それぞれの朝
私の記憶は、およそ12歳の後から抜け落ちている。
キルト達と旅に出たのが15歳だから、その3年前。
まあ旅に出た時期は、パーティーの皆から聞いたものなのだけれど。
初め、あの部屋で目を覚ました時、自分の事を12歳と思っていた訳じゃない。
抜け落ちた、記憶の空白を感じた。
5年分の空白。
すぐ手に届くはずの過去、昨日という存在が、朧げだったあの感覚。
あれだけは忘れない。
あれだけは忘れられない。
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ふわぁ、と、あくびをする。
朝の日差しが、ぼんやりとした頭に染みる。
何か夢を見た気がする。昔の事だろうか。
隣を見ると、リーフがいた。ベットの上で寝相よく、だけどすやすや眠りこけている。
ちょっとした悪戯心が芽生えたけど、まだ寝かせておいてあげよう。
着替えて顔洗ったら、少し残る眠気を飛ばす為にも、外で朝日を浴びにでも行こう。そう思った。
◇ ◇
朝日を浴びに外に出ると、フィーリュがいた。
フィーリュの、太陽光を乱反射する髪が、朝日を浴びて煌めいている。
綺麗な白い髪はまあまあ珍しいので、すぐにフィーリュだと分かる。
「おはよう。相変わらず早いね。」
「おはよう、キルト。相変わらずなんだね。私。」
僕が声をかけると、微笑んで挨拶を返してくれた。
『相変わらず』は余計だったかな、とも思ったが、本人が気にしていないようなので、自分も気にしないことにする。
「朝ごはんどうするー?私が何か作る?」
「いや、今日はパンとかでも買ってこよう。何食べたいとかある?」
そんな事を話していると、カゼットが起きてきたらしい。
「おはよー。」
「おはよー。相変わらずお前ら早いな〜。おじいちゃんおばあちゃん?」
「酷い言い様だなおい」
軽く突っ込みを入れると、けらけら笑うカゼット。
「そういや、リーフはまだ起きて来ないの?」
「そらなぁ。あいつ、毎日朝寝坊してよぉ。まあ、起こすのは朝食買ってきてからでいいんじゃないか?」
「それもそうだなー。」
そう軽い返事をして、僕達はこの後の行動を決めていく。
◇ ◇
朝食を買って戻って来ると、リーフはまだ寝ていた。
そろそろさすがに起きてもらわねば。
「おーい、朝だよー。起きてー。リーフー。おーい。お〜い。お〜〜い!!!!」
この人全然起きないのだが。私、結構大きな声で呼んだよね?
「お〜き〜て〜!」
そう言いながらゆさゆさ揺すると、やっと反応を示した。
「おかしいなぁ…フィーリュがいつもより優しいぞぉ…?起きてあげても良いかもしれない…」
優しい?私、前はもっと乱暴に起こしてたのかな?
「起きてください。あげるとかじゃなく普通に起きて?」
「仕方ないなあ。では起きてあげよう。」
すると、リーフ足を思いっきり振り上げ、勢い良く振り下ろし、その反動で飛び起きた。
「くぁぁぁあ〜おはよぉ〜フィーリュ早い〜」
「リーフが遅いだけだと思うけど…もう皆揃ってるよ。着替えて顔洗って朝ごはん食べに行こ。」
「ふぁぁぁああい…」
あくびをしながら返事をするリーフに、私は呆れるしか無かった。
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宿屋の一階に、テーブルとかがたくさん置いてある場所があったから、そこで朝食をとる事にした。
「朝ごはん食べ終わったらどうするの?」
私の素朴な疑問には、リーフが
「次の目的地に出発する予定だよ。前の旅はずっと南西の方に向かっていたから、今回も同じ様な感じで行こうと思っていたんだけど…そもそも前の旅の出発地点がもっと東北だったからさー。どうする?」
と、リーフが返してくれた。
確かに、今の地点から前の旅の目的地までは、一週間もかからずに到着出来る。
これでは、本来の目的は達成できないだろう。
「じゃあ、取り敢えず一番近い冒険ギルドのある街に向かうってのはどうか?リーフが盛大に使っちまったから、路銀も稼がなきゃだし…」
と、カゼットがリーフの方を軽く睨みながら言う。
リーフが気まずそうに目を逸らす。
「けっ…結構良い案なんじゃない?私はこれで良いと思うけど…皆はどう思う?」
話を逸らしたともとれるリーフの声に、私達が賛成の声をあげたため、この話題は一旦終了となった。
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キルトが丁度、私達の次の目的地の「シェクテーラ」へと向かう馬車を捕まえて、護衛を条件に乗せてもらえることになった。
馬車の持ち主は、最近魔物が多いと聞くからありがたいと言ってくれていたそう。
ちなみに、シェクテーラへは、大体馬車で3日位。
「そろそろ行くぞー」
「「はーい」」
もうすでに馬車に乗り込んだ男子組と、ちょっと出遅れている女子組。
ふわぁ、と、あくびをしながら、私は馬車に乗り込んだ。
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