れた見知らぬ手。反応は一瞬で、動作は無駄がない。手を掴み、ひねって背中に回す。

男性は驚きのあまり声をあげる前に、ユキトの左腕が首元に添えられ、いつでも制圧できる体勢に。


「なんだお前?」

「えぇぇ?!な、なになになに?!助けてぇ!」

ユキトは一瞬だけ目で萌里を確認。萌里は無事である。次の瞬間、手元を緩めずに男性の右手をつかみ色紙を落とさせず保持させたまま、軽く体勢を調整し、逃げ場を封じる。


「ちょっと待って!あの……もしかしてサインですか?」

男性は恐る恐る頷く。ユキトは手を緩め、男性の右手を自由にしながらも、自分の体は常に男性と萌里の間に立つ。


「この人は大丈夫、だから放してあげて」

「わかった」

萌里は安心して肩の力を抜き、慣れた手つきで色紙にサインを書き上げる。


「ありがとう!気をつけて帰ってね!」

去っていく男性を見送った萌里は安堵のため息をつく。だが周囲の視線は、萌里に集中し、憧れのまなざしを向ける者も多い。状況を理解できないユキトが視線を走らせると、萌里は帽子を深くかぶり、手を引いてすばやくその場を離れていく。

人混みが少し落ち着いたところで立ち止まる。萌里は再び深いため息を吐いた。


「さっきの人、知り合い?」

「ううん、たぶんファンの人だよ」

「ファン?」

「そうそう!実は私、読者モデルやってるんだ。高1の時、駅で事務所にスカウトされて学業と両立してたけど……これが予想以上に売れちゃってね」

ユキトの視界に、本屋の店頭、ファッション雑誌の表紙に萌里が載っているのを偶然発見する。

改めて萌里を見れば、高校2年生にして抜群のスタイル。腰まで届く金髪、耳ピアスとネックレス、大人びた服装と雰囲気は17歳らしからぬ落ち着きがあった。


「えっ、ジーっと見てなに?」

「かわいいな、と思って」

「えッッッッ!!!!!な、なに急に?!やめてよ!心臓に悪いからッッ!!!!!!」

突然のユキトの言葉に、萌里は通路の真ん中で声を荒げ、動揺で声が裏返る。


「変なの」

「なッッ、へっ、変じゃないよォ!」

「ところで服買いに行くんでしょ?どこだっけ?」

「え、えーっと……」

普段通り冷静なユキトに対し、動揺しまくる萌里は、自分が負けているようで悔しさを抑えながら、スマホを取り出して目的地を確認するのであった。



***********************************



場所は変わって、哲郎宅。


「…この配線の仕方、頭おかしいってレベルじゃないぞい。これでコックピットから遅延ゼロで点火に持っていけるのか」

慎太郎は庭に仰向けで置かれたガルガンダの右足スラスター部分の装甲を一枚ずつ丁寧に剥がし、内部機構を点検していた。装甲は重く、腰が弱った二人で持つにはかなりの重量だ。


「進捗はどうじゃ?」

「伝達回路の基盤が恐ろしく優秀じゃ。今の技術では絶対作れん構造に、マイクロ単位で圧縮されとる。未来のロボット、恐れ入ったわい」

「問題のスラスター部分は修理できそうかの?」

「配線が一部切れとった。恐らくスラスターの噴射増幅信号を送る回路じゃろう。断面を見る限り、こちらでも用意できないことはない。2、3日あれば取り付け可能じゃ」

「元造船工場チーフの目は衰えとらんな」

「まだまだ若いもんには負けんさ。見れば見るほど血が騒ぐの。コイツは現代のテクノロジーを大幅に逸脱した機体じゃ。例え同じものを作ろうとしても、無理じゃろうな」


「こいつのパイロットは脳に埋め込んだマイクロデバイスと無線通信で繋がり、頭で操作すると聞いとる」

「なんじゃと?そんなことが……ありえるのか?」

「実際、一度だけコックピットに乗る機会があった。戦闘中の動きを見たんじゃが、操縦桿は補助的な動作に過ぎんかった」

「人間の脳を操作媒体に……か。嫌な記憶が頭をよぎるのぅ」

「昔振った女のことか?」

「バカ言え、違うわい。どこかの国が人造人間を作ろうとしたことを思い出したんじゃ」

「ん?頭痛が痛いみたいな単語じゃな」

「人類は昔から長寿に挑んできた。冷凍保存、ホルマリン漬け……。古来の方法も試みられたが、一人の科学者が提唱した製法が一時、世界に物議をかもした」

慎太郎は缶コーヒーを一口飲み、続ける。


「人間の脳を機械の体に埋め込み、長生きさせる——人造人間化計画じゃ。機械の体は頑丈で交換可能、成功すれば不老不死。しかしこれは、生を冒涜する行為だと非難された」

「生命を弄ぶ行為……生まれて生きて死ぬ、人間の節理を踏みにじるとな」

「だからこそ永遠の命を欲する者もおる。だが実際には、夢や希望とは裏腹の非人道的な人体実験が行われ、政府から勧告を受け即刻中止され凍結された」

慎太郎はガルガンダを見上げ、缶コーヒーをもう一口飲む。


「戦場から遺体が一夜にして消えた、いわゆる“戦場の神隠し”という事件もあった。消失者は全部で190名。2か月後、付近の山中で見つかったが、全員の脳が空っぽだった」

「……おいおい」

哲郎がゴクリと息を飲む。


「さらにだ。実験に関わっていた連中が、数日前に世界最高峰の監獄『ドストン』から脱獄したらしい。脱獄時、黒い生き物のようなモノを纏ったロボットがいたと聞く」

「ロボットじゃと…?」

「遠目で見た者の話では、ボロボロのマントを羽織り、背中に巨大な鎌を二本背負っていた。警備兵器も全く歯が立たなかったそうだ」

「ニュースには出てないが……オメー何処で情報を?」

「昔取った杵柄よ。友好関係は大事にするもんじゃぞ。年老いてから効いてくる」


「ケッ、うるさいわい……。しかし、そいつもユキトやガルガンダと関係があるのか……随分厄介なことになったな」

「今も人造人間計画がどこかで動き、戦場の“空っぽ脳”を使って実験していたとしたら……案外、ユキトやガルガンダがこちらに来たのも前触れかもしれん」

「内容が内容だけに、話が筋書き通りならワシの息子はとんでもないところに関わっとることになるぞい」

「あんな剣幕で動いておったのに心配か?」

「当たり前じゃい。いくつになっても、親は子を心配するもんじゃ」

哲郎も重いため息をつき、ガルガンダを見上げる。その瞬間、誰も乗っていないはずのコックピットのモノアイが微弱に光る。


まるで何かに反応したかのように……。



***********************************



時は少し遡り、ショッピングモール「イセザキ」内。


ユキトの私生活用の服を買い終えた萌里とユキトが次に訪れたのは、シューズショップだった。機能性の高い一足を探すための来店だったが、ユキトの求める靴は運動性能ではなく、彼自身の脚力に耐えられる耐久性のある靴。残念ながら店内には希望の一足はなかった。


次に二人が足を運んだのは、作業用や仕事用の服・靴を取り扱うワークショップだ。


「うわー、こういうところ初めて来た。めっちゃ革靴の匂いする…」

「…これ、いいな」

棚に並ぶ外仕事用の靴やベルト、つなぎ服の通路を歩きながら、ユキトは立ち止まり視線を上へ向ける。その先には、ハイカットブーツが美しく陳列されていた。


「うん、動きやすくて履きやすい」

「へぇ~、こういうミリタリー系の靴好きなんだ?」

「好きっていうか……ジャンプしたり壁蹴って走ったりする時、運動靴だと底が薄くてすぐ減っちゃう。だから厚底で頑丈なブーツの方が動きやすいんだ」

「ははっ、あくまで機動性重視ってわけね…!」

試着しながら淡々と答えるユキトの姿に、萌里は少し呆れつつも感心していた。今まで買った服も動きやすさ重視で、十代にしては珍しくおしゃれに興味が薄いらしい。

その後、黒のブーツを一足購入し、二人は店を後にする。


「お金出してもらって悪いね。いつか返すよ」

「いいっていいって!雑誌の仕事で稼いだお金だし、使い道もなかったんだから気にしないで!」

「そっか、ありがとう」

ふと、ユキトが突然立ち止まった。


「トイレ行ってくる」

「あららっ、急に真面目な顔で何言うのかと思ったら…!」

「すぐ戻るよ」

そう言ってユキトは駆け足でトイレ方向へ向かう。今まで常人離れした動きを見せていた彼が、尿意のために駆ける姿は、萌里にとって妙に人間味があり、少し笑みがこぼれた。


「あのー、すいません」

突然背後から声がかかる。振り返ると、目の前に黒いフードを被った若めの男が立っていた。低く響く殺意に満ちた声。刃物の先端が視界に入り、恐怖で体は金縛りのように硬直する。


「萌里さん…ですよね?」

「ど…どういうこと…ですか?」

「余計な詮索はするな。黙ってオレについて来ればいい。今はあの厄介な男もいないみたいだし」

どうやらユキトが側を離れたタイミングを狙った、計画的な接触のようだった。


「少しでも変な動きを見せたら、その可愛い顔を切り刻んで二度と人前に出られない顔にしてやる」

「な、なにが…目的ですか?」

震える声で問いかける萌里に、男は低く答える。


「君の両親が借金返済のため君を“売った”って話は知っている。俺は依頼主に頼まれて君を連れ戻す手先……のはずだったが、実は違う」

「違う…?」

「まぁ、続きはゆっくり話す」

次の瞬間、背後から飛来音が響く。萌里の顔横を通り過ぎ、フードの男の顔に直撃。顔面にアイスがべっとりと付く。


「ぐっ、なんだこれッ、アイス?!」

男が拭おうとしたその背後に現れたのはユキト。後ろから腕で首を締めつけ、刃物を持つ手を背後に回して拘束姿勢にした。


「アンタ、ファンってわけじゃなさそうだな」

「もう戻ってきたか…手は拭いたか?」

「拭いてないけど」

「汚いな!まぁいい…今日は挨拶みたいなもんだ、そのついでに少し手合わせしてよ?」

フードの男が言い放つと同時に、外から鈍い爆発音のような「ドォンっ」という音が響き、拘束していた男の姿が目の前から消えた。


「…疑似有機型ホログラム、偽物」

「なんだったの今の…怖すぎ」

「怪我は?」

「大丈夫…心臓止まるかと思った、めっちゃ怖かった…漏らすかと思った!」

「元気そうで何より」

すると続けて「ドォンっ」という音が聞こえ、周囲の一般客も足を止め不安そうにざわめく。

吹き抜けになった中央の階下から、大声が響いた。


「にげろ!!ロボットだ!!外でロボットが暴れてる!!ここも危ないぞ!!」

その瞬間、モール内は悲鳴とどよめきに包まれ、平和だった買い物の光景は一変する。


「ねぇッ、ロボットってまさか!」

「さっきのやつと関係ありそうだな」

ユキトが走り出すと、萌里も後を追った。


「どうするの?!」

「止める」

「ど、どうやって?!ガルガンダはここにないし!」

「大丈夫」

三階の非常階段を下り、緊急避難扉を蹴破り外に出ると、螺旋階段が下まで通じていた。

すると上から凄まじい突風が巻き上がり、萌里の髪が翻る。


「なに?」

上空から迫るスラスターの噴射音。視線を上げると、舞い降りたのは――悪魔のような顔を持つアーマードフレーム。

幾多の戦闘の傷跡を残す白い装甲に赤い胴体、背中には身の丈ほどのコンボウ刀を背負っていた。

「ガルガンダ…」




「えっ、ちょっ、誰ですか?!」

先に萌里がガルガンダのコックピットに乗り込むと、後部座席に見知らぬ老人が座っていた。


「いやぁ、整備しておったら急に動き出してのぅ、そのまま来ちまったわい」

「整備…直してくれるって言ってた人か」

哲郎との会話を思い出しつつ、ユキトはコックピットシートに腰を下ろす。目の前のメインディスプレイに触れると、全天型モニターが起動し周囲の映像が映し出される。頭上の円形コンソールから光が脳に転写され、真下からは動力炉のタービン稼働音が響く。操縦桿に手をかけ、フットペダルを踏み込むとスラスターが点火、ガルガンダが力強く跳び上がった。


「これアンタが直したの?」

「初めてのブースター整備で手探りじゃったが、具合はどうじゃ?」

「うん、いい感じ。助かった」

「ならよか。で、今から何をしに行くんじゃ?」

「あれを倒しにいく」

モニターがワイプ映像で拡大される。ショッピングモール近くの広大な更地に立つ黒いロボット。ボロボロの布をまとい、背中には巨大な二本の鎌が装着されていた。


「…あれは?!」

「え、知ってるの?」

「あぁ、先日ドストン脱獄騒ぎで居たロボットじゃ。何故こんなところに…」

「何か仕掛けてくる」

黒いロボットは背中の可動式アームを展開。二門のガトリングガンを肩に装着し、火花を散らしながら弾丸を放つ。ガルガンダはスラスターで横に動き、振り上げた右足で弾丸を回避して地上に着地、土煙が舞い上がる。


間髪入れず黒いロボットはマントを翻し接近。鎌を振りかぶり突撃する。ガルガンダは反射的に左のマニュピレーターで受け止め半回転し、右腕の射出口からワイヤーを射出、黒いロボットの視界を奪う。そのまま膝でコックピットハッチを狙い下から叩き込む。


だが黒いロボットも機体を後方に引き衝撃を軽減し、背中の鎌を振り下ろす。ガルガンダは右のマニュピレーターで受け止め、内蔵の高金属製パイルバンカーで粉砕、さらに右足で蹴り飛ばす。しかし黒いロボットは前方にアームを展開し、ガトリングガンを肩に装着、近距離から弾丸を乱射する。


ガルガンダはスラスターで移動し、落ちていたコンボウ刀を拾って地面に突き刺し、巻き上がる土砂で弾丸を防ぐ。


『地形を利用して無駄なく相手を狙う…人間のような動きだね。君、相当経験積んでるな』

「何が目的なの?」

『手合わせだよ』

「まぁいいや。お前を捕まえて吐かせる」

『悪役のセリフじゃんねッ!』

黒いロボットが再び動こうとしたその時。


ゴォン――鈍い音が上空から響き、二体を巨大な影が覆う。見上げると空には長細い戦艦が浮かんでいた。


『はぁ…もう時間か。今回はこれでおしまいかな』

黒いロボットはマントを広げる。

『楽しかったよ…次は絶対殺す。その女も…貰うッ、“大事な鍵”だからな』

そう告げると、黒いロボットは戦艦に戻り、発射ハッチに収まって姿を消した。

ガルガンダの前には再び静寂が訪れたのだった。



***********************************



それから1日も経たない頃。

ショッピングモール「イセザキ」での戦闘や、空を飛ぶ戦艦の出現はネットやSNSを通じて瞬く間に拡散され、世界中の人々の目に届いた。ニュースでも大きく取り上げられ、世論は徐々に騒然とし始めていた。


「…そいつ、確かに萌里を“貰いに行く”って言ってたんじゃな。だが、その『鍵』ってのは一体なんじゃ?」


ショッピングモールでの一件から一日が経った昼下がり。哲郎の家の居間には、ユキト、萌里、哲郎、慎太郎が揃い、昨日の出来事を改めて整理していた。


「会社の借金の肩代わりで売られたって割には、相手の手口が過激になってきた。その“鍵”ってのが関係してるのかもしれん」

「まぁ萌里ちゃんは可愛いからのぅ。熱心なファンによる極端なストーカー行為…という線も?」

「ただの追っかけがロボットや空飛ぶ戦艦まで出してくるかい!…じゃが、こりゃワシの息子、とんでもないことに首突っ込んどるみたいじゃのぅ」

哲郎の顔は険しかった。


「…何か目的がありそうだな」

「目的、って?」

「心当たりはある?鍵のこととか」

「な、ないよッ!」

「じゃあわかんない」

淡々と答えるユキトに、一同は思わずズッコケる。


「とりあえず、しばらく不用意な外出は控えたほうがいい。いつまた狙われるかわからん」

「えっ…え、ちょっとまって!」

「なに?」

「学校も行っちゃだめ…?」

「うん、ダメだよ。また標的にされる」

「どーーーーしても?!」

「死にたいの?」

「いやいやいや!違うって!その…10月まで待ってほしいの…ッ!」

「どうして?」

「お願い!どうしてもなの!」

萌里は手を合わせ、必死に懇願する。


その様子を見つめるユキトは、これまでの経験上、守る対象や警護対象は絶対に安全な場所に置くことを自らのポリシーとしていた。表情は変えないものの、内心で思考を巡らせ、やがて口を開く。


「俺も行くよ」

「……え?」

「学校って場所、俺も一緒に行く」

「…え?…え?…ええええーーー?!!」

萌里の素っ頓狂な叫び声に、庭の縁側下でいつも屯している近所の猫たちがびっくりして身を起こし、居間を覗き込むのは言うまでもなかった。

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