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虹の彼方へ  作者: みかん
5/11

使命

「ホントに平和ですね」


依然としてレジスタニアの攻撃がないまま。


クッションに座ってPPでレポートを作成していた如月が言った。


今日は新月だからベランダタイムはお休み。


あと2週間---


ベッドの上のアタシは何と無く感じていた。


“もしかしたら今夜か明日、何かが起きる”


って。


満月の夜も下弦の月の夜も、共通してペンダントが光ってる。


「もしかしたら今夜か明日、何かが起きるかも知れません」


アタシのデスクでPPを操作中の神楽。


アタシはギュッと胸が掴まれてる気がした。


“神楽には敵わない”


“神楽の目はごまかせない”


って。


と同時にあの“夢”を思い出した。


お兄様が現れてペンダントを強引に取られそうになって・・・。


ちょっと身震い。


またあんな夢を見ちゃうのかなぁ。


『神楽ぁぁぁ』


「ハイ妃杏様」


神楽はいつもアタシの隣にいてくれて、アタシのして欲しいコトを迅速にかつ的確にしてくれる。


如月よりも絶対的な信頼感もある。


「今夜はずっと居りますから大丈夫です、ご安心下さい」


まだ何も言ってないのに。


アタシの心を読み取れるのかって疑っちゃうくらい、的確。


任務でやってるだけだって分かってても、グッと来るよね。


『ありがとう』


何でわかっちゃうんだろ。


“今夜はずっと側にいて”


って。


しかも神楽の“殺し文句”とも言うべき“「大丈夫です、ご安心下さい」”には、医学的な安心感がある。


今のところペンダントに反応無いし、


今夜は安心して眠れそうだね。





あ゛だま゛がい゛だい゛ぃぃぃ 。


あまりの痛みに目が覚めた。


視界の先に神楽が見える。


神楽、まだ起きてたんだ。


『神楽?』


声が出ない!!


『か・・・・・』


どうして?声が出ないよ。


景色が歪んでる??


ペンダントは?


点滅してる!!!!!


一気に血の気が引く。


神楽ぁぁぁぁぁ!!!!!


どうして聞こえないの?????


部屋の景色がどんどんゆがんでいく。


神楽ぁぁぁぁぁ。


ハッ!!!!!!!!!!


お兄様。。。


痛みでぼやぁんとしか見えないけど、お兄様が目の前に。


どうしてお兄様が!?


確かにココは神崎家のアタシの部屋なのに。


神楽ぁぁぁ!!!


神楽ってばぁぁぁ!!!


必死に叫ぶ。


「オレが分かるか?」


お兄様の声がハッキリ聴こえる。


エッ?


じゃあこの前のは???…


声が出ないコトにもがきながらも頷く。


「良く分かってくれたね、嬉しいよ。だけど、残念ながら今はどうあがいても神楽には妃杏の声は聞こえないよ。コレは妃杏の意識の中だから。夢でも現実でも無いからね」


お兄様の顔は笑顔だった。


でも冷たさを帯びていた。


氷のような冷たさ。


アタシは全身で震えを感じていた。


心臓もかなり速く動いている。


ペンダントの点滅はまだ止まない。


「どうして震えるの?」


掛けるコトバは優しいけど、顔は氷のように冷たかった。


そのコトバにアタシは余計震えてしまう。


『・・して?』


声が出た!!


涙で声がかすれてるケド。


『どうして?』


お兄様の手はペンダントに向いている。


胸が握りつぶされそうな程に苦しい。


まさかあの夢みたいに?


点滅は激しさを増す。


あまりの胸の苦しさに息が苦しくなる。


アタシは咳き込みながらもペンダントを握って隠す。


『ストーンは渡さない』


震える声でアタシはお兄様を見据えて言った。


夢では言えなかったコト。


『この前、こんな、夢を、見たわ。その時、も、お兄様は、苦しむ、アタシに構わず、ストーンを奪おうと、した』


息を整えながらゆっくり話す。


「この前?」


お兄様の顔が険しくなる。


わかってない、、、んだね。


『お兄様??』


アタシが呼んだ途端、お兄様の姿がぼやっと消えていった。


『お兄様?????』


「妃杏様???」


景色の歪みは消えていた。


お兄様を呼んだつもりがいつの間にか現実に戻っていたようで、アタシの声は現実の神楽に聞かれていた。


アタシはストーンを握ったままで。


・・・・・全くワケが解らない。


自然と涙が出ていた。


「妃杏様!?」


神楽がアタシの両腕を強く掴む。


表情は強ばっている。


アタシは泣くばかりで何も言えなかった。


アタシは憔悴しきっていた。


ただただ泣くコトしか出来なくて。


神楽の掴む手を振り払ってベランダに出た。


神楽が悪いとか、責める気は更々無い。


でも近くにいるのにどうにもならなかったもどかしさはどう頑張っても拭えなくて。


神楽の顔を見れなかった。


『1人にして』


神楽に背中を向けたままで言った。


するとドアが閉まる音だけが部屋に響いた。


また涙が溢れた。


その後、アタシは夜が明けるまでずっとその場から離れられなかった。


アタマの中は、もちろんお兄様のコト。


ひたすらストーンを見つめたまま。


部屋を出た後、少しして神楽はコーヒーを持ってきてくれた。


だけどアタシは素っ気なく『ありがとう』ってだけ告げるだけだった。


ボロボロ泣きながら。


しばらくして日が昇って来たのを見たら、またボロボロ涙が出てきた。


『神楽?』


泣くだけ泣いてスッキリして、アタシは神楽を呼んだ。


分かってたよ、ずっと。


寝ないで部屋で待機していてくれたコト。


神楽は気付いてたかどうか分からないけど、アタシはチラチラ部屋の方を見てたよ。


颯爽と神楽はやって来た。


「ハイ、妃杏様」


どこにいても何をしていても来てくれる。


ハズなのに、どうしてさっきは来てくれなかったの?


そう思ったらまた泣けてきちゃう。


「妃杏様!!」


いきなり泣き出すアタシに困惑の神楽。


仕方無いよね、イントルードじゃどうにも出来ないよね。


でも最後のお兄様の顔、気になるな。


『車、出してくれる?』


アタシのムチャぶりにも、神楽は笑顔で返事してくれる。


それがまた心無しか、切ない…。


まだ寝ている如月は起こさずに置き手紙をして2人で出掛けた。


向かった先はひだまり園。


どうしようもなく、来たくなったの。


まだ時間が早く、園長先生が外の掃除をしているだけだった。


でもそれで良かった。


ただ来たかっただけだから。


車の中から園長先生の顔を見たら胸が熱くなって涙が滲んできた。


『この時代に迷い込んできて、すぐにココに連れられてきたの』


向かってる途中、道案内するだけで何も話さなかったから神楽がビックリしている。


しばらく車の中からひだまり園を眺めていた。


ひだまり園に来た日のコトやココでの2年間が映像化して浮かんでくる。


涙が滲んできたけど我慢しなきゃ!


もう泣いてばかりいられないよ。


ココから全ては始まったんだから。


何だか衝動的にココに来たけど、来て良かったな。


今までの自分を振り返れたから。


心の中にあったずっと消えなかったモヤモヤがすぅ〜っと消えて、晴れやかな気持ちになれた。


不思議と、心は神がかり的に晴れやか。


『お腹空いた!帰ろっ!!ありがとう』


超スッキリな表情で言うと、神楽も爽やかな笑顔で頷いて車を発進させた。


「お帰り。“出掛けてきます”って、ドコ行ってたのよ」


玄関を開けるなり血相を変えたママが物凄い勢いで駆けてきた。


今日も学校。


なのに朝から出掛けるなんてそりゃいくら置き手紙してったって驚くのが普通だよな。


《ちょっと出掛けてきます。いつもの時間には戻ってきます。心配しないでね!お弁当は如月にお願いしました。神楽・妃杏》


って。


キッチンに行くと、如月がいつの間にか用意したマイエプロンをして楽しそうに準備していた。


「お帰りなさい」


何かを察しているかのような笑顔。


『ありがとね』


アタシ、笑顔で言った。


あんな置き手紙1つだけで頼んじゃったにも関わらず何も言わない如月。


結局神楽には、昨夜のコトも言わなかった。


助けてくれなかったコトを怒ってるとかじゃないよ。


相手がレジスタニアならまだしも、実の兄だから自分で解決しなきゃいけない気がして。


だからあんなにお兄様に言えたのかも知れないな。



「行ってきまっす!」

『行ってきまぁす』

「行ってきます」


3人で家を出るのももうすっかり自然。


痛っっっ!!


今、一瞬ダケだけどアタマに激痛が走った気がした。


思わずアタマを抱える。


「妃杏様?」


すかさず神楽がアタシの顔を覗き込む。


『大丈夫』


作り笑いで答えたけど、、、


頭痛???


まさかねぇ。


ストーンに反応無いし。


でも・・・


頭痛って、イントルードの時に出る現象だよね。


過去2回とも激痛がずっと続いたけど、今回は一瞬。


気のせいだよね。


しかも昨夜の今日なんて、尚更あるワケ無いよ。


ところが、1回では無かった。


璃音と合流して駅に着いた辺りでまた激痛。


「少し休みますか?」


と神楽。


『大丈夫。』


今度は苦笑い。


寝てないからかな。


一応痛み止め飲も。


駅を出てすぐコンビニでミネラルウォーターを買って痛み止めを飲んだ。


「妃杏様?」


ん?


なぜか神楽に呼び止められる。


あ、れ?


アタシ、神楽から離れてる??。


隣を歩いてたハズ・・・だよねぇ。


神楽がちょっと前にいる。


しかもアタシ、歩道の端(道路側)にいる。


神楽は塀側に立っている。


どういうコト?


まさかアタシ、蛇行してる?


「フラフラ歩いてるよ」


人前だからタメ語な神楽。


フラフラ?


そうなの?


自分では自覚症状無いんだけどなぁ。


再び神楽と並んで歩き出す。


校門で分かれる際、神楽は神妙な顔で


「無理なさらないで下さいね」


アタシの側で、小声で言った。


『大丈夫だよ』


今度は普通の笑顔で答えたモノの、痛み止めを飲んだにも関わらず、痛みは未だに治まらない。


フラフラも、自覚し始めてきて。


「大丈夫?妃杏」


璃音も眉を下げて心配してくれる。


「保健室行く?」


如月も憂慮の表情。


『大丈夫!』


アタシは半作り笑い。


アタマが重く感じてきた。


何だろ、やっぱり寝不足だなきっと。


と思っていた矢先の出来事だった。




アタマがボ〜ッとしてきたよ?


座ってるのにフラフラするし。


全然痛み止め効かないし。


何だってんだよ、一体。


先生の声が歪んで聞こえてくる。


「じゃ神崎、この英文を前に出てきて説明してくれ。・・・どうした??」


ん?


顔を上げると先生がアタシを心配そうに見ていた。


机に手を付いて立ち上がった瞬間、、、


一気に視界が激しく揺れて視界が廻り出した。


「神崎??」

「妃杏!?」


それまで歪んで聞こえていたみんなの声が、急にヤケにクリアに聞こえた。






次の瞬間、アタシは真っ白な世界にいた。


良く来るなぁ、ココ。


アレ?頭痛もフラフラも歪みも治まってる。


・・・ま、さ、か???


2日連続来ちゃったぁ?


心拍数、急上昇!!!!!


今日は誰?


ペンダントは?


何これ!!??


※∞♯△♂◎■?????


ストーンが勝手に浮かび上がってアタシの目の高さまで上がってきた。


かと思ったら、ストーンはまっすぐドコかに向かい始めた。


アタシはストーンに引っ張られるようにストーンが向かう方向に歩く。


ドコに行くの?


歩いていると、突然お兄様が現れた。


2日連続でお兄様???


「やっぱり来てくれたね。待っていたよ」


“やっぱり”???


エッ?どういうコト???


眉間にシワを寄せる。


「昨夜、妃杏は“この前”って言ったよね。ソレ、オレも同じ夢を見たんだ」


『夢ぇぇぇ???』


とんでもなく声が裏返る。


「だから、もしかしてオレの潜在意識が何らかの形で妃杏の潜在意識とシンクロしたんじゃないかって考えたんだ」


アタシとお兄様の潜在意識がシンクロ?


「だから、妃杏を強く呼んでみてたんだ、これで」


そう言ってお兄様は、真っ黒な、漆黒とも言えるゴツゴツした、石と言うより岩のようなモノを見せた。


アタシのストーンがその岩のような物体に磁石のように引き寄せられた。


ピタッとくっついている。


コトバが出なかった。


心拍数は速いままでまたしても苦しくなってくる。


肩で息をし出すアタシをお兄様はやっぱりただ見てるだけ。


はぁ、はぁ、


お兄様が笑顔になってる。


狂気すら感じる笑顔。


「妃杏が憎いワケじゃないよ。このストーンが憎いんだ。だからこのデッドストーンをもっと強力にして、その時には直接妃杏の前に現れるよ」


そう言うとお兄様の姿が歪んで、消えていった。


『待って!!!!!』


叫んだ時にはまた景色が変わっていた。


「妃杏!?」


如月と璃音だ。


アタシはベッドの上にいた。


「悪い夢でも見てた?今叫んでたけど」


しかめっ面の璃音。


アタシの額には汗がびっしょりで。


手も凄い汗。


「神崎は帰りなさい。早退届はアタシが出しとくわ。今お兄さんが車を取りに行ってるから。カバンは持ってきてもらってる。神崎兄と笹崎はベルが鳴るから教室に戻りなさい」


保健室の先生がタオルを取り換えてくれる。


“お兄さん”ってコトバに、カラダが強く反応してしまった。


“神崎は帰りなさい”のコトバに顔を輝かせた如月も、その後の“教室に戻りなさい”でかなり肩を落とした。


璃音は吹き出し笑いをしたけど、アタシはちっともソレどころじゃ無かった。


『帰ります。ありがとうございました』


タオルで汗を拭いてアタシはベッドを降りた。


「今アニキ来るよ?」


止める如月にアタシは冷たく言い放った。


『要らない、帰る』


「じゃ行くよ如月!」


キョトンとする如月の手を引いて璃音も一緒に保健室を出た。


『イイよ、授業が始まっちゃうからココで』


階段の前で立ち止まり、璃音と如月と別れた。


「じゃね、妃杏!!お大事に!」


屈託の無い笑顔で手を振り、仔猫みたいな目をしてアタシを見つめる如月を強引に連れて階段を駆け上がって行った。


2人に背を向けた途端、猛烈に涙が出てきた。


今朝、もう泣かないって決めたのに。


ペンダントを握り締めて泣きじゃくっていた。


靴を履き替えて外に出ようと一歩踏み出した瞬間、神楽が必死の形相で駆け寄ってきた。


ドキン!!!!!!!!!!


心臓が激しく動いた。


うつ向いたまま、何も言わず神楽の横を通り過ぎた。


「妃杏様?」


神楽の声がキツく聞こえる。


気にせずアタシはスタスタと歩き続ける。


神楽は何も言わず後ろを着いてきたけど、アタシは車の前すらも泣いたままで通り過ぎた。


いい加減腕を掴まれた。


立ち止まる。


顔は見ずに。


「昨夜からおかしいですよ?いい加減お話し下さい!!どうなさったんですか!!!!!」


見たコトのない、激しく激昂した神楽の声だったけどアタシは怯むことなく泣き叫んだ。


『言ってどうにかなるなら言ってるよ!!!!!言ったってどうにもならないから言わないんでしょ?そんなのも分かんないの?大体何なのよ!!何が“お護りします”よ!!!!!!笑わせるわ。護りきれないSPなら要らないし!1人にして』


自分が最低なオンナだってのは承知だ。


アタシ、サイテー。


今アタシの背後には悲しそうな顔で立ち尽くす神楽がいる。


アタシは、そんな神楽に背を向けて前を見れない程に泣きじゃくりながら校門を出た。


ワケ解んないよ!!!!!


実の兄に憎まれてどうしたらイイかなんて、誰にも解んないよ。


あまりの泣きっぷりに、アタシは近くの公園のベンチで休むコトにした。


「どうぞ」


声と共に、SMTとハンカチが差し出された。


『神楽?????』


ハッと顔を上げるとそこに居たのは・・・・・


『bossぅぅぅ?????』


だった。




























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