真実
眠れなかった。
あれからと言うモノ、一睡も出来なかった。
寝れないからクローゼットの中からワンピースを取り出して見た。
やっぱり同じエンブレムだった。
大きな溜め息が出ちゃったよ。
信じてしまう部分と、信用出来ない部分が入り乱れてて。
ただひたすら呆然としていた。
階段を下りながらボ〜ッ。
喉が渇いてキッチンに下りてもボ〜ッ。
冷蔵庫を開けてもボ〜ッ。
グラスに烏龍茶を入れた後もボ〜ッ。
今日、バイト大丈夫?こんなんで。
行かなきゃイケナイけど。
アタシは2世紀未来の王女で、しかも王位後継者。
だから“困っている人を助けるのがあなたの役目”って教わって来たの??
だからアタシは孤児だったの?
このペンダントが王位後継者の証。
“このペンダントは命と同じくらい大事”って言われてたのはその為だったってコトなの?
言われれば納得出来るコトだワ。
つじつまも、合うっちゃあ合う。
ペンダントが周りの人に見えないのはこの惑星に存在しない石だから。
じゃぁアタシはどうしてココにいるの?
2世紀も先、しかも地球じゃない惑星の人間がどうやってココに来たの????
ソコが謎だワ。
如月サンは時空の歪みが原因だって言ってたけどさ、どうしてアタシ1人?
迷い込んだ?
・・・・・・・・・・分かんない!!!!!
思い出せない。
どーゆーコト??
教えて!?
ペンダントに心の中で問い掛けた。
、、、無反応。
そりゃそうだよね。
イマイチ把握出来ないよ。
どーしたらイイのか分かんないし。
何が何だか分かってないのにどーしたらイイかなんて、分かるワケ無いか。
気が付くと、外は少しずつ夜が明けて来ていた。
眠れそうにないし、このまま部屋にいてもどうしようもないからアタマの中をすっきりさせる為に散歩でもしてくるか。
見慣れた景色。
もう10年チョイ歩いてきた道。
いろんなコト、浮かんでくるな。
パパママと手を繋いで歩いたり、
もちろん通学路だし。
間違い無くアタシが通ってる道だ!
もし仮にアタシがホントに未来の人間だったとしたって、アタシは今ココにいる。
誰が何と言おうとこの街で10年チョイ生きてきたその事実は真実だ。
ソレでイイじゃない。
そうだよ!
そう!
3才の時からココにいるんだから!!
アタシはふと足を止めて昇る朝日を見た。
そしたらモヤモヤが一気にキレイさっぱり吹き飛んでくれた。
アタシはアタシ。
今は神崎妃杏。
ソレでイイ。
ヨシ!スッキリしたトコロで家に帰ってバイトまで一眠りするか!!
『行ってきま〜す!』
スッキリ気分でバイトに向かう。
良かった、回復して。
あんなんじゃバイトどころじゃ無いモンねっ。
何だか今朝はヤケにパパにもママにも甘えたくなって、家に出るまでずっと一緒にいちゃった!
ママは嬉し恥ずかしって様子だったけど。
何か、あんなコトの後だからか余計にそうしたくなっちゃったんだよね。
ヨシ!今日も頑張るぞっ!!と。
店が見えてきて気合いを入れたその瞬間、ペンダントが突然急に激しく点滅し出した。
ハッとして心臓が焼ける様に熱くなって、心拍数も速くなってきて、アタシはたまらず引き返した。
早足で。
如月サンに言われたコトを思い出して言われた通りにしてみる。
コレで何にも起きなかったら如月サンの言ってるコトはウソってコトだもんね!
アタシ、こんな時の方が冷静??
“石の部分を強く握り締めてワタクシの名前を何度も何度も心の中で呼んで下さい”
その通りにしてみる。
“点滅の時は危険を示す証拠”
如月サンそう言ってた。
だから何度も何度も心の中で如月サンの名前を呼ぶ。
今アタシモーレツに心臓がバクバクしてる。
如月サン!如月サン!!助けて!!!
来なきゃ信じないよ!!!
えっっっっっ?????
ペンダントから眩い光が天に向かってまっすぐ一直線に放たれた。
コレが如月サンが言ってた“エネルギー”??
天まで光が届くとさらに強い眩い光が折り返すかの様にアタシに向かってきた。
ペンダントに向かってきた光はペンダントに反射して白いドーム状のバリアの様なモノに変わった。
何…、コレ。
バリアに見とれていると声がした。
「妃杏様?」
『如月サン?、、、じゃあ、無い?』
声がしたから上を見上げてた視線を下に下ろすといつの間にか現れていたのは、格好は同じだったけど、如月サンより背が高くてスラッとしている男性だった。
「ワタクシ如月の上司の神楽と申します」
この人もまた、跪いてる。
ん?
あれ??
『もしかしてこの光、アタシ達以外には見えてない?』
アタシ、気付いちゃった。
アタシからは道行く人が見えてるのに、道行く人、こんな目立つハズの光に誰1人見向きもしない。
「はい、その通りでございます」
顔を上げないまま答えた。
来たのは如月サンじゃ無いモノの、如月サンの言ってるコトはホントだった!!!!
何だか複雑な気分だワ。
しかし、神楽サンもまたホストチックな名前ネ…。
ペンダントの点滅に気付いた神楽サンは、物凄い剣幕で
「すぐ戻ります、このままでお待ち下さい」
って言うからアタシ、無意識のウチに神楽サンの腕を掴んでしまっていた。
自分が一番驚いた。
でも離せなかった。
「ご安心下さい、大丈夫ですから」
なんて優しい笑顔なんだろう。
神がかり的な安心感。
そのまま呆然としちゃった。
ウソみたいに神楽サンは一瞬にしてスッと消えてしまった。
何?今の。
“瞬間移動”?
アタシの前に現れた時も、一瞬のウチに現れたモンな…。
何がどーなってんだ?????
少し整理しよう。
んっと、バイトに、、、
あ゛っっっっっ!!!!!バイト!!!!!
今頃思い出す。
ヤバい!出勤時間過ぎてるじゃん!!遅刻だぁぁぁ。
慌ててカバンからケータイを取り出した。
電話帳から店のデータを探す。
・・・・・、無い・・・よ。
一時パニック。
あれ?????
何で?
じゃチーフに、無い!?
更にパニック!!
それだけじゃなかった。
副店長・店長・バイト仲間のデータがキレイさっぱり消えていた。
何が何だか理解不能。
ただ立ち尽くすしか出来なかった。
「妃杏様?」
神楽サンの声で引き戻された。
アタシ、神楽サンの声聞いたら途端に涙が出てきちゃって…。
声も優しいからつい。
「妃杏様」
泣きじゃくるアタシを神楽サンは、そっと優しく包んでくれた。
アタシもアタシで抵抗しなかった。
と言うより出来なかった。
どうしようも無くて。
「座りましょう」
神楽サンの声は優しいだけじゃなく、心にスッと入って来る。
何だか安心出来る。
「どうぞ」
ゆっくりベンチに腰掛けると神楽サンが何やら缶の様なモノを差し出して来た。
見たコト無いよ、コレ。
得体の知れない物体に戸惑いながらもアタシは手にしてみた。
え゛っっっっっ?????
今触れたら飲み口が開いたよ?
物珍しさにじろじろ見回したり何度も触れたり離したりしちゃう。
「SMTと申します。この時代で言うトコロのスポーツ飲料と栄養ドリンクのようなモノです」
ほお…。
得体の知れなさが倍増したトコロで毒見を。
!!!!!!美味しぃぃぃぃぃ。
表情が和らいだ。
『ステキなお顔をされますね』
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
思わず吹き出しちゃったじゃない。
ナニ歯の浮くようなコトいけしゃあしゃあと言っちゃってくれちゃってんの?
「大丈夫ですか?」
慌ててアタシの肩に手を掛けた。
『んなコト男の人に言われたコト無いから』
少し咳き込む。
「申し訳ありません」
深々と謝られる。
『ヤメて下さい!』
今度はアタシがあたふた。
「先程の点滅はレジスタニアと申します反国家組織のメンバーが近づいていた為に反応した様でして、直ちに逮捕しまして琉冠星にタイムワープさせて参りましたのでご安心下さい」
レジスタニア?
反国家組織???
良く分かんない。
けど、バイトのみんなのデータが消えたコト、聞いてみた。
神楽サンはすかさず答えてくれた。
「レジスタニアは妃杏様に接触するために、あるパワーを使ってあの店に潜入しました」
『あるパワー?』
分からないコトはすぐに聞くべし!!
「フォールアップと申しまして、一時的に歴史を差し替えるコトです」
歴史・・・。
現在なのに歴史・・・。
「フォールアップは異空間移動の際に強制解除されます。その影響で妃杏様があちらの店でバイトされていた事実が一緒に消えてしまったのかと」
そんなぁ!
ヤバッ!!また泣けてきた。
1年ちょいあの店でバイトしてきて、週2〜3日ではあったケドみんなといろいろ思い出あったから。
その思い出が次々に浮かんで来ちゃって。
『ごめんなさい』
そうは言っても泣いてしまう。
「ワタクシが妃杏様をお護り致します」
ドキッとしちゃった。
強い眼差しに。
アタシ、顔、赤くなってない???
何でこの人はこうも言われ慣れていないコトバをさらりと言ってのけれるの?
言われたこっちが恥ずかしいワ。
『ホントにアタシがその王女なんですか?何かの間違いじゃ』
自分でも悪あがきなのは分かってた。
如月サンの言ってたコトはホントだったし、思い当たるコトだっていくつかあるのに。
でも、聞かずにはいられなかった。
「まずはそのペンダント、この時代の方々には見えてませんよね?ソレはその石がこの時代のモノでは無いからです」
如月サンと同じコト言ってるね。
如月サンが着けてくれたブレスレットも、今アタシ達を包んでいるこのドームの様なモノも、この時代には無いモノだからこの時代の人達にはアタシ以外見えないらしい。
現在なのに歴史とか、この時代に確かに存在するのにこの時代の人には見えないモノを持っている・・・。
胸がよじれそうな程苦しくて痛い。。。
でも、ペンダントから天に向かって光が放たれたりするくらいだしね。
やっぱりアタシはフツーじゃない?
無駄な抵抗か・・・。
『じゃあアタシはどうしてココにいるの?』
いくら考えても腑に落ちなかったコト。
「妃杏様の3歳のお誕生日の日」
3歳の誕生日??
そう言えば、ひだまり園で誕生日を聞かれて答えた時、“「昨日?」”って驚かれたっけ。
「お疲れになってSPとお部屋に戻られたお姿を確認したのが最後だったそうです」
部屋でSP。
前に脳裏に浮かんできた風景がまた浮かんできた。
と、次の瞬間だった。
突然、猛烈な全身の激しい震えに襲われた。
あの時のコトが、フラッシュバックのように甦って来た。
『部屋でピアノを弾いていたら突然窓が割れて、武装した人達が進入してきました』
震えと共に涙も出てきた。
「妃杏様??」
神楽サンの声がひきつっている。
強くアタシを抱き締めて。
アタシは怒涛の記憶のフラッシュバックに耐えられない。
喋らずにはいられない。
『部屋にいたSPがアタシを連れて逃げてくれました。でも、逃げてるウチに次から次へと消えていなくなって。気が付いたら1人で無我夢中で走ってて』
またしてもこの10年一度も思い出さなかったコトが、たった一言で怒涛の如く思い出して。
「消えた?妃杏様の目の前でですか?」
アタシは小さく頷く。
話し終わった後もしばらく震えと涙が止まらなかった。
落ち着かせる為に残っていたSMTをイッキに飲み干した。
少し気が落ち着いた。
バイトに出掛けたのは昼前だったのに外は日が沈み初めていた。
ココまでの疑問を全てぶつけてくウチにいつの間にかすっかり落ち着き、涙もひいていた。
話を聞けば聞く程にアタシが“この時代の人間じゃない現実”が次々に明らかになっていくのだが。
中でも一番現実味を帯びたのが、“なぜアタシはレジスタニアに狙われているのか”だった。
“「ヤツらの目的は妃杏様ではなく、ストーンに間違いありません」”
って。
“「むやみやたらにストーンに触れるとストーンの怒りに触れます。過去に何度かレジスタニアがストーンの無効力化を試みましたが、その度に当事者のレジスタニアは宇宙の彼方に追放されておりますので恐らく妃杏様に近付いた後に何らかの形でストーンを奪い取ろうとしているに違いありません」”
アタシは全身に凄まじいスピードで鳥肌が立った。
『アタシ、殺されるの?』
「それは無いとは思いますが、ワタクシが責任を持ってお護り致します」
まっすぐアタシの目を見て言ってくれた。
それが神楽の仕事だって分かっていても、心の中は激しくドキドキしていた。
「御自宅に戻られますか?」
神楽サンが立ち上がった。
『神楽サンも?』
神楽サンの顔を見上げる。
「妃杏様、先程から申し上げるタイミングを逃しておりましたが」
ん?
首を傾げる。
「敬語はおヤメ下さい」
前に倒れ込みそうなくらい拍子抜けした。
正直、“そんなコト?”って。
「ワタクシはこのドームに入ったままで離れたトコロから妃杏様をお護り致しますのでご安心下さい。ワタクシがこの中にいる時は妃杏様がワタクシと話していても周りには話していないように見えますので」
そう言われ、渋々見えない神楽…を連れて帰宅した。
『ただいまぁ!』
心の中はそこまでテンションは高くないけど、挨拶くらいは元気良く!!
ん?
玄関には見慣れない男物のブーツがある。
お客様?
ん???神楽と同じブーツだ。
・・・・・まさか!?!?!?
思い切り顔を歪ませた神楽と目を合わせる。
つられてアタシもヒドイ顔になる。
「お帰り神楽、妃杏!!如月先に帰ってきてるよ」
やっぱり。
ママが顔を出して叫んでる。
神楽が肩を落として愕然としている。
頭に手を当ててすっかり項垂れて。
神楽は見えてないんじゃないのかぃ!!!
「お帰りなさい!」
あっけらかんとした如月が玄関に出てきた。
「如月ぃぃぃ」
神楽の凄みのある低い声に尋常じゃない気迫を感じずにはいられなかった。
如月じゃなく、アタシが怯んでしまう。
強い力で如月の腕を掴み神楽は玄関を開けた。
『アタシの部屋で話そ!』
その場を収めようとするアタシ。
外に出ようとする神楽を制止し、ひとまず2人をアタシの部屋に連れていった。
「なぜキサマが勝手に神崎家にいるんだ?なぜ勝手にフォールアップしてんだ?誰に断った!」
神楽の凄まじさに、如月たじたじ。
見てるアタシが痛かった。
時代は変わっても上司と部下の関係は変わらないんだね。
厳しい上司に暴走部下ってトコ?
アタシは雑誌を読んでて聞いてないフリ。
しっかり聞いてるけどね。
“フォールアップ”ってコトバに反応して、昼間のコトを思い出してグズったり。
「我々が妃杏様の兄ってコトにしました」
上目遣いでチラチラと神楽の表情を伺っている如月。
横から見れば一目瞭然だ。
「我々が妃杏様の兄だと?なら我々は妃杏様に対して不相応な言葉を使わなければならないのか?しかも常に直接妃杏様に付いていなければならないんだぞ?妃杏様に多大なご迷惑をお掛けしてしまうんだぞ?ベースバックは免れんな」
ベースバック??
良くないコトなのは如月の姿を見れば分かるな。
さっきの神楽並に肩が落ちてるモン。
「妃杏様」
さっきまでの迫力とはうって変わって言いづらそうな神楽。
「フォールアップは修正出来ません。我々以外の方達の前では便宜上不相応な言葉遣いになるコトを御許し下さい。また、本来であれば離れたトコロから周囲に見えないような形で妃杏様をお護りするハズでしたのを直接、しかも2人も常に側に付かさせて頂くコトをご容赦下さい。処分はきっちり致しますから」
如月の憔悴しきった顔に、アタシは素直に“「うん」”て言えなかった。
『処分て?』
アタシまで上目遣い。
「如月はまだ研修生です。見習い生は研修期間中にペナルティを2つ出してしまうと、即“アカデミア”と申します養成施設に戻ってやり直ししなければなりません」
・・・はぁ。
ただ頷く。
「今回如月は報告ミスを2つもしてしまい、挙げ句の果てには妃杏様に多大なご迷惑をお掛けしてしまうと言う、前代未聞なコトをやらかしてしまいました。恐らく如月はベースバック確定です」
うわっっっっっ!!!!!
如月の顔、見るに耐えないワ。
生気がなくなってる。
『今すぐって、もうママ達の中では如月も神崎家の人間なんでしょ?なのにいなくなったらワケ分かんないよ。それと、言葉遣いは気にしないで。だからそのベースバック、何とかしてあげて』
如月の表情が緩んだ。
フワッと明るくなったように見えた。
『やっぱり研修生である以上、報告ミスは良くないわ。だから、その1つダケにしてあげて』
アタシ、何偉そうなコト言ってんの?
でも、如月、嬉しそう。
神楽はしばらく考え込んでいる。
「かしこまりました、ではbossに報告致します」
boss?
えっっっっっ?????
神楽が身に着けていたペンダントに手をかざすとフルカラーのスクリーンのような立体映像が浮かんだ。
息をするのも忘れるくらいの衝撃。
え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛??????????
人が現れたぁ!!!!!!!!!!!!
しかも立体で。
またしても跪いてる。
コレ、3D以上だよねぇ。
4D?5D???
ハイビジョンよりも映像キレイだし。
何Kなのよ!!!
はぁぁぁぁぁ。
恐るべし、技術進歩。
「妃杏様、初めまして」
しゃ、喋ったぁぁぁぁぁ!!!
心臓、尋常じゃないくらいバクバクしてる。
苦しささえ感じる。
今のアタシの心拍数、計測不能なんじゃないだろうか…。
「ロイヤルゲートの最高責任者を仰せつかっております、朱雀と申します。この度は如月が多大なご迷惑をお掛けしておりますコト、謝罪のコトバもございません」
bossが朱雀。
ホントにホストっぽいぞ?
結局アタシの恩赦(?)が無ければ如月はベースバック確定だったと言うコトで、ベースバックは免れたモノの、執行猶予付で半年だった研修期間を1年延長ってコトでカタがついた。
かくして数時間にして3人家族からイッキに5人家族の、アタシにとってはハチャメチャな生活が始まった。