旅立ち
「記憶喪失ですね。頭に強い衝撃があった時、稀に有るんです。ただ、海馬が破壊されてから魔法で治療したわけではなさそうなので、絶対に思い出せないという事はないですかね。」
医者はそういった。
私は、あるパーティーの一員の、魔法使いだったらしい。何かの戦いの後、1カ月の間意識が戻らなかったというのだ。
緑の三つ編みの子はリーフ、赤い髪の青年はカゼット、黄色い瞳の青年はキルトというらしい。
パーティーの皆から、様々な冒険譚や思い出話を聞いた。でも、憶えている事は無かったし、聞いた事を覚えている事すら難しかった。
やはり、自力で思い出すしか無いのだろう。
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あれから数週間。回復した私は、前と同じメンバーで旅に出ることになった。
今まで歩んできた旅路をなぞるように。
それが一番記憶を取り戻せるかもしれないと言うことだった。
「まずは改めて自己紹介。僕は剣士のキルトだ。」
「俺はカゼットだ。同じく剣士。」
「私は僧侶のリーフ。よろしくね。」
これから、私の記憶を取り戻す…私自身を取り戻す旅が始まる。どんな旅になるのだろう。どんな思い出が眠っているのだろう。そんな事に思いを馳せながら、私たちは馬車に乗り込んだ。