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第4話《理解》

 無音だった。

 目を覚ましたそこは師匠の建物だった。確か”家“とでも言っていたような……。

 (あぁ、そっか。僕師匠に襲い掛かったんだった。でも、その後どうなったんだろ。思い出せないな……)

「…………」

 もう動きたくない。

 思い出すだけで頭が痛くなる。これが「負の感情」か。馬鹿馬鹿しい。


 どうにも体が動かなかった僕は、顔だけ動かして辺りを見渡した。部屋の中は相変わらずシンプルで、生活感はない。何故こんなところに師匠はいるのか、という疑問がわく。

 風さえ吹かない間

 今なら死んでも痛くないかな、と思うほどにそこは死の空間だった。


 もうすっかり日が上がっている。


(ん?今日なんかあった気が……)

 ガバッ!!

「ヤッベ!!修行!!!」

 布団を蹴っ飛ばして、ドアを開けて今までにないぐらいの急いで飛んだ。後ろで誰かが見ている気がしたが、きっと気のせいだろう。


「すっませーん‼︎‼︎遅れましたー‼︎‼︎」


 バランスを崩しながらも無事着地した。そこにはもう動物たちの姿は見当たらなかった。

 僕は恐る恐る講師の顔を見た。その顔に怒りなんてなかった。

「今日、おまえは体調不良で来ないと聞いていたが……」

「誰からですか?そんな伝言した覚えはありませんし、伝える相手が僕にはいません」

「おまえ……私は“神”に言われたぞ。おまえ、あの神と一緒にいるんじゃないのか?」

「……っ」


 何も言えなかった。だって、師匠と一緒でないわけではないが、「常に?」と聞かれたらハイとは言えない。

 あぁ、なんて難しい。


「大丈夫です。どこにも異常はありません。やります。」

「でも、神g」

「やります!!!!」

 僕はぐちゃぐちゃの思考を吹き飛ばしたくて大きな声を出した。いや、正確には怒鳴っていただろう。

 その時、いつもは嫌で嫌でしょうがない修行が、単なる心の逃げ道となった。そうだ、私は弱かった。


 ほら、光ってるでしょう。あれは“星”です。人間がそう呼んでいました。


 現実に引き戻される感覚がして、僕はおもむろに目を開けた。空が真っ暗だ。

 夜が来る。汗だくなのは相変わらず。だが、今日、師匠は僕の元を訪れなかった。


「なんで神は僕にあんなこと言ったんだろう?よっく分かんねぇなぁ……」

「だら私のことは師匠と呼んでくださいって何度も……」

「ふわぁ!?」


 変な声が出てしまった、恥ずかしい……。

「し、師匠!いたんですか!?失礼しました!」

 師匠は僕を見たままじっとして動かなかった。そして思い出したかのように僕の顔を覗き込み、僕の隣に膝を抱えて座った。

「ど、どうかしましたか師匠?」

 師匠は僕のほうを一度見て、ゆっくりと瞬きをした。


「そういえば、自己紹介をしていなかったなぁと思って……」

「そうでしたね、していませんね。今からしますか?」

「はい。では私からしましょうかね」

 そう言うと師匠はすっと立ち上がり手と腕を大きく広げて僕のほうを見た。

 次の瞬間、師匠の後ろの空間だけがぐにゃりと歪に曲がり始めた。そして、その歪な空間は師匠の後ろにある空から地面のすべての空間を支配していった。僕は、黒く染まっていく空をただ呆然と見ることしかできないでいた。

「私の名はホワイト・エンデット。神です。神様と同じ位に立ち、それ以上の力を持つ者です」

 そう言って師匠はさっと手をおろした。その瞬間後ろの空間は消え、まるで何もなかったかの様な風景になっている。風だって吹いている。

「大丈夫ですか?クルゥ?」

「あっ!いえ!大丈夫です!」

 危ない。僕は声をかけられて初めて自分がぼーっとしていたのに気が付いた。僕は師匠の目を見て1つ師匠の真似事の様な[笑顔]を作って見せた。師匠は困った様に眉を下げる。

「本当に大丈夫ですか?どこか悪いのでは」

「いいえ、本当にもう大丈夫です。師匠のお名前を聞けて良かったです!」

「それでは次はクルゥですよ。お願いします」

 師匠は[笑顔]を作り僕を促した。あれが[笑顔]かなんて考えながら、僕は促されるまま師匠の前に立った。2人の間を抜ける風にわずかな[心]を溶かして僕は翼を少しだけ開いた。

「ぼくは……」

 少し口を噤んだ。さっきから師匠の喋り方を聞いていて、僕はその口調が[かっこいい]と思っていた。で、僕も[かっこいい]になりたい、なんてちょっとした出来心。今になってみると、こんな単純な動機だったなと笑いが出る。まだ彼は知らない感情なのだろうけど。

 意を決し、口を開く。

「私の名はクルゥです。訓練生の身です」

(これで……いいのか?)

 目線を師匠に合わせてみた。師匠は僕の方を見てぼーっとしている。

(大丈夫でないのは師匠の方では……?)

「師匠?何かありましたか?」

「終わりですか?」

 その言葉を聞いて、僕の頭にはたくさんのはてなが浮かんだ。

「もっともっとクルゥについて教えてください!もっともっと知りたいです!」

「え!?ちょっ、師匠!?」

 師匠は目を輝かせてぐいぐいと近付いてくる。

 結局、僕はどうすればいいかわからなくなってただあたふたしていた。

 それは私の愛おしい記憶となっている。

 その日は星が綺麗だった。

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