30話:永遠
デスラウガスの体内からの脱出は、拍子抜けするほど容易だった。
ヴァルギリアの《エンケイ》が分厚い装甲を穿ち、開いた穴へ三機は一直線に飛び抜ける。
それだけだった。
外へ出た瞬間――
轟音。
崩壊音が、四方八方から降り注ぐ。
装甲片、ケーブル、千切れたフレーム、巨大な機械の残骸が、隕石の雨のように降下してくる。
超巨大兵器デスラウガスは、もはや“兵器”の形を保っていなかった。
内側から崩れ、軋み、砕け、
山脈のような巨体がゆっくりと瓦解していく。
『……終わった、のか……』
飛永が、呆然と呟く。
『世界中のビックギアも停止しているはずだ。これで……』
言葉が、続かない。
誰もが、ようやく張り詰めていた神経を緩めかけた、そのとき。
『……ん?』
飛永が眉をひそめる。
崩れ落ちるはずのデスラウガスの右腕が、不自然に空へ向けて固定されている。
まるで。
――何かに、縋るように。
『こんなんだったか……?』
その違和感に気づいたのは、ガルガンダだけだった。
白い機体が、じっと空を見上げている。
『ユキト……?』
アルゴスから聞こえる萌里の不安げな声。
次の瞬間。
空が――裂けた。
一直線の黒い傷。
青空に走ったそれは、ゆっくりと、しかし確実に広がっていく。
ビキ……ビキビキ……
硝子が割れるような音が、空全体から響く。
裂け目は数キロ、数十キロと拡大し、
やがて。
空そのものが、口を開いた。
向こう側は、闇。星も光もない、底の見えない暗黒。
そして――
蠢いていた。
影。
無数の、影。
数えきれない“何か”が、折り重なり、押し合い、こちら側へにじみ出ようとしている。
手のようなもの、殻のようなもの。
目のような光。
形を定義できない異形の群れ。
《……空間構造。これは……?!》
リナの声が震える。
『まだ……終わってねぇのかよ……』
飛永のかすれた呟き、絶望が静かに広がっていく
あれが落ちてくれば世界は本当に終わる。
今度こそ、何も残らない。
――その瞬間。
白い閃光。
ガルガンダが、前触れもなく加速した。
『ユキト!?』
『待て!』
『やめろ!』
制止の声が突き刺さる中、ヴァントム全開。
ゼロモード限界解放。
機体各部から蒸気が噴き出し、フレームが軋み、警告が赤く点滅する。
それでも止まらない。
一直線。
迷いなく、最初から決めていたかのように。
『ユキト!!戻って!!』
萌里が叫ぶが応答は、ない。
ただ。
「…かがり火、髑髏がなにかしたんだ。だから…潰してくる」
ユキトの強い声だけが通信に混じった。
それが、最後だった。
ガルガンダは裂け目へ到達。
右手を突き出し――ゼロブレイク、臨界。
太陽のような白光が炸裂。
空間ごと、殴り飛ばす。
闇と影の群れがまとめて吹き飛び、裂け目が強引に押し閉じられていく。
バキィィィィィン!!
空が砕け、縫い合わされ、収束する。
光が消えた。
静寂。
そこにはもう――
ガルガンダの姿は、なかった。
『……ユキト……?』
返事はない。
ただ、
崩れ落ちるデスラウガスの残骸と、
何事もなかったような、青い空だけが広がっていた。
まるで最初から、
“彼がそこにいなかった”かのように。




